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いしだ壱成、90年代ドラマ『未成年』で見せた俳優としてのすごさ――「痛いおじさん」から脱却できるのか

▼タイトル
1:いしだ壱成、90年代ドラマ『未成年』で見せた俳優としてのすごさ――「痛いおじさん」から脱却できるのか
2:いしだ壱成、輝いていた90年代から「痛いおじさん」と揶揄されるまで――哀愁を武器に復活なるか

――ドラマにはいつも時代と生きる“俳優”がいる。『キャラクタードラマの誕生』(河出書房新社)『テレビドラマクロニクル1990→2020』(PLANETS)などの著書で知られるドラマ評論家・成馬零一氏が、“俳優”にスポットを当てて90年代の名作ドラマをレビューする。

 昨年12月、いしだ壱成がインスタライブでパワーストーンを売りつけようとしたというニュースを知った時、なんともやりきれない悲しい気持ちになった。

 いしだは生活費に困っており、24歳年下の妻とも離婚。その後、今年3月にトルコで植毛手術をし、俳優としての再起を目指していると報じられた。

 現在、いしだは47歳。痛々しいおじさんになったと彼を揶揄する声がネット上にはあふれているが、同じくらい聞こえてくるのが、90年代のいしだ壱成のすごさを熱心に語り、懐かしむ声だ。
  
 90年代前半は、歌番組が続々と終了し、アイドル冬の時代といわれていた。SMAPもまだブレーク前で、歌番組という主戦場がなくなったことでドラマ、バラエティといったほかジャンルに進出するために、メンバー各々が試行錯誤を繰り返していた頃だった。昭和から平成へと時代が変わる中、旧来の芸能界の仕組みは大きく崩れ始めていた。

 その間隙を縫って、颯爽と現れたのが、いしだ壱成だった。いしだは、1992年にSPドラマ『悲しいほどお天気』(フジテレビ系)で俳優デビュー。その後、若者向けドラマ枠「ボクたちのドラマシリーズ」(同)の第1作となる『放課後』で観月ありさの相手役に大抜てきされた。本作は高校生の男女二人の体が入れ替わってしまう青春ドラマ。いしだは女子生徒の内面を持った男子生徒を好演したことで、一気に注目を集める。

 当時のいしだは武田真治と共に、女性モノの小さいシャツ(チビT)を着て、テレビ番組やファッション誌を席巻していたため、フェミニン(女性的)な色気を持つ男性、通称“フェミ男”と呼ばれていた。二人の姿を見て、これまでの男性アイドルや若手俳優とは全く違う、新しい時代のスターが現れたと当時は感じた。

 いしだは歌手としてもデビューしているが、デビュー曲はいしだ自身が作詞作曲した「WARNING」というレゲエだったことも斬新だった。芸能人というよりは、センスの良い、少し年上のお兄さんという印象だった。

 一方で、彼が俳優・石田純一の息子だということは、すぐに知られるようになった。俳優デビューも父親のコンサートで知り合ったテレビ番組のプロデューサーの目に留まったためであり、今振り返ると生粋のサラブレッド。ただ、“石田純一の息子”という肩書は当時、いしだを支持していた若いファンにとっては全く関係なかった。

  93年には、野島伸司脚本のドラマ『ひとつ屋根の下』(同)に出演。本作は江口洋介演じる長男が、バラバラだったきょうだいたちと暮らすホームドラマだ。いしだは自動車修理工場で働く元不良少年の三男・柏木和也を演じた。全話平均視聴率28.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を獲得したメガヒットドラマとなった本作に出演したことで、いしだの知名度は一気に全国区となる。

 その後も快進撃は続き『じゃじゃ馬ならし』、『君といた夏』といったフジテレビ系の青春ドラマに次々と出演。そして95年には、野島伸司脚本の青春ドラマ『未成年』(TBS系)で連ドラ初主演を務めた。

 いしだが演じたのは、ヒロこと高校生の戸川博人。父親との関係がうまくいかず、兄の恋人の萌香(桜井幸子)に恋心を抱くヒロは、自分と同じように疎外感を抱えた少年少女たちと心を通わしていく。いしだの演技は、映画『エデンの東』のジェームス・ディーンを彷彿とさせ、思春期の少年が抱えるナイーブな心情を見事に表現していた。感情の発露が極端で、演技として過剰すぎる場面も多かったが、エキセントリックな作風で知られる野島伸司のドラマにハマっていた。

眩しかったからさ。そうさ。ただそれだけなんだ。
オレたちの季節は、いつだって瞬間、真っ白になっちまう。
何よりも一番大事な時に(第3話)

 というような、文字にするとナルシスティックで詩的すぎるモノローグも、いしだが言うと説得力があった。そして最終話、テロリストと間違えられて警察に追われるヒロが、仲間を救うために学校の屋上で大演説をする場面は、ドラマ史に残る名シーンである。野島の作家としての主張が強すぎて、ドラマとしてはバランスを欠いた作品だったが、いしだの演技に関しては完璧な仕事だったと言えるだろう。

 『未成年』以降も、『聖者の行進』(TBS系)や『リップスティック』(フジテレビ系)といった野島ドラマに出演し、俳優業は順調だった。しかし、2001年に大麻・LSDを所持していたことから大麻取締法違反で逮捕され、執行猶予付きの有罪判決を受ける。それ以降、テレビドラマの仕事は激減した。園子温の『気球クラブ、その後』や瀬々敬久監督の『涙壺』といった映画に出演し、俳優業を続けてはいるものの、出演作は年々減っている。

 近年はバラエティ番組での発言やゴシップ記事が話題になるばかりで、俳優としての全盛期を知る者としては寂しいものがある。

 ただ、今年8月、いしだは映画『100日後に退職する47歳』(DVDと配信)で、久々に俳優として主演を務めた。石田純一と親子共演する映画『散歩屋ケンちゃん』の企画も動いているようで、少しずつだが、彼を取り巻く状況が変化しているのが伝わってくる。

 パワーストーン事件以降のいしだの振る舞いに、当初は痛々しいものを感じていたが、最近の姿を見ていると、おじさんになったが故の哀愁に魅力を感じる。47歳のいしだだからこそ演じられる役はたくさんあるはず。この哀愁を武器に、名バイプレイヤーとして完全復活してほしい。