『WORLD EXPO 2030 BUSAN KOREA CONCERT BTS <Yet To Come> in BUSAN』(以下、釜山コン)の開催を1週間後に控えた10月8日、韓国の音楽授賞式『2022 THE FACT MUSIC AWARDS』(以下、TMA)が、ソウルのオリンピック体育競技場で3年ぶりに有観客で開催。BTSも2曲を披露し、大賞を含む7つの賞を受賞しました。
Mattが1列目ど真ん中で観戦したという自慢や、平子理沙や橋本梨菜、レペゼン地球、ローランドなど謎の人選で招待された日本人が、各々のSNSで報告していた一方で、またもや荒れていたのはARMYたちです。
TMAに参加していた日本人ARMY(以下、イルアミ)に対し、韓国人ARMY(以下、本国アミ)から批判が殺到していたというのです。
頭上にスマホをかかげての観覧や、曲中のコールをまったく叫ばないどころか、メンバーへの名前への掛け声すらない始末、などなど。
この頃には、釜山コン当選者専用のオープンチャットは、1〜8まであるスタンディング席のブロックごとに分かれており、筆者がいたグループにも学級委員がやってきました。
<今回のTMA、イルアミめちゃくちゃ叩かれていますよ(中略)やることありますよ、イルアミ…。毎日毎日聴いていれば、耳が覚えるんです。口ずさめるようになるんです。>
つまり、オムツ云々言う前に、新規勢は曲を覚えて掛け声もすべて丸暗記しろと。楽しむよりもマナーと統率を遵守せよと。
うぜえ。と、思ってしまった筆者はARMYの風上にも置けませんでしょうか。
BTS、東京ドームでサプライズ合唱企画のはずが「し―――――ん」
筆者には、2018年11月に、初めてBTSのライブに参戦したときの苦い思い出があります。K-POPアイドルのライブが初めてだった筆者は、事前にTwitterでローカルルールを調べまくっていました。するとなにやら「アンコール中、メンバーに向けてサプライズで合唱企画をやります! だから通常のアンコールの呼びかけは絶対に行わないでください!」というアナウンスがTwitterに上がっていました。
当日、素直に従おうと思った筆者。でも、待てど暮せど合唱の合図もなく、声も聞こえてこない。かすかに「るるる〜〜」みたいな、東京ドームのドアの隙間から風が通り抜けたかな? という音は聞こえてきます。
結局、アンコールの時間中、マッジで、し―――――んとしたまま時間がすぎ、し―――――んとしたままの会場に、気まずそうな表情のメンバーが戻ってきたのです。
し――――――んとした東京ドームに入ってくるスーパースターなんて、後にも先にもあのときのBTSだけではないでしょうか。
もうあんな顔、二度とメンバーにさせたくない。
もう誰の指示にも従うもんか。ていうか指示ってなに? あんた誰? バイトリーダー? はあ?
という反抗期の中学生のような猜疑心をあの日からずっと持ち続けている筆者は、とにかく「大人として最低限のマナーは守りつつ、自分がめいっぱい楽しくしていよう」という態度でライブに挑んでいます。
だから今回の学級委員の言うことも聞くもんか!
……というのは、どうも筆者だけではなかったようで、他ブロックのグループチャットでは、学級委員VS反抗期中学生で争いが勃発。グループラインを抜けたり、「おそろいでこのアイテムを持っていこうね♪」みたいなノリも消滅したというのです。
その点、筆者のグループは大人が多かったからか荒れずに済んだようでした。オムツの話題がもっとも白熱していたくらいですからね。
BTS、現地スタッフが「水分は極力取らないほうがいい」
さていよいよ釜山コン当日の10月15日。ソウルから釜山へ向けバスで出発した筆者は、現地HISスタッフに「トイレがないから、水分は極力取らないほうがいいです」と脅され、水を30mlほど、そしてサービスエリアでこの日最初で最後となるごはん、ソーセージ&トッポギ串を1本おなかに入れ、渋滞はまったくなくスムーズに会場に到着しました。
午前10時30分。
さっそく本人確認の列に並ぼうと、なんとなくできている行列の最後尾を探しますが、歩けども歩けどもたどり着かない。途中、列に並んでいるイルアミらしき女性に「この列、本人確認の列ですか?」と尋ねるも「たぶん……」と首を傾げます。20分に一度の割合でしか見かけない韓国人スタッフに聞いても、「わからない」とのこと。スタッフさえ混乱を極めているようです。
というか、明らかにスタッフの数が少なすぎます。整列テープもなければ、みんなどこに向かっているのかもわからない。行列に並んでいる人なのか、ただ歩いている人なのか、その見極めもつかないカオスな敷地内。
ようやく行列の最後尾らしき場所を見かけ、並ぶこと1時間、2時間、3時間……。
やっと見えてきた本人確認ブースは、サッカーコートほどの大きさの芝生の敷地を経た、奥にありました。
芝生に足を踏み入れると、1時間ぶりにスタッフに会い、整列するよう促されます。が、芝生上はやはり整列テープなどありません。
蛇行して列を作ろうとするARMYと、あとから来てまっすぐにブースを目指すARMY。当然、衝突地点にうねりが生まれ、乗車率500%くらいの埼京線状態に。
「Do not push!」
「やめてください! この人割り込みしてます!」
「Ayúdame!」
各国の怒号が飛び交いますが、先日池袋のサンシャイン60のフレンチレストランで大暴れしたチャイニーズドラゴンのようにはならないところをみると、心根の優しさを感じます。
イルアミから「もらってくださいね♪」圧迫状態の中で渡されたもの
さらに。
ぽんぽん。
突然、後ろから筆者の肩を叩く者が。すわ、ついにチャイニーズドラゴンかと振り向くと、イルアミが手作りらしきクッキーを見せながらにっこり。
「ソンムルです。もらってくださいね♪」
「えっ、あぁ……ありがとうございます」
“ソンムル”とは、K-POP界隈のプレゼント交換文化のこと。お近づきの印に自作のちょっとしたものをプレゼントし合うのですが、なにもこんな圧迫されながら渡してこなくても……。これも「この異常な情況を和ませたい」という優しさからくるのでしょうか。
その証拠に、このとき突然頭上を旋回するドローンに対し、みんなさきほどの怒号とは打って変わって「キャー!」なんて黄色い声で手を降っていました。ARMY、優しすぎィ! 筆者には、蜘蛛の糸に手を伸ばす地獄の民を天上からあざ笑っているようにしか見えませんでしたよ……。
この日の釜山は24度。トイレ対策のために厚着をしてきたことがあだとなり、脱水症状寸前の危険信号が体から出ているようで、喉は渇き、足はもつれ、脳内がぼんやりとしてきて……。
もう……だ………め…………。
筆者が本人確認ブースにたどり着いたのは、会場到着から6時間後のことでした。
そこには、約30台ほどブースが並んでいました。それぞれファーストネームの頭文字ごとに該当ブースへ行き、本人確認とチケット受け取りを済ませるというシステムです。筆者は「H〜」と書かれたブースに行き、チケット予約票とパスポートを提示します。
「OK!」
するとスタッフの若い女性が、手元にある膨大にあるチケットのなかから、筆者の名前が書かれたチケットを探し始めたのです。
なんて途方もない人力!!!! 6時間並んだのも頷けるアナログなシステムです。
いよいよBTS釜山コンの会場入り!
その後は会場入りの列に、整理番号順に並びます。筆者のブロックはすんなりと会場へ入ることができましたが、ライブが始まっても入場することができず、2曲目の途中でようやく入ることができたブロックもあったと聞きます。
地獄を経て目の当たりにした彼らは、あの6時間を当然のように一瞬で払拭するオーラを放っていました。
もうなんでもいい。本国アミがスマホとGopro2台持ちで頭上にかかげていようが、厚底ブーツたちが前を陣取ろうが、なんでもいい。表情が見える距離で彼らと同じ空気が吸えるなら、何度だって地獄から這い上がる価値がある。
ひもじい思いも全然するし、尿だって垂れ流してもいい。ただただ、彼らに感謝しかない。天国って、ほんとうにあるんですよねえ。
午後9時30分。
夢見心地のまま再びHISバスに乗り込んだ筆者を、瞬時に現実に引き戻したのは、鼻孔を刺激するアンモニア臭。ほんとうにいたんだ、オムツARMY……。臭気発信源の隣席のARMYに同情しつつ、筆者は500mlペットボトルがベコッとなる勢いで水を吸い飲みました。
そんななか、後部に座るカップルの会話を聞き、最後の最後までARMYの優しさに触れることとなるのです。
「私がライブ中、どこに行ってたの?」
「俺、ずっと『釜山シネマセンター』で映画観てたよ。3本ぶっ通しで見た(笑)。スタッフに変な目で見られたんじゃないかな〜(照笑)」
なんとこの男性、早朝一緒にバスに乗り、釜山に着くとパートナーの女性がライブ中はずっとひとりで映画を観ていたというのです。ほかにも女子高生に付き添っていた母親&兄の姿も。
自分を顧みず、推しに会う家族やパートナーに無償の愛を注いでいるのです。それもこれも、ARMYにいつも愛を教えてくれるBTSのおかげではないでしょうか。
さて、バスは渋滞もなく深夜2時30分にソウルに到着。筆者はまだここからミッションがありました。それは、ライブに参戦できなかったアミ友たちへのお土産を買うことです。
筆者が狙っていたのは、「CU」という韓国のコンビニ限定で発売している、BTSのT-money(韓国の交通系ICカード)。鐘路周辺の「CU」計7店舗ほどすべて回りましたが、どうも違和感を覚えるのです。
片言の英語で「BTSのカードありますか? SUGAは?」など個別メンバーの名前を伝えると、バイトの若い韓国人男女が皆一様に首を捻るのです。
どうも、「BTSは知っているけど、メンバーの名前と顔は一致していない。まったく興味がない」という反応なのです。
BTSは韓国で莫大な経済効果を生み、画期的な兵役免除議論も勃発したほどの、超国民的な存在ではないのか。それはARMYの思い上がりなんでしょうか? なんとなく、約10年前のAKB48を思い浮かべてしまいました。メディアが「国民的アイドル」と煽っているし「神セブン」という言葉は知ってはいるけれど、みんな興味がないし、メンバーの顔と名前が一致しない、あの現象です。
いや、そんなことはどうでもいいです。後日知ったことですが、筆者たちはオンライン視聴者数4907万人だったことで1,000分の1の確率で当選し、地獄をくぐり抜け、おそらく兵役前の最後となる彼ら7人の姿を全身に焼き付けることができたのだから。
翌日、成田に到着した筆者は思いました。
飛行機から降り、検疫ゲートへ向かう道すがら、「あちらが検疫スペースです」という立て看板のほかに5mに1人の距離感で案内スタッフが点在し、「こっちですよ〜」「こっちですよ〜」と案内しています。
迷子になるほうが至難の業の1本道に、この手厚いスタッフ配備。こんなにいたれりつくせりが当たり前の国にいるんだもん、そりゃああの地獄に耐性がないはずです。もっと地獄に身を投じて鍛錬し、来たるべき韓国コンに備えなくては――。