• 日. 12月 22nd, 2024

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『silent』SnowMan・目黒蓮、視聴者の心を掴むワケを演技講師が解説! 第3話の「素晴らしいシーン」とは

 フジテレビ系「木曜劇場」枠で放送中の連続ドラマ『silent』。主演の川口春奈と、相手役を務めるSnow Man・目黒蓮の“好演ぶり”がネット上で注目を集めている。

 同作は、主人公・青羽紬(川口)が、 若年発症型両側性感音難聴により聴力のほとんどを失った高校時代の恋人・佐倉想(目黒) と8年ぶりに再会することで展開していく切なくも温かいラブストーリー。

 第1~2話では、青葉と佐倉が付き合っていた高校時代の回想シーンを挟みながら、2人が街で偶然再会し、交流が再開する模様が描かれた。8年前、佐倉が一方的に青葉に別れを告げたのは、病気のことで青葉を悲しませないようにするためだったことが判明し、ネット上では川口や目黒の涙の演技に胸を打たれる人が続出していた。

 最新話の3話では、青葉の現在の恋人・戸川湊斗(鈴鹿央士)中心の物語が展開し、青葉と付き合うことになった経緯や、親友だった佐倉が病気を患ったことを受け入れられない戸川の複雑な心情が明らかに。さらに、そんな彼を気遣い、佐倉は青葉に「2人で会うのはやめよう」と伝えたが、青葉は「私、湊斗のことすごい好きなんだよ」「佐倉くんは違う」「好きじゃない」と言い切り、しかし1人になった瞬間に涙したシーンが視聴者の注目を集めたようだ。

 過去と現在、音のある世界とない世界など、登場人物たちの置かれる環境や心情を“対比”しながら丁寧に描いた脚本はもちろん、川口と目黒の熱演も、大きな見どころとなっている『silent』。

 2人の演技はなぜ見る者の心を掴むのか? 現在、「エイベックス・アーティストアカデミー」のシアター総合コースディレクターとして演技講師も務める演出家で俳優の秋草瑠衣子氏に、第3話を見た上で解説してもらった。

『silent』第3話、川口春奈&SnowMan・目黒蓮「肩の力の抜け方」が素晴らしい!

 第3話は、川口さんと目黒さん2人のシーンが少なかったのですが、青羽の仕事先であるCDショップの前を偶然佐倉が通りかかり、その後喫茶店で一緒にお茶を飲みながら会話をするシーンについて見ていきたいと思います。

 ゴミ出しのために外に出てた青羽は、エプロンの肩紐が片方ずり落ちているのを、ゴミを持ったままなんとか直そうとしています。この時の川口さんのふとした演技が、青羽の少しおっちょこちょいで可愛らしい人柄を表していました。完全に気が抜けている日常の些細な瞬間ですね。

 そこに佐倉が通りかかり、青羽は驚きます。この時、青羽は相変わらずエプロンはずり落ちたまま、そんなことは気にならなくなるくらい驚いていたものの、対する佐倉は、とても落ち着いていました。目黒さん特有の優しすぎるほどの微笑も印象的で、佐倉は青葉のエプロンの紐を直してあげながら「似合うね」と手話で伝えます。このシーンのお二人の肩の力の抜け方は素晴らしいです。

 その後、2人が喫茶店でお茶をするシーンも共通していえるのですが、お二人のやりとりで視聴者の心が動いてしまう理由の一つに、”アクションとリアクション”のキャッチボールが確実で丁寧であるところが挙げられます。

 お芝居は、アクションとそれに対するリアクションのキャッチボール(または卓球のラリーをイメージしていただけるといいかもしれません)の連続で構成されています。誰かの行動や発言(アクション)に反応して相手の心情が動き、行動や発言に表れる(リアクション)。それを受けてまた誰かの心情が動き、行動や発言に表れる(アクション)、この繰り返しです。

 このCDショップから喫茶店のシーンで、アクションを仕掛けてきたのは、青葉に「仕事終わるの待ってていい?」と問いかけた佐倉。彼の行動に対して青羽がリアクションをして、それを受けてまた佐倉がアクションをして……という流れになっていますが、このキャッチボールがお二人はとても丁寧。

 相手のことをよく見てアクション・リアクションを待つことができているし、相手のどんな行動・発言に自分の心が動いたか、という役としての心の動きを、明確に無駄なく捉えられていると思います。

 青葉が佐倉に「好きじゃない」と告げた喫茶店のシーンは、特に切なさを誘いましたね。登場人物たちには必ず「そのシーンでの役の目的」が存在します。特にアクションを仕掛けてきた役には、明確な目的があるはず。では、佐倉の目的はなんだったのでしょうか。

 それはおそらく、「2人で会うのはやめよう」と青葉に伝えることだと思います。なぜ2人で会うのが良くないと思っているのかは、お互いに過去に本当に好きだった相手だし、これからまた好きになってしまうかもしれないし、青羽と湊斗に幸せになってほしい……とか、理由はいろいろあると思います。

 それに対して青羽は「大丈夫だよ、気にしないで、2人もまた仲良くなってほしい」という自分の気持ちを伝えようとしますが、手話を習い始めたばかりでまだうまくないので、携帯の音声認識アプリを使って、文字で伝えることになってしまいます。表情も温度もリズムも音程も感じられない文字で見せられる「好きじゃない」の文字はとても冷たく、私たちの目にも響きましたね~。

 ここで、佐倉の「そのシーンでの役の目的」(=2人で会うのやめようと伝えること)、つまり佐倉の心配は、ただの思い過ごしであるという現実が突きつけられるのです。登場人物の目的が達成されにくいとき、視聴者はドキドキしたり、達成されると喜んだり、達成されなければ悲しんだりするのですが、今回の場合は「達成されたけれど、そもそもその目的は必要なかった」という期待の根本の“裏切り”があるわけなのです。こんな切ないことはございません……。

 その後「わかった、考えすぎだった。また連絡するね」と手話をしたときの佐倉の表情、目黒さん上手でしたね。がんばって笑顔になろうと思うんだけどうまく笑えない、でも目は優しいままで悲しそう、という表情。そのアクションをまた川口さんが丁寧にキャッチして、静かに涙を流す……というきれいなリアクションで締めた見事なシーンでした。

 登場人物が周囲に思いやりを持っているからこそ数々のすれ違いや切なさが生じている『silent』。ハンカチを片手に、これからの展開にも期待したいですね!

秋草瑠衣子(あきくさ・るいこ)
元宝塚歌劇団男役。フリーの演出家・俳優。2017年文化庁新進芸術家海外研修制度に選出され、パリにて演劇教育についての研修に励む。エイベックス・アーティストアカデミーシアター総合コースディレクター。
公式サイト https://www.ruikoakikusa.com/

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