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西野亮廣がエンタメ界で売れるワケ――後輩芸人に小バカにされる隙と「現実的すぎない」トーク

羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。

<今回の有名人>
「周りを勝たす人」キングコング・西野亮廣
『トークィーンズ』(10月27日、フジテレビ系)

 2019年に亡くなった作家・田辺聖子さんの短編集『孤独な夜のココア』(新潮文庫)に、『石のアイツ』という作品が所収されている。売れっ子となったテレビドラマの女性シナリオライターが、売れない時代に同棲していたシナリオ学校で知り合った男性を回顧するという内容だが、その中で「売れる人」の条件として、隙があること、あまり性格が現実的でないといったことが挙げられていた。

 人がドラマなどのエンタメ作品を求めるのは、現実の世界から離れたいからという理由が少なからずあるだろう。いくら事実であったとしても、エンタメ作品で“身も蓋もない、つらく堅苦しい現実”を見せられたらゲンナリしてしまう。程度問題ではあるが、多少夢見がちで隙のある作り手のほうが、物語全体に救いが生じ、多くの人に愛される――『石のアイツ』で述べられていたのは、そういった意味だと思う。

 隙があり、現実的でなく、エンタメの世界で成功している。この条件を考えたとき、私の頭の中に最初に浮かぶのが、キングコング・西野亮廣だ。

 お笑い芸人としての活動のみならず、西野が描いた絵本『えんとつ町のプペル』(幻冬舎)は大ヒットを記録し、映画化、舞台化も実現させている。また、オンラインサロンの会員数は日本一、クラウドファンディングをいち早く導入させ、さまざまなプロジェクトを成功させてきた。

 そんな西野が10月27日放送の『トークィーンズ』(フジテレビ系)に出演。芸能界やエンタメを主軸とするビジネスで成功した経験をもとに、多数の女性出演者を相手に「信用できる人」「信用しちゃダメな人」の見極め方をレクチャーしていた。

 西野にはいい意味で、隙がある。芸歴からいえば、西野は同番組の女性出演者に上から物を言っても許される立場だったが、西野は満遍なくツッコまれている。

 若槻千夏に、「(信用できない人の条件は)全身黒ずくめの人」と言われ、西野は「俺だよ」と返していたほか、指原莉乃には「(オンラインサロンの会員数が)4万人いる人のほうが怖い」と日本一の業績を茶化される始末。また、かなり後輩の芸人である3時のヒロイン・福田麻貴にも「芸人の仲間に『(西野を)リスペクトしている』と言えない」と小バカにされており、しかし西野は「うるせーわ」というものの、特に怒った様子はない。

 これこそが「売れる人」の持つ「ちょうどいい隙」なのではないだろうか。「ちょうどいい隙」のある人の周りには人が集まり、その会話や関係性から新たなエンタメが生まれることもあるから売れるのだ。

 西野は「信用できる人」として、「周りを勝たす人」を挙げた。西野いわく「自分の取り分しか考えない人って、誰かのライバル、競合、敵になってしまうので、こういう人はすぐにいなくなっちゃうんですよ。でも、周りを勝たしている人って、みんなその恩恵を受けていて、こいつはいなきゃいけない存在なんで、こいつを潰そうとは絶対しない」となるそうだ。同番組の司会・高橋真麻は「人の幸せを自分の幸せと思える人かしら?」とまとめ、西野は「強いっすよね、そういう人って」と同意してみせた。

 私に言わせると、これは現実的すぎないという意味で、ちょうどいい。というのも、現実的に考えると、「周りを勝たす人」になるのはそう簡単ではないからだ。「周りを勝たせる人は信用できる」という、西野の意見に納得する人は多いのではないだろうか。確かにムダに戦うよりも、あえて自分が引くことで共存共栄することは、正しい作戦といえる。

 極端な成果主義に疲れている視聴者にとっては、成功者・西野が温和な作戦を掲げることで、「案外いい人かも」と好感を持つこともあるだろう。

 しかし、「周りを勝たせる」ことができるのは、ある程度の実力と実績があると認められた人でないと無理なのはは、見逃せない事実だ。

 例えば、テレビに出るようになって日が浅い新人がいたとする。彼らは、少しでも前に出て、顔と名前を売っておかなければ、次があるかわからない。周りを勝たせようと控えめに振る舞っていたら、視聴者の印象には残らないだろうし、新人をキャスティングした側には「本番に弱いのか」と見られてしまう可能性もある。

 となると、名前と実力(芸歴、実績)が世間に十分浸透していて、無理に前に出る必要がない人――もっと言うと、周りに「あの人はあえて自分が前に出ず、周りを勝たせるためにやっている」と思ってもらえる人しか、「周りを勝たせる人」になれないのではないだろうか。

 こうやって考えていくと、「周りを勝たせる人が、信用できる」のではなく、「信用のある人は、その気になれば周りを勝たせる側に回ることができる」というほうが正確な気がする。

 それでは、「信用のある人」とはどんな人かというと、繰り返しになるが、知名度と実績なわけで、たいていの人はそれがないから苦しんでいるわけだ。

 このあたりの身も蓋もないことは匂わせず、「信用できる人は、周りを勝たせる人」と語り、視聴者に「周りを勝たせる人になれば、自分も信用される」と夢を見させてしまうあたりが、西野のすごさだと思う。

 このように西野は、エンタメビジネスで成功する条件を満たしているように思うのだが、これらを安易にマネしようとするのは危険だろう。

 自己啓発本ではよく、自分の考えや行動を変えることで、「成功、お金、人脈、情報をドカンと得よう!」と説いているものの、実際これらは「持っている人のところにはどんどん集まり、持っていない人のところにはまったく回ってこない」という特徴があるのではないか。

 例えば、ある人がお金のない生活から抜け出したいと、ビジネスを始める決心をしたとする。しかし、お金儲け(ビジネス)をしようにも、お金(資金)がなければ、どうにもならないわけだ。そこで、資金を集めようと動いても、なかなか思うようにお金も人脈も手に入らない。なぜなら、成功の実績がないため信用されないからだ。

 西野がエンタメビジネスで成功した理由は、先にも述べたように、隙があること、あまり現実的でないことのほか、いろいろあるのだろうが、そもそも彼がお笑いの世界で結果を出し、知名度があったことは、確実にプラスに働いたと思う。よく知らない相手よりも、芸能人などよく見る機会のある人のほうに好感を抱くことを、心理学では「単純接触効果」と呼ぶ。一緒に仕事をするにしても、すでに何度も“接触”している人のほうが、安心や信頼がある部分は否めない。

 西野の来し方を、お笑いの世界で結果を出してお金を得て、そこから人脈を広げ、エンタメビジネスでも成功したと見るのなら、そのポイントはまず「お笑いの世界で名を上げたこと」といえるだろう。

 西野のオンラインサロンに集う人が、何を期待しているのかは私にはわからない。西野のそばに行きたいのかもしれないし、仲間がほしいのかもしれない。いろいろな楽しみ方はあっていいと思うが、一般人はそう簡単に西野にはなれないということだけ、頭の片隅に置いておいてほしいものである。

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