「皇族はスーパースター」と語る歴史エッセイストの堀江宏樹さんに、歴史に眠る破天荒な「皇族」エピソードを教えてもらいます! 前回から引き続き、今回も新国王が誕生した英王室について聞いていきます。
――英王室のヘンリー王子夫妻を見ていると、お子さまの結婚で王室・皇室全体が揉めるのは、よくあることだと気付かされます。一方、日本でも天皇家に比べ秋篠宮家の支持がガクンと落ちてしまった背景には、眞子さまの結婚問題がいまだに大きな余波を残しているからだと思われます。最近は何をやっても叩かれる英王室のヘンリー王子(以下、ハリー)の失墜も、メーガン妃との結婚がきっかけだったのでは?
堀江宏樹氏(以下、堀江) 当初はむしろ、英国民は歓迎ムードだったようにお見受けしましたが、その後、メーガン妃がキャサリン妃に「いじめられた」などと言い始めてからは、同情されるより、アンチのほうが急増しました。そしてそういう妻のことを、ハリーはなぜか止めようともしない。むしろ自分まで王室批判をしはじめてしまいました。
――注目を集めたいのでしょうか?
堀江 メーガン妃についてはそういうところもあるでしょうが、すくなくともハリーには「王室を批判することが世間からは求められている」という認識もあったと思いますよ。彼は自分のような、やんちゃな王族、王族らしからぬ王族に対するニーズがあると確実に考えていると思います。
――ハリー王子の数々のやんちゃ伝説は、王室ファンからのニーズに応えたものだったと?
堀江 やんちゃを正当化というより、故・ダイアナ妃の息子である自分こそ、旧態依然の王室のあり方を批判する使命があるというような……。
故・エリザベス女王の王配(=夫)だったエジンバラ公フィリップが興味深い言葉を残していて、それは
「ヨーロッパの君主制の多くが、その最も中核に位置する、熱心な支持者たちによってまさに滅ぼされたのである。彼らは最も反動的な人々であり、何の改革や変革も行わずに、ただただ体制を維持しようとする連中だった」
というものです。
――それでいうと、ヘンリー王子は王室内の革命家気取りということでしょうか……。
――それにしても熱心な支持者が熱心なアンチに“反転”してしまうのは、なにもアーティストや女優・俳優のファンの話だけでなく、王政支持者でも事情は同じと言えるんですね。眞子さまの結婚問題について、秋篠宮さまには失望したという声がいまだに強いのを見てもわかります。
堀江 期待していたからこそ、失望もいっそう大きいということでしょうね。ちなみに国を問わず、先例のないようなことをするのは、王室には伝統的な意味での正義の体現者となってほしいと願っている大半の王室ファンに、あまり受けなそうな気がしますが……。
ハリー王子にお話を戻すと、彼はウィリアム王子を兄に持ち、兄には3人も元気な子どもがいます。つまり、ハリー王子とその子孫が今後、英国王に即位できる可能性は非常に低いのです。しかも、そのウィリアムは、極端に秘密主義で、保守的な英王室批判の先駆けともなったダイアナ妃の息子であるにもかかわらず、旧態依然とした王室に批判的なそぶりは一貫して見せることのない「優等生」です。
だからこそ、ハリー王子は、自分は兄のウィリアム王子とは対照的な生き方を模索せざるを得なかったのでは、と思うんですね。“キャラ”の模索は王室・皇室メンバーとして非常に重要ですから。王室内での発言権にも関わってきます。
――キャラといえば、日本でも天皇陛下と秋篠宮さまは、冷静沈着な皇太子と、やんちゃな弟宮という形で子どものころから対比的にメディアから取り扱われてきましたね。
堀江 そして、それぞれにファンを獲得していったわけです。しかし、日本の場合、宮内庁が皇室の方々の芸能プロデューサーのようにアドバイスすることはありません。しかし、英王室の場合、宮殿関係者がそういう側面で活躍することがすでに知られています。
前回も少しお話しましたが、チャールズは宮殿のスポークスマンとは別に、「メディア操作の達人」マーク・ボラントを個人秘書としてわざわざ雇用しており、ダイアナとの離婚問題で地に落ちた自身のイメージを操作し、ジワジワと上げていっているというお話をしました。
――そんなチャールズという父親に育てられたら、いやがおうでもハリー王子は「熱心な(王室)支持者」のニーズを意識的に読まざるを得なくなるでしょうね。
堀江 はい。メーガンとの結婚がハリーにとっては失敗のはじまりだったというお話が出ましたが、否定できません。しかし、ハリーにとってはメーガンを選んだことが、自分のイメージを向上させる大きな賭けのつもりだったのではないでしょうか。もともと従来の英王室のお妃像からは離れた、奇抜な女性をハリーは探していたのでしょうね。
堀江 2014年4月11日号「週刊朝日」(朝日新聞社)の記事では、「一昨年から(ハリーとの)交際が始まった貴族の令嬢クレシダ・ボナス」という女性が紹介されているのですが、この女性も「ピンクのウィッグをつけるなど奇抜なファッションを好む」点で、英王室から受け入れられるか? という暗雲があったようです。そのうちメーガンが急浮上して、ハリー王子とゴールインしてしまったのですが‥…。
――クレシダ・ボナスはハリーとは破局したのに、結婚式には招待されています。別れても良好な関係であるというアピールだったそうですが、何か裏があるのではないかと思ってしまいます。しかし、アメリカの女優出身で、黒人系のメーガンはたしかに英王室の王子のお妃としては異色だったかもしれません。
堀江 日本の皇室ではそういう“多様性”のある結婚はまだまだ無理な気がします。英王室はその点、皇室の何歩も先を歩んでいるといえるでしょう。
もともと英王室は19世紀のヴィクトリア女王の時点で人種差別という意識はなく、逆にインドから来た虚言癖のすさまじいアブドゥル・カリムという召使いに“老いらくの恋”をして、宮殿内で大問題となるなど数々のスキャンダル伝説の素地のあるところですから……。
多少、個性的な経歴の女性が王子の妃になることくらいは王室からは受け入れられると思うのです。しかし、それは王位継承者の配偶者ではないという、暗黙の了解もあるみたいですけれど。
――ということは、王位継承者である皇太子の妃だったダイアナは、少々型破りの個性派すぎて、暗黙の了解を破ってしまった……ともいえますか?
堀江 そうですね。ダイアナからの告発以降、ある種の「王室改革」が国民から求められているため、ハリー王子も「異色の経歴」の持ち主であるメーガンを、意図して結婚相手に選んだような気がしてならないのです。
しかし、王位継承者と目されるウィリアム王子の配偶者であるキャサリン妃が、ダイアナ妃の正当な部分……「表」のイメージを継承しているとしたら、ハリー王子とメーガン妃はダイアナ妃の「裏」の部分、スキャンダラスな側面を受け継ぐしかなかったのかも。兄夫婦と同じことをしてもキャラが被るだけですからね。
――ハリーとメーガンの数々の“問題行為”によって、王位継承者である父・チャールズ、そして兄・ウィリアムの正義が際立つともいえるのでしょうか?
堀江 そうです。どこまで意識的かはわかりませんが、ハリーはヒール(悪役)にならざるを得なかったのでは? 一般の方は、性質や生き方は隠そうとして隠せるものではないと思うでしょうが、英王室のメンバーともなると、世間に公表する生き様や、自分のキャラクターも選択できるのです。
たとえば20世紀中盤の話ですが、「大衆王」の異名を取り、庶民からもその「さわやかさ」「親しみやすさ」で多いに人気を得ていたエドワード8世という英国王がいました。
彼は後年、複数回の離婚歴があるウォレス・シンプソンとの恋愛、そして彼女との結婚を批判され、退位してしまうという「王冠をかけた恋」の当事者となった方ですけど、本当の彼はぜい沢好きな反面、使用人にはドケチで、教養にも欠けるので、実はそこまで女性からモテるほうでもなかったとか、だらしない日常生活を送る享楽的なだけの底の浅い人物だったことがわかっています。彼の死後、ようやく数々の証言が表に出始めたのでした。
――驚きました。メディアに見せていたキャラとは本当に真逆なんですね!
堀江 はい。そういう例が20世紀中盤にはすでに存在していたので、ハリー王子とメーガン妃もメディアに見せている“反抗者”としての顔も、実は何かを狙った演技にすぎないといえるかもしれませんし、理想の皇太子夫妻として振る舞い続けているウィリアム王子とキャサリン妃が本当にそうなのか……というと、こちらも完全な演技である可能性は否定できないのです。
――ヨーロッパの王室って今なお、日本の皇室とは別の意味で、なんだか本当に「怖い」ところなんですね。ハリー王子たちでなくても、出て行きたくなる気持ちはわかる気がします……。
堀江 しかし、ハリーやメーガンにとってはいくら反抗者を気取ろうと、元・王室関係者という肩書と権威なしにはビジネスができないという痛いところはあるわけですね。痛いと言えば、この先もずっと職業として“お騒がせ者”を演じ続けていてもよいのかという話でもあります。
当面は、チャールズ新国王の戴冠式に出席するのか、チャールズを批判した部分を含むNetflixの番組や自伝はそのまま世に出るのか、とりあえずは暖かくハリー夫妻を見守り続けたいと思います。