家庭を持っている女性が、家庭の外で恋愛を楽しむ――いわゆる“婚外恋愛”。その渦中にいる女性たちは、なぜか絶対に“不倫”という言葉を使わない。仰々しく “婚外恋愛”と言わなくても、別に“不倫”でいいんじゃないか? しかしそこには、相手との間柄をどうしても“恋愛”だと思いたい、彼女たちの強い願望があるのだろう。
健康で活力にあふれ、どんな無茶も利き、睡眠時間が短くてもへっちゃらで、仕事や恋愛に打ち込んできた――そんな20代を過ごした人が「当時は、自分が年を取るなんて夢にも思わなかった」としみじみ語る姿をよく見かける。
「私も20代の頃は『自分最強』って思って、この状態が永遠に続くような気がしていましたよ。まさかそんな自分がアラフィフになるなんて……でも今でも実は違った意味で『最強』って思っています」
恋愛の延長のような結婚生活に奔走した20代、一人で生きていく覚悟を決めた30代を駆け抜け、現在、40代後半の亜耶さん(仮)。清々しい笑みを浮かべながら、一夜のちょっとした婚外恋愛が、自身の人生を一変させたという稀有な経験を明かしてくれた。
北関東出身の亜耶さんは、地元の友達も含めて結婚が早かった。
「短大を卒業してからすぐに結婚しました。大学当時から交際していた彼は同い年。とてもウマが合い、離れたくなくって、在学中はずっと『通い同棲』みたいな感じだったんですよ。今月はこっちのアパート、来月はあっち……みたいに。お互いに就職が決まって卒業が近づいてくるにつれて『家賃もったいないね』ってことになって、卒業と同時に、お互いの両親に結婚を報告しに行きました」
最初は彼のアパートで暮らし、貯金して少し広めのマンションに引っ越したという亜耶さん。地に足をつけて家庭を築くというよりも、「人生ゲームをやっているような……どんどんステップアップしていく感覚が楽しかったんですよ」と語る。
お互いフルタイムの正社員で働いていたが、 当時はそれほど収入がなかったためか、子どもがほしいとも感じなかったそうだ。
「とにかく、夫と一緒にいることが楽しかったんですよね。当時はまだ『残業推奨主義』みたいな時代でしたから、毎日帰りが夜10時とかザラだったんですけど、クタクタになって帰ってから元夫と一緒にお風呂に入って、くだらない話をする時間が癒やしだったんです。私も元夫もサブカル好きなので、『みうらじゅんの新刊、面白かったよね』とか。金曜日の深夜、ビールを飲みながら『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)を2人で見る時間が今でも忘れられません。本当に楽しかった」
20代当時の結婚生活を振り返りながら、「私は元夫のファンでしたね」と亜耶さんは目を細めた。
だからこそ、たった一度の過ちが許せなかったのだろう。
「仲間同士で1泊2日のキャンプに行った時、元夫が私の友達とキスしてるところを見ちゃったんですよ。それもかなり濃ゆい感じのやつで……『は?』と思い、嫉妬と怒りでおかしくなっちゃったんです。お酒が弱いのに昼から飲んでいたのも手伝って、その夜、そこそこ仲が良い元夫の友達と“浮気”しました」
亜耶さんの言葉からもわかるように、婚外恋愛というより、それはむしろカッとなった浮気でしかないが、この一夜の出来事が、夫婦関係に亀裂を生じさせた。
「そういうことをすると、お互い普段と変わりなく過ごしているつもりでも、後ろめたい気持ちがついて回るんですよね。半年間くらいお互いを探り合って、でも後ろめたさは消えず、どちらともなく離婚を切り出しました。元夫の友達とはそれから一切連絡を取っていませんし、夫がキスしていた相手と会っていた様子もなかったんですが。あの夜のことは、その場限りのノリだったんでしょう。私もそうですし」
しかし、亜耶さんいわく「たとえノリでも私は許せなかった」。
「元夫も、おそらく私があの夜、彼の友達と何かしていたことは気づいていたんだと思います。でも最後まで問い詰められなかったし、私も責め立てるようなことはしませんでした」
亜耶さんの結婚生活は、30歳を前にして終わった。
「ファン」とまで語っていた夫を失った亜耶さんは、その後どうやって生きてきたのだろうか。
「一人になって振り返ったら、私、完全に『元夫依存症』 だったなって気づいたんです(笑)。 私自身に何の魅力もなくて、ただ彼の魅力にぶら下がっていたことに気づいて……だから、一人になってからは本当にいろんなことに手をつけました」
離婚後の亜耶さんは、一人でさまざまな海外を訪れるなど、あらゆる趣味に手を出すようになったという。
「趣味が高じて、今では本業に合わせて、ワインテイスティングのセミナーを持つようになりました。あまりお酒が強くないからこそ、それぞれの味がわかるのかなと思います。趣味を通じて大勢の友達ができましたし、仕事も順調、趣味の延長で副業もできる。多分いまの私、最強ですよ」
元夫とは、現在でも連絡は取っているという。決して元夫のことが嫌いで別れたわけではなさそうだけに、復縁も期待してしまうが……。
「向こうは再婚して子どももいますから、私からは連絡しません。会うつもりもないですよ。別の人との結婚も、もういいかなって思います。多少、金銭面や老後の不安はありますけど、 何より自分のいまの生活ペースが好き。このペースを乱されるくらいだったら、少しでも稼いで自分一人分の老後資金を貯めるかな」
亜耶さんの横顔は強く、自信に満ちあふれていた。
(文・イラスト/いしいのりえ)