• Wed. Dec 7th, 2022

近藤真彦と中森明菜、元カップルがそれぞれ再始動! いま振り返る2人の“いわくつき”共演映画

 エンタメ批評界の「ひとり隙間産業」佃野デボラが、誰も見向きもしないけれど、見捨てられない“味”なコンテンツ、略して「味コン」をプレゼンする不定期連載(※このコラムはネタバレを含みます。そして、「別にネタバレしてもいいっすよね?」という作品しか紹介しません)。

【今回の「味コン」!!】
マッチ&明菜のダブル主演、史上最高のトンデモアイドル映画『愛・旅立ち』に見る「昭和のおおらかさ」

 昨年、不倫騒動の末にジャニーズ事務所を退所して以来、鳴りを潜めていた“マッチ”こと近藤真彦が、去る10月5日に放送された『1周回って知らない話 3時間SP!』(日本テレビ系)で久しぶりにテレビに出演した。

「デビュー以来ずっとマッチの大ファン」と語る高嶋ちさ子の姉・未知子さんのためにサプライズ登場したのだが、ノルマ感たっぷりの「善人しぐさ」をキメて、最後には12月に行われる自らのディナーショーの告知をしっかりやって帰っていく、マッチの商魂たくましさに感嘆した。さすが、たいした貢献もしていないのに長年「ジャニーズ事務所の長男坊」と呼ばれてニコニコしていた強心臓の持ち主である。

 そして奇遇にも、かつてマッチと恋仲にあった中森明菜も今年になって動きを見せている。8月にTwitterの公式アカウントを立ち上げ、新たな個人事務所を設立したことを報告したのだ。しかし、46万超のフォロワーを擁しながら(22年11月10日現在)、最初の1ツイートを限りに更新されていない。事務所公式サイトもトップページが作られただけで、何の情報も発信されないままだ。

この“儚さ”こそが明菜の魅力ともいえるのだが、“再始動宣言”以降まったく動かない彼女の活動状況に「おい大丈夫か?」「また何か揉めてるのか?」と、余計なお世話ながらつい心配になってしまう。

 そんな元恋人同士の“再始動”を祝して……かどうかはわからないが、マッチと明菜がダブル主演を務めた映画『愛・旅立ち』(1985年)が、11月15日と26日、CS東映チャンネルにて放送される。記念すべき連載第1回目では、「アイドル映画のトンデモ大賞」といって間違いない、この“味映画”を紹介させていただきたい。

「いのちいっぱい恋をします。」

 明菜の「消え入りそうな小声」でモノマネ再生してみたい、儚さたっぷりのキャッチコピーが躍る本作。先天性の心臓の病気から余命いくばくもないユキ(中森明菜)が、運命の相手・誠(近藤真彦)と出会い、愛と命を燃やす物語……と、あらすじだけ見れば、ありがちなアイドル映画に過ぎない。

 しかしこの作品がワン&オンリーたるゆえんは、そこに「超能力」「大霊界」「宇宙」「耳なし芳一」という、製作陣のおじさんたちが思いつく限りのトンデモ題材を乱暴に投げ入れた「闇鍋映画」であるところだ。
 
 この映画が誕生した経緯をまとめると次の通り。企画が立ち上がった当初は『太陽を盗んだ男』(79)などで知られる長谷川和彦氏が監督・脚本を担当し、明菜の単独主演で話が進んでいたという。しかし、映画初出演にして初主演という重責に耐えかねた明菜が「1人じゃ不安」「マッチとダブル主演にしてほしい」と、小声ながら頑として動かずに要望を貫き、マッチ・明菜のダブル主演と相成った。

 さらに、当時の双方の所属事務所であるジャニーズ事務所と研音の意向により長谷川氏が降板。代わりに、マッチ主演の『ハイティーン・ブギ』(82)でメガホンを握った舛田利雄氏が監督に、『仁義なき戦い』シリーズなどで知られる笠原和夫氏が脚本に抜てきされた。

 しかし、監督の舛田氏が当時感化されていた丹波哲郎の“大霊界”的世界観や、宇宙、超常現象、耳なし芳一など、「俺ちゃん、こんなのやりたい」という要素をすべてぶち込んだ結果、脚本の笠原氏が「こんなもん、まとめきれるかーッ!」と匙を投げ、最終的に舛田氏が監督・脚本を兼任して完成に至ったのだ。

 そんないわくつきの“問題作”である『愛・旅立ち』だが、こうした製作経緯の「ガチャガチャっぷり」が如実に映像に出ており、どのシーンを見ても「いや、会議室でおっさんたちが盛り上がったか知らんけど」という感想を禁じ得ない。

 そのうえ、おそらく舛田監督の肝煎りで実現した丹波の出演により、彼のフィールドワークである“大霊界”方面の横槍や注文が多分に入ったことは想像に難くない。丹波演じるホームレスの奈良が、誠の窮地を救ったことから行動を共にし、自らの臨死体験や「霊との交信」について語るシーンは、完全に「丹波哲郎のミニ大霊界コーナー」と化している。

 明菜のわがまま、各事務所の意向、監督の趣味、監督の仲良しおじさんの横槍、そして、主演女優から直々に指名された割に、突き抜けた「棒」であるマッチの演技(人呼んで「マッチ棒」)。「トンチキ映画」ができ上がるための要因が幾重にも重なり、映画史に燦然と輝く「香ばしい作品」に仕上がっているのだ。

 では、ストーリーを具体的に見て行こう。親友を交通事故で亡くし、自らは九死に一生を得た(そして奇跡的に無傷だった)誠と、余命わずかと知らされ、孤独な入院生活を送るユキ。2人が正式に出会うのは、全編127分中、折り返し地点を過ぎてからなのだが、出会うより先に2人は“魂の対話”を重ね、互いの存在を感じ合っている(なんのこっちゃ)。ユキが心臓発作を起こすと彼女の魂が火の玉に乗り、誠の臨死体験のフラッシュバックに“アクセス”する、といった具合だ。

 前半で描かれるユキの闘病生活。これがまた破天荒を極めている。身寄りがないうえに不治の病を抱えるユキの淋しさに同情した看護師たちが、彼女に子犬をプレゼントする。病室に犬。訓練されたファシリティドッグでもないのに、衛生上、社会通念上あり得ないが、こんな序盤でいちいち立ち止まっていてはツッコミ持久力がもたない。これが『相席食堂』(朝日放送)なら、千鳥の「ちょっと待てぃ!」ボタンの連打で、VTRが一切進まないことだろう。

 ユキは怪談『耳なし芳一』がバイブルという、19歳にしては渋すぎる趣味の持ち主だ。同じ病室になった老婆・しげ(北林谷栄)は、「それはどんな話なのか」とユキに訊ねる。『耳なし芳一』を知らないお年寄りというのも珍しいが、オタクが推しについて語るとき特有の、立て板に水のごとき口調であらすじを説くユキの姿が熱い。そしてユキによる『耳なし芳一』の解説を聞きながら、しげは絶命する(なんで!?)。

 ユキの「芳一フリーク」が嵩じて、ついに彼女の目の前に芳一が現れるシーンは、前半の大きなカタルシスといえる。芳一の姿はユキにしか見えない。どことなくHey! Say! JUMPの八乙女光に似た子役が口に綿を含み、目にカラコンを入れ、ゾンビ風メイクを施され、耳を隠しているはずなのにときどき出ちゃったりして、体当たりで芳一を演じている。この芳一に、非常に中毒性があり、年に一度ぐらいはこの映画を見直してもいいか、という気分になる。そして、実際なぜか年一ぐらいの頻度で『愛・旅立ち』はどこかしらで放送されている。

 芳一と、彼の霊力で元気を取り戻したユキは病院を抜け出し、原宿へ。芳一が霊視を用いてユキの逆ナンを手伝ったり、空を飛んだり、動物園で虎に怯えて縮小したりする、84年(撮影時)の「最新特撮技術」を駆使したシーンにも、頬が緩む。また、ユキと誠に訪れる「臨死体験」の中、現れては消えていく「人生に関わった人々」の走馬灯が、自動車教習所の教習映像のようでジワる。

 後半に入りユキが誠と出会い、恋に落ちると同時に芳一が消えることから、芳一は孤独なユキの深層心理が作り出したイマジナリーフレンドと見て間違いないだろう。芳一の耳がなくなったり出たりして造形が雑なのは、繊細に見えて、意外なところで大雑把そうなユキの鷹揚さの現れ、ということにしておこう。

 運命の出会いを経て、愛を深めていく誠とユキだったが、ツーリングに出かけた先でユキが発作を起こし、やがて心肺停止になってしまう。医師による死亡確認が行われたのにもかかわらず、誠はユキの遺体を連れ出し、大学病院の敷地内にある「動物実験治療室」に飛び込む。鶏やヤギや猫が見守る中、なぜか上半身裸になって心臓マッサージをし、単にキスを楽しんでいるようにしか見えない“チュッチュ人工呼吸”を施して蘇生を試みる。

 本作のクライマックスといえるこのシーンの、「殺すんなら俺を殺せー!!」という誠の叫び声は、当時テレビCMにも使用された。これを見て「いったいどんなドラマティックな展開が」と、胸を弾ませ映画館に走った当時のマッチファンは、このトンチキ展開に何を思っただろうか。「黒柳さーん!!」と何ら変わらないトーンの誠の「棒叫び」に自然界が反応したのか、なぜか大地震が起こり、時空がねじれたんだかなんだか知らないが、ユキは生き返る。

 ……と、ここまでさんざんネタバレしておいてなんですが、ここから先の結末は、見てのお楽しみ。ただ、大きな肩透かしと膝カックンが待っていることだけは保証する。そして、こんなに酔狂な作品に大真面目に取り組んでいた明菜と、八乙女似の子役の奮闘は称えておきたい。この秋、かかるトンチキ映画が許容された、昭和という大らかな時代に思いを馳せてみるのもいいかもしれない。

【作品情報】
『愛・旅立ち』(1985年公開)
2022年11月15日(火)21:30~24:00
2022年11月26日(土)22:00~24:30
CS東映チャンネルにて放送

監督:舛田利雄 脚本:笠原和夫、舛田利雄
配給:東宝
出演:近藤真彦、中森明菜、丹波哲郎、勝野洋、萩尾みどり、レオナルド熊、北林谷栄、吉行和子、コロッケほか
東映チャンネル・番組紹介(https://www.toeich.jp/program/1TT000004080/202211)