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50代、体の変化を自覚した上でどう食べていく? 魅力あふれる「加齢対応食の本」と日本全国の「お雑煮レシピ本」

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介! 

 食本書評、今回は2冊をご紹介する。料理だけでなく、様々な世代やライフスタイルに即した食生活を提案する上田淳子氏の新刊と、お雑煮の深く豊かな世界に迫るルポタージュ&レシピブック。どちらも白央の下半期激推しの書である。

『55歳からの新しい食卓』上田淳子

 こういう本を待っていた。

 「55歳から」とあるが、40代の方にも強くおすすめしたい。人によって差はあろうが、中高年になってくると少なからず「若い頃は好きだったのに胃がもたれる」とか「硬いものが食べにくい」など、食と加齢に関して気になることがあると思う。老いを認めるのはシャクだけれど、無理すると体に悪いことこの上ない。胃腸や歯をムダに痛める原因にもなり、結局は体の劣化を早めることにも繋がる。

 脂っこいものが苦手になってきた、噛みにくいものが増えた、ヘルシーなものは味気なくてさびしい、あるいは気力が落ちて料理が面倒くさくなった……などなど、中高年が抱えがちな食の悩みにどう対応していくか、というのが本書のコンセプトである。軸となるのは「なおかつおいしく、楽しく食べる」という熱い思い。「加齢対応食の本」なんて書いてしまうといかにも味気ないが、本書に出てくる料理はどれもパッと見からおいしそうで、作ってみたくなる魅力にあふれている。まずそこがいい。

 著者の上田淳子さんはヨーロッパで3年ほど修行されてから料理研究家になられた人。自身も大の食いしん坊だが、50代に入って「気持ちは食べたいのに、体はそうはいかない」というジレンマを覚えた。おいしいものを諦めたくない、という信念のもと「変化を自覚した上でどう食べていく?」を研究する。

 フランス料理における「エチュベ(蒸し煮)」は素材を柔らかくさっぱりと仕上げ、量もとれるおすすめの技法で、本書で何度も出てくる。鶏むね肉などをパサつかせない「塩糖水」を使ったレシピなど、初耳の人も多いだろう。「加齢に応じた食べやすさ追求テク」を覚えるというより、純粋に調理の幅が広がっていくワクワク感を得られるのもいい。

 「以前よりも食べる量が減ったとはいえ、洋食などのこってり味のおかずもいまだに好き」、中華だって「まだまだおいしく食べたい!」といったことがテーマの章もある。このへんがいかにもアラフィフ向きで、現実的だ。あっさりも必要なんだけど、濃いものやガツンとくる味だってまだ恋しいんだよね。じゃあどう作るか、どう食べ切っていくかという視点に立った提案がリアルで、役立つアドバイスにあふれている。個人的には定番醤油味以外の煮魚レシピがありがたかった。「ぶりの梅煮」「さけの塩レモン煮」は我が家の定番になりつつある。

 お雑煮本の決定版である。

 とにかく熱量がすごいのだ。著者の粕谷浩子さんがひたすらに現地を歩いて証言を集め、できるかぎり作り方や食材をその目で見て、触って、味わって得られた知見がぎゅうぎゅうに詰まっている。なんせ粕谷さん、気になると止まらない。お雑煮のみならず、その出汁となるエビやトビウオなどの漁場や加工場にまで足をのばして取材される。雑煮の主役ともいえる餅に関して「できるまでの過程について全然知らない」と思えば、農家さんに連絡してお願いし、もち米づくり体験までしてしまうのだ。全国70種類の雑煮がレシピと共に紹介されるが、そういったサブストーリーを描いたコラムが充実、読んでいて引き込まれる。

 「こんなお雑煮があるんだ!」というシンプルな発見の楽しさは言うに及ばず。私も知らないものがたくさんあった。茨城の旧・里美村の豆腐雑煮や埼玉・戸田のきんぴらごぼう雑煮、福岡・鐘崎漁港あたりに伝わるというぶり串刺し雑煮などは特に驚かされた。直接現地に赴いて話を聞いてみたくてたまらなくなる。

 粕谷さんは雑煮取材の折、早い時間を狙って各地の銭湯や温泉に行くという。「ご高齢の女子たちがたくさん集って」いて、「おひとりに声をかけるだけで、周囲で浸かっていらっしゃる方々も、『ウチもそうだわ』『ウチはこんな雑煮だったね』『嫁いだときに驚いたんだけどね…』なんて口々に語ってくださる」そう。この取材方法は私には出来ない。くやしい。また雑煮話から家族の思い出話に広がることも多いようで、料理を入り口に人生まで伺えてしまう面白さが「何年もお雑煮取材を続けている理由」かもしれない、とも書かれる。粕谷さんはこういう展開がとても「心地よい」と表現されていた。

 お雑煮はざっくりと地域のスタイルが決まっている中で、家族の好き嫌いにも左右され、結婚によるハイブリッドもあり、完全に分類はできない「いいかげん」なところがあって面白い、というのにも納得する。そう、「うちのお雑煮なんてごく普通のもので」と多くの人が思いがちだが、我が家の味はすべてがオンリーワンなのである。作る人がいなくなったら、もう二度と作れない味。愛着を感じている人は、今年のお正月にでもぜひ作り方を習ってみてほしい。

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