• Tue. Jan 31st, 2023

エコバッグ窃盗犯の女VSベテラン万引きGメン! 防犯機器の「電源を抜く」狡猾な手口

 こんにちは、保安員の澄江です。今回は前回に引き続き、大量の万引き被害に悩まされる中部地方の大型ショッピングモールEに出張した際のことを記していきたいと思います。

 出張2日目。昨日の報告を兼ねて出勤のあいさつに出向くと、昨夜遅くまで一緒にいた女性刑事が、総合事務所で私のことを待ち受けていました。昨日、捕まえた女の件で作成した調書に誤字が見つかり、訂正印をもらいにきたそうです。

 どうやら一睡もしていないようで、昨夜に比べると疲労の色が濃く見え、髪の毛の脂気も増しています。留置されている女の状況を尋ねると、取り調べは違う刑事が担当しているから詳細はわからないと話しつつ、少なくとも協力的な態度ではないと愚痴をこぼされました。

 執行猶予中の身であることから、そう簡単に罪を認めるわけにはいかず、最後の悪あがきをしているのでしょう。過去に盗んだ商品を、ネット上で転売していた証拠まで上がっていることを思えば、無駄な抵抗をしても心証を悪くするだけで有利になることはなさそうです。

「昨夜の件、被疑者からの話が十分に聞けていないので、検察庁から呼ばれることになるかもしれません」
「そうですよね。記録も残してあるし、呼ばれたらきちんと対応しますよ」

 年に数回は検察庁に呼ばれていますが、いくらかの日当と交通費は支給されるので、私からすればアルバイトのようなものです。庁内に入れば、腰縄を巻かれた手錠姿の犯罪者たちが警察官に連れられ闊歩しており、その非日常的な情景を楽しむ自分も否定できません。

 過去には、テレビで話題となった保険金殺人犯と庁内の廊下ですれ違い、窃盗で逮捕された元野球選手の隣で調べを受けたこともありました。衝立1枚を隔てて座るため、その内容が自然と耳に入り、ついつい聞き耳を立てたことを覚えています。

 女性刑事を見送り、出勤のあいさつとあわせて昨日の報告書を店長に手渡すと、満面の笑顔で対応してくれました。昨日同様、顔認証システムの受信端末を持って現場に入ると、早速に発報して驚かされます。

 慌てて画面を確認すれば、検知場所の情報と合わせて、ペラペラの状態に見えるLサイズのエコバッグを手首に提げた中年女性が映っていました。どことなく、タレントの柴田理恵さんに似ている50歳くらいの女性です。

 検知場所付近に駆けつけて、それとなく周囲を見渡すも、その姿は見つかりません。この店の顔認証データは、珍しいほど確度が高いため、早く発見しないとやられてしまう気持ちに駆られて焦ります。不自然なほどの早足で広い店内を探し回ると、ようやくに食品売場の方から健康食品売場に入っていく女性の姿を見つけました。ペラペラだったはずのエコバッグは、すでに膨らんでおり、このまま出られてしまえば、もやもやすること必至の状況です。

「イラッシャイマセ」

 数多くの商品が居並ぶサプリメントコーナーの商品棚には、人感センサー付きの防犯モニターが装着されています。機械による声かけと、売場に立つ客自身の姿をモニターに表示することで、万引き犯に「見られている」と意識させる防犯機器です。売場に足を止めたところで反応され、その存在が気になったらしい女性は、じろじろとモニターを見つめました。するとまもなく、裏側にある電源コードを抜いて、レンズ面を天井に向けて無力化してしまいます。

「絶対にやる」

 防犯機器の電源を抜く理由は、商品を盗むためのほかは考えられません。天井には多くの防犯カメラが付いており、このモニターを無効化してもたいして状況は変わらないのですが、思いのほか気になっているようです。犯行を確信して棚取りを注視したところ、さまざまな種類のサプリメントを複数ずつ手にした女性は、手首にかかるエコバッグの中に隠しこんでいきました。

(DHA、マルチビタミン、プラセンタ、グルコサミン、ナットウキナーゼ……)

 すべての商品を複数ずつ取っていますが、手の動きが早く正確な数までは見きれないので、商品名だけを記憶していきます。時間にすれば、20秒ほどでしょうか。手早く商品を隠して、出口方面に向かう女性の後を追うと、通路上に設置されたワゴンにあるセール品のタオルを手に取りました。あたかも自分のモノのように首元を拭くと、エコバッグの中にある商品を覆い隠すようにしています。

 結局、何一つ買わないまま店の外に出たので、そそくさと早足で歩く女が、駐輪場に停めた電動自転車に手をかけたところで声をかけました。

「保安の者です。お客さん、ご精算、お忘れじゃないでしょうか?」
「あ、はい。いや、買うつもりじゃなくて。すみません」

 万引きした人に声をかけ、買うつもりじゃなくてと返されたのは、長年のキャリアの中でも初めてのこと。わずかに動揺して固まってしまいましたが、盗むつもりで来たと解釈するに至って、平静を装って事務所までの同行を求めます。

「ええ、わかっていますよ。事務所まで、一緒に来ていただけますか?」
「はい、あの、いや、ごめんなさい。お金、持っていないけど、大丈夫かしら」
「大丈夫ではないですね。お話は、事務所で聞きますから」

 事務所に連れて行き、エコバッグに隠した商品を出させると、計26点、合計で6万円ほどの商品が出てきました。エコバッグの底には、ジュールス・デストルーパーのクッキー(548円相当)が4箱も隠されており、こちらも未精算であると本人が認めています。所持金を尋ねれば、3,000円ほどしか持っておらず、すべてを買い取ることはできません。

 身分のわかるものを求めたところ、財布の中から折りたたまれた国民保険証を出してくれたので確認すると、女は54歳。ここから自転車で20分くらいの場所でひとり暮らしをしているそうで、迎えに来てくれるような人はいないと話しています。

「機械の電源を抜いたのは、なぜですか?」
「うるさかったから……」
「こんなにたくさん、どうするつもりで?」
「旦那がコロナで死んじゃって、お金がなかったんです」

 店長を呼んで判断を仰ぐと、過去の被害も特定されている人だからと、すぐに警察を呼びました。するとまもなく、先ほど帰ったばかりの女性刑事が、少しうんざりした様子で事務所に現れます。

「いま無線で聞いたんですけど、またですか?」
「そうなんですよ。入った途端に現れて、お金もない人なんです。忙しくさせてごめんなさいね」

 人定を確認した後、少しイラついている様子の女性刑事が、並べられた商品の前に平然と座る女に問いかけました。

「こんなにたくさん、どうするつもりだったのよ? 転売?」
「いや、自分でも使うけど」
「自分でもって、それ以外は、なに?」
「知り合いにあげたり……」

 結局、逮捕されることなく基本送致された女は、その日のうちに帰されました。変わった受け答えを続けるので、不審に思った刑事が病院に連れて行った結果、なんらかの病気であると診断されたため在宅捜査としたそうです。

 翌朝、出勤すると店の正面出入口の真正面にパトカーが停まっていました。また訂正印かと思いきや、防犯警戒のためにいるそうで。これでは万引き犯はお店になかなか入ることはありません。

「これ以上、仕事を増やしてくれるな」

と言われているようで、意気消沈した次第です。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

【万引きGメン・澄江さんへの質問大募集】
万引きの現場や万引きGメンについて聞いてみたいことを大募集いたします。下記のフォームよりご応募ください。