12月10日放送の教育バラエティ『ワルイコあつまれ』(NHK Eテレ)に、アニメ『ONE PIECE』(フジテレビ系)シリーズのモンキー・D・ルフィ役で知られる声優・田中真弓がゲスト出演。声優業界では近年、ルックスが重視されていることを認め、ネット上で話題を呼んだ。ある声優業界関係者は、その風潮により起きている“弊害”に、ため息を漏らす。
稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾が「学校で教えてくれそうで、ちゃんとは教えてくれないこと」をコンセプトに、子どもたちと楽しく社会を学ぶ同番組。田中は、記者に扮した子どもたちが、実在の著名人にさまざまな質問をぶつける「子ども記者会見」のコーナーに登場し、声優という職業に関する疑問に答えていった。
その中で、声優志望の子役から「声優に顔は必要ですか?」という直球の質問が寄せられた際、田中は大笑いしつつ、「私たちの(新人の)頃は、まったく顔は関係なかったです。声の役が合ってるかどうかだった。今は違います」とはっきり断言。
なお、田中自身も含め、同世代の声優は「みんな俳優になりたいと思っていたけど、気がついたら声優だったっていう人がほとんど」だそう。もともとは俳優志望だったものの、アルバイトとして声の仕事をしていたところ、「気がついたら声優だった」ケースが多いという。
田中は自身の経験を語りながら、子役に対し、声優業を俳優業と切り離して考えるのではなく、「“たまたま声だけを持っていかれた状態が声優である”っていうふうに考えてもらえば」「お芝居を頑張ったほうがいい」とアドバイス。
その後、田中は香取から“声優を目指す上で必要なこと”について聞かれると、「台本って、やっぱり日本語がきちんと読めないとダメ。意味合いが伝わらないし、作家の意図も読めない」「もし役者に興味があったら、国語の授業は大事にしてほしいですね」と訴えた。
この田中の発言を受け、ネット上では「田中真弓レベルから見ても、今の時代の声優は顔も必要なのね」と驚く声が上がったほか、「今は見た目、歌唱力、イベントでしゃべれるかとか総合力が求められるよね」「昔と違ってルックスを重視するファンがいるからなぁ」「顔が良いに越したことはないんだろうね」「国語力が大事なの、わかる気がする」と納得する視聴者が続出していた。
近年、声優にルックスの良さが求められるようになった理由は、「付随する仕事があるから」(同)だという。
「昔に比べ、アニメやゲーム人気が一般層にも浸透し、声優自身がスポットを浴びる機会も増えました。音楽活動をはじめ、バラエティ番組やドラマへの出演など、“顔出し”の場も広がっています。そこで、アニメファンから『キャラクターとイメージが違う』とがっかりされないために、事務所サイドは声優にルックスの良さを求めるようになったのではないでしょうか」(声優業界関係者)
では実際、声優事務所は、ビジュアルをどれほど重視しているのだろうか。
「声優養成所はビジネスとして成立させないといけませんから、ルックス問わず、誰でも受け入れますが、事務所に所属させる場合、外見を採用基準に含む事務所は少なくありません。とはいえ、大手事務所はルックスよりもスキルと声質を見て、所属の判断をしています。実力さえあれば、さまざまな声の仕事を回せるわけですから。一方、アニメ業界、アプリゲーム業界に重きを置いている事務所や、新興勢力の小規模事務所は、声優を『アイドル』として売り出そうとすることもあるため、ルックス重視の傾向は大いにあると思います」(同)
最近では、声優を志す者の間にも、「顔出しは大前提」「ルックスは大事」という風潮があるそうだが、それゆえの弊害も生まれているという。
「声優を目指す専門学校の生徒は、基本的に『アニメが好き』『推しの声優がいる』など、業界に憧れを持って入学してきます。アニメやゲーム作品の声優を務めて人気を獲得し、音楽活動やイベント出演、グラビアなどにも進出することを夢見る志願者が圧倒的に多いんです。ただ彼らは、声優の仕事を勘違いしているところがある。実際の声優は、ナレーションなど、ルックスの良し悪しがまったく関係ない仕事も数多くこなしています」(同)
例えば、ナレーションと一口に言っても、「CMやテレビ、ラジオ番組のほか、店内放送や駅のホーム、 美術館のアナウンス、社内VTRなど、さまざま存在する」(同)という。
「このナレーションは、声優の仕事全体の6〜7割を占めます。華やかではないし、顔が出ることはないので気づかれにくいけれど、 アニメやアプリゲームの仕事よりも圧倒的に多い。今の“ルックス重視”の風潮が高まれば高まるほど、声優志望者はその現実を受け入れられなくなってしまうのでは」(同)
歌を歌ったり、イベントに出演しなくても、「こうした“顔の見えない仕事”で活躍できるようになれば、長く声優として活動できますが、『声優アイドルになりたい』などと華やかなことばかりに目を向けていると、自分自身の可能性を自ら潰すことになりかねない」(同)という。
声優を目指している人たちは、自分の進みたい方向や、「声を生業にする」ということをあらためて見つめ直すべきかもしれない。