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『あちこちオードリー』若林正恭、「人を傷つけない」ための過剰な気遣いが生んだ“嫌なシニカル”

私たちの心のどこかを刺激する有名人たちの発言――ライター・仁科友里がその“言葉”を深掘りします。

<今回の有名人>
「テレビ局が教育してくれよ」オードリー・若林正恭
『あちこちオードリー』(12月21日放送、テレビ東京系)

 「キャラ」という武器を引っ提げてテレビの世界に挑み、人気を得た芸人は少なくない。しかし、だからといって、安心はできないだろう。なぜなら、自分も時代も変わるからだ。

 例えば、ダメ男とばかり付き合い、痛い目に遭ってきた経験をウリにする恋愛ベタキャラのオンナ芸人が結婚したら、もうこのキャラは使えない。また、「ブス」「ババア」というように女性をイジる芸風で人気を博した毒舌キャラのオトコ芸人も、コンプライアンスを重んじる今の時代には合っていないので、このやり方はもう通用しない。

 現在の自分に即した個性を発揮しつつ、時代と乖離しない芸風を貫くというのは、口で言うほど簡単なことではないが、特にシニカルな芸風が評価され、売れっ子になった人にとっては、かなりの難所だろう。「人を傷つけない笑い」がよいとされる時代、シニカルな物言いが「人を傷つける」として、世間に受け入れられない可能性は十分にあるし、加えて売れっ子という立場でそれをやると、さらに嫌みな印象を与えかねない。かといって、シニカルさを捨ててしまうと、個性が死んでしまう。

 現在の立場と時代、そして芸風のはざまで、オードリー・若林正恭は時々こんがらがっているように見えることがある。彼はまさに、シニカルな芸風が受けて、人気を博すようになった売れっ子芸人だが、「人を傷つけない」ようにと過剰に気を使うことで、逆に嫌な意味でのシニカルさが前に出てしまっていないだろうか。

 例えば、12月14日放送の『あちこちオードリー』(テレビ東京系)。ゲストは相席スタート・山添寛、岡野陽一、ザ・マミィ・酒井貴士で、彼らはギャンブルで散財していることから「クズ芸人」と呼ばれることもある。

 しかし、若林は「人の目を気にせず、自由に生きているように見える」ことから、彼らに憧れているという。若林のような売れっ子芸人に評価されて、「クズ芸人」たちもうれしいだろうが、その理由がちょっと“微妙”なのだ。

 若林は、彼らを好きな理由について「たまに『あちこちオードリー』で、『うまいこと自己プロデュースして、もう1ランク上へ』って目をしている人がいるけど、3人はそういう目をしていない」と説明し、芸人が「賢くなってきて、戦略練って先々まで(考えて)生きてる」中、3人は「今を生きてる」とも指摘。自分より売れていない、「クズ芸人」と呼ばれる彼らを傷つけないよう、ほかのタレントをシニカルに腐したわけだ。

 しかし、それって結局、若林は「どんなことをしてでも、上に行こうと思っている芸人が嫌い」ということではないだろうか。芸人がどうにかして売れたいと願うことは、まったくおかしなことではなく、そこを勝ち抜いて今の地位を得た若林なら、なりふり構わず頑張る芸人の姿に、ある程度の理解を示してもよいと思う。

 若林の物言いは、彼の「社会的な上下に厳しく、自分が上でいることに固執するあまり、積極的に売れようとしない下をかわいがるという冷酷な一面」を露呈させてしまったように感じられ、これは行きすぎたシニカルで、見ていてあまり気持ちいいものではなかった。

 しかし、12月21日放送の同番組では、若林のシニカルさがいい意味で光っていた。若林は、「怒りにくい時代だと思う、年上が年下のことを」「俺らと同年代とか、30代後半、40代の人って下を怒れないと思うのよ」と切り出し、こんなエピソードを披露したのだ。

 20代のフロアディレクターが、若林の相方・春日俊彰に対してタメ口を使っていたところを見た若林は、「なんかよくないな」と感じたそう。そこで、「キミって帰国子女?」と聞いたところ、相手から「違いますよ。なんでですか?」と逆に質問され、「いや、春日にタメ口きいていたから、帰国子女かなと思った」と返答。相手は、若林の意図するところを察知し、「あ……すいません」と謝ってきたという。

 売れっ子の芸人とテレビ局スタッフ、どちらの立場が“上”かは私にはわからないが、今の地位をもってしても、若林が20代のフロアディレクターに、「言いにくいことを言った」のは伝わってきた。若林は「それはテレビ局で教育してくれや」「俺が言うこと?」と愚痴っていたものの、視聴者の中にも、若者の教育不足からくる非礼にイライラしている人はいるだろうから、「キミって帰国子女?」という “正論”に基づいたシニカルは、嫌な感じがしないし、ウケるのではないか。

 ただ、これだけだと、若林に「うるさいオジサン」という印象を抱く人もいるかもしれない。しかし、同番組出演者の平成ノブシコブシ・徳井健太が「これがMCということ」と援護射撃をしていたため、そういったネガティブな印象は受けなかった。

 徳井は、「MCとなると、(スタッフの)1つの乱れが自分の番組に響いてくる」「若林くん、本当は言いたくないよ」「でも、このままフロアの子が春日にタメ口きいていたら、全体が変になるから一応言うっていう仕事も、MCってやっていかなきゃいけない」と、若林はあくまでも「仕事のため」、20代のフロアディレクターを注意したのだと強調していた。こういうサポートする人がいることで、シニカルな人が悪者にならないで済むわけだ。

 笑いにもトレンドがあり、毒舌やシニカルな笑いが、敬遠されがちになる時期もあるだろう。売れっ子になったことで、そうした物言いがしづらくことも否定できない。けれど、だからといって、それらの笑いが「いらない」わけではないと思うし、特にシニカルな笑いは、若林の独壇場だと思う。番組MCにまで上り詰めた自身の立場をある程度踏まえつつ、他人を巻き込まない、正論の上に立った「オレはこう思う」というシニカルな笑いで、私たちをうならせてほしいものだ。

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