韓国生まれの映画研究者で、著書に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(共著、キネマ旬報社)『日本映画は生きている 第4巻 スクリーンのなかの他者』(岩波書店)などを持つ崔盛旭(チェ・ソンウク)氏による連載『映画で学ぶ、韓国近現代史』。映画に映った韓国の社会問題や日本へのまなざしを解説する内容だ。これまで取り上げた映画40本を、あらためて紹介したい。
(※この先、作品ネタバレに関する記述があります)
『哭声/コクソン』(2016)
國村隼が背負った“韓国における日本”、よそ者の日本人は悪魔か?
山間部に位置する村「谷城<コクソン>」で惨殺事件が相次ぎ、村人たちは恐怖に包まれる。警察は毒キノコにより幻覚を起こした者による殺人事件と判断するが、犯人たちは次々と不可解な死を遂げる。次第に、最近山に住み着いた日本人(國村、以下「よそ者」)の仕業ではないかというウワサが広まっていく。最初こそ話半分で聞いていた警察官のジョング(クァク・ドウォン)だが、現場を目撃したという神出鬼没な女ムミョン(チョン・ウヒ)の話を聞いてから信じ始める。
そんな中、ジョングの娘ヒョジン(キム・ファニ)の体に犯人たちと同じような湿疹が現れ、普段のヒョジンからは想像できないような粗暴な言動が見られるようになる。ジョングはよそ者を村から追い出そうとし、さらに、祈祷師のイルグァン(ファン・ジョンミン)を呼んで悪霊祓いの儀式も行うが、娘の容体は悪化するばかり。
怒り狂ったジョングは村人を集め、よそ者退治を試みるも失敗する。だが、その帰り道、ムミョンによって突き落とされたのか、よそ者は崖から落ちてジョングの運転するトラックにぶつかって死んだ。これで一件落着かと安心するジョングだが、ヒョジンは治らず、惨殺事件も終わらない。
絶望するジョングの前に忽然と現れたムミョンは、よそ者と祈祷師がグルだと断言。ヒョジンを守りたければ言う通りにしろと忠告するが、同時に祈祷師から電話で「女(ムミョン)こそが村を滅ぼそうとする悪魔だ」と言われたジョングは、ムミョンの忠告を守らず、その結果、ジョングの家族にも惨殺事件が起きてしまう。
一方、よそ者はまだ生きていた。その正体を暴くべく、教会の助祭のイサム(キム・ドユン)がよそ者の元を訪れる。だが、そこで目にしたのは、「疑うな」という聖書の一節を口にしながら悪魔へと変貌するよそ者の姿だった。
『殺人の追憶』(2003)
劇中にちりばめた“本当の犯人”の存在
1986年の京畿道・華城。田園風景の広がる田舎の用水路で、レイプ・殺害された若い女性の遺体が発見され、同様の犯行が相次いだことで一帯は恐怖に包まれる。地元警察はク・ヒボン課長(ピョン・ヒボン)のもと、刑事パク・トゥマン(ソン・ガンホ)とチョ・ヨング(キム・レハ)、そしてソウル市警からやってきたソ・テユン(キム・サンギョン)が加わり、捜査に当たることに。
「勘」に頼るパク刑事と、書類などの証拠に基づき綿密な捜査を進めていくソ刑事は、ことごとく衝突する。そんな中、パクは知的障害を持つクァンホ(パク・ノシク)を容疑者として逮捕するが、現場検証で彼は犯行を否定、自白も捏造によるものだったことが判明し、ク課長は罷免される。
後任のシン・ドンチョル課長(ソン・ジェホ)のもと、再び捜査は振り出しに。「雨の日」「赤い服を着た女性が犯行の対象」という共通点からおとり捜査を試みるも、犯行はやまず、刑事らは窮地に追い込まれていく。女性警察官のギオク(コ・ソヒ)が見つけたもうひとつの共通点から、新たな容疑者パク・ヒョンギュ(パク・へイル)が浮上するが、彼は犯行を全面否定。刑事らは動かぬ証拠を手に入れるために、最後の一手に打って出るが……。
『お嬢さん』(2016)
女性同士のラブシーンが描いた「連帯」と「男性支配」からの脱出
1930年代の植民地朝鮮。幼い頃に両親を失い、叔父・上月(チョ・ジヌン)の厳しい保護の下で暮らしている秀子(キム・ミニ)。ある日、藤原伯爵(ハ・ジョンウ)の紹介で朝鮮人の少女・スッキ(キム・テリ)が、「珠子」の名で侍女として秀子に仕えることになる。
毎日のように叔父の書斎で本を朗読するのが日常の全てだった秀子は、いつしか純真なスッキを頼るように。だがスッキの正体は、有名な女泥棒の娘で、詐欺集団によって育てられたスリだった。そして藤原伯爵もまた、秀子を誘惑して結婚し、彼女が相続する莫大な財産を横取りしようとする詐欺師。
スッキはそんな伯爵の企みに乗り、秀子と伯爵が結ばれるよう仕向けるために送り込まれたのだ。秀子の心を揺さぶるため、藤原伯爵とスッキの陰謀が始まるが、3人の関係は予想だにしない方向へと進んでいく。
『パラサイト 半地下の家族』(2019)
3つのキーワードの意味を徹底解説
ソウルの半地下の部屋に暮らすキム一家は、全員が失業中。ある日、名門大学に通う友人の紹介で、長男のギウ(チェ・ウシク)が、IT企業のパク社長(イ・ソンギュン)の娘ダヘ(チョン・ジソ)の家庭教師になった。
それを皮切りに、キム一家は次々とパク社長の家に「就職」することになる。ギウの妹ギジョン(パク・ソダム)は、社長の息子ダソン(チョン・ヒョンジュン)の美術教師に、母チュンスク(チャン・ヘジン)は家政婦に、父ギテク(ソン・ガンホ)は社長の運転手に。こうして、出会うはずのない社会の頂点と底辺に位置する家族が出会ったとき、事態は思わぬ方向へと展開していく。
『新感染半島 ファイナ ル・ステージ』(2020)
韓国を分断する「左翼ゾンビ」「右翼ゾンビ」とは?
人間をゾンビにしてしまうウイルスによって崩壊した韓国(半島)から脱出しようと、姉家族と船に乗り込んだジョンソク大尉(カン・ドンウォン)。だが客室に感染者が発生、姉と甥はゾンビに襲われてしまう。
――それから4年後、亡命先の香港でひどい差別を受け、惨めな日々を送るジョンソクと義兄のチョルミン(キム・ドユン)に、大金を積んだまま半島に残されたトラックを持ち出すという闇組織からの計画が舞い込む。彼らは半島に潜入し、任務の遂行までもう少しというところで、襲いかかるゾンビの大群に加えて、半島に残る得体の知れない人間たちとも対峙することになる……。
『82年生まれ、キム・ジヨン』(2019)
可視化された“男性社会”と「見えない差別」
1982年生まれのキム・ジヨン(チョン・ユミ)は、会社員の夫・デヒョン(コン・ユ)と幼い娘のアヨンの3人で暮らす平凡な専業主婦。大学卒業後、やっとの思いで入った会社は出産とともに退職、現在は家事や育児に追われる日々を送っている。
そんなジヨンにある日、異変が現れる。時折、母(キム・ミギョン)や祖母など、身近な女性に憑依されたかのような言動をとるようになったのだ。驚いたデヒョンは精神科医に相談するが、ジヨンに自覚はなく、デヒョンの心配や優しさもいちいち気に障る始末だ。
母・妻・嫁としての立場に疲れ、娘との孤独な時間の中で焦燥感にさいなまれる中、ジヨンは幼い頃からの思い出を振り返りながら、自分自身の行き方を見つめ直していく……。
『息もできない』(2009)
韓国における父と息子のあまりにも強固で不健全な関係とは?
親友(先輩でもある)マンシク(チョン・マンシク)のもとでヤクザ稼業にいそしむサンフン(ヤン・イクチュン)は、大学生たちのデモに乗り込んで暴力を振るったり、無許可営業の屋台を容赦なく破壊したり、債務者の家を回っては無慈悲な暴力で借金を取り立てたりと、ことごとく最低な乱暴者だ。異母姉の幼い息子の遊び相手になるなど根は優しいものの、幼い頃、父(パク・チョンスン)の家庭内暴力が原因で母と妹を失うというつらい過去を持つ彼は、15年の刑期を終えて出所してきた父を前にして、イライラを募らせるばかり。そんなある日、女子高生のヨニ(キム・コッピ)と知り合ったサンフンは、自分のようなヤクザを前にしても物おじしない彼女に少しずつ惹かれていく。
実はヨニの家庭も、決して幸せではなかった。ベトナム戦争の後遺症でPTSDを抱える父(チェ・ヨンミン)、無許可営業の屋台を潰された挙げ句に病死した母(キル・ヘヨン)、暗鬱な環境の家庭でますます暴力的になっていく弟(イ・ファン)と、ヨニもまたサンフンのような絶望的な状況に置かれていたのだ。サンフンとの出会いはヨニにとっても小さな救いをもたらし、2人は徐々に心を通わせていく。暴力的な自分を見つめ直し、ついにヤクザから足を洗う決心をしたサンフンだが、その先に待っていたのはあまりにも悲しい結末だった。
『バッカス・レディ』(2016)
4つのセリフが示す、韓国現代史の負の側面
鍾路一帯で老人男性を相手に売春をして生活している67歳の「バッカスおばあさん」のソヨン。客の間では“セックスのうまい女”として、鍾路一の人気を誇っている。性病の治療のために訪れた病院で偶然出会った混血児の少年ミノ(チェ・ヒョンジュン)を保護したソヨンは、トランスジェンダーの大家・ティナ(アン・アジュ)や義足の青年ドフン(ユン・ゲサン)らが暮らすアパートにミノを連れ帰る。
ある日ソヨンは、脳梗塞で倒れた常連のソン(パク・ギュチェ)から「自分を殺してほしい」と依頼される。かつての凛々しさを失い、家族からも見捨てられたソンへの憐憫に駆られたソヨンは、迷いつつもソンの頼みを受け入れる。これをきっかけに、ソヨンには同じような依頼が相次ぎ、彼女は戸惑いながらも彼らの死に手を貸すようになる……。
『キングメーカー 大統領を作った男』(2022)
日本で知られていない歴史的出来事とは?
政治家として世の中を変えたい一心で選挙に挑み続けるも、落選続きでなかなか前に進めないキム・ウンボム(ソル・ギョング)のもとに、彼と志を共にしようとする男、ソ・チャンデ(イ・ソンギュン)が現れる。選挙参謀になったチャンデは、正当な戦法を求めるキム・ウンボムの意に反して狡猾な戦略を次々と編み出し、劣勢の状況にもかかわらず次々と当選させていく。
そしてついに、キム・ウンボムは党を代表して大統領選挙に出馬する候補にまで選出される。本格的な選挙戦が始まる中、キム・ウンボムの自宅で予期せぬ爆破事件が発生。容疑者としてソ・チャンデが浮上したことで、2人の関係は揺らぎ始める……。
『ベイビー・ブローカー』(2022)
韓国における「ベイビーボックス」の実態
借金に追われるクリーニング屋のサンヒョン(ソン・ガンホ)は、児童養護施設出身で、現在はベイビーボックスの施設で働くドンス(カン・ドンウォン)と共に、ベイビーボックスに「預けられた」赤ちゃんをこっそり連れ去ってひそかに売るブローカーをしていた。
ある雨の夜、いつものようにベイビーボックスの中の赤ちゃんを連れ出したものの、その赤ちゃんの母・ソヨン(イ・ジウン)が思い直し、翌日に取り戻しに来る。警察への通報を恐れたサンヒョンとドンスは、仕方なくソヨンに赤ちゃんを連れ出したことを白状する。
「赤ちゃんを大切に育ててくれる家族を見つけようとした」という趣旨の言い訳を聞きあきれるソヨンだが、彼らと一緒に養父母探しの旅に出ることになる。一方、半年間にわたりサンヒョンとドンスをマークしてきた刑事のスジン(ペ・ドゥナ)と後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)も、現行犯逮捕の瞬間を狙い、静かに彼らの後を追うのだが……。
『7番房の奇跡』(2012)
「死刑と冤罪」を描き、見逃してはいけない実際の事件とは?
1997年、知的障害を持つイ・ヨング(リュ・スンリョン)は、幼い娘イェスン(カル・ソウォン)と2人暮らし。駐車誘導の仕事に就いているヨングは、イェスンが欲しがっていたランドセルを買うためにお金を貯めていたが、店にあった最後のひとつが売れてしまい、がっかりする。
数日後、最後のランドセルを買った少女が、同じものを売っている店まで案内してくれるというのでついていくが、路地でヨングは転んでしまい、ようやく追いつくと、少女はなぜか倒れて死んでいた。訳がわからず、警備の仕事で教わった救命措置を施すヨングだったが、その様子が逆に怪しまれ、彼は誘拐と殺人の罪で逮捕されてしまう。
収監された刑務所の7番房の面々にいじめられるヨングだったが、ケンカに巻き込まれた房長(オ・ダルス)を自分の命を顧みずに助けたことで信頼を得る。恩義を感じた房長は、娘に会いたがっているヨングのため、聖歌隊の慰問を利用してイェスンを7番房に招き入れる。再会に歓喜する父娘の姿に、7番房のメンバーもヨングの無実を信じるが、アクシデントから帰りそびれたイェスンは、密かに7番房で一緒に生活することに……。
一方、自身もヨングに命を救われた刑務所課長(チョン・ジニョン)は、ヨングの罪に疑問を持ち、事件を調べ始める。そして亡くなった少女が警察庁長官の娘で、なんとしても犯人逮捕しなければならなかった警察の強引な捜査によってヨングが犯人にされてしまったことがわかると、刑務所総出でヨングに証言を練習させて裁判に備える。しかし迎えた公判でのヨングの証言は、練習とはまったく異なるものだった……。
『白頭山大噴火』(2019)
映画から見える南北関係の変化
北朝鮮と中国の国境にまたがる白頭山で、観測史上最大規模の噴火が発生。韓国も北朝鮮もパニックに陥って朝鮮半島は甚大な被害に見舞われる。さらなる大噴火が予測される中、南北の破滅という最悪の事態だけは避けようと、政府は地質学者カン・ボンネ教授(マ・ドンソク)に協力を要請、カン教授は北朝鮮が保有する核爆弾で白頭山地底のマグマの流れを変えて噴火を阻止するという作戦を立てる。
除隊を控えた特殊部隊の大尉チョ・インチャン(ハ・ジョンウ)をはじめ、隊員たちは南北の運命がかかった任務を背負って北朝鮮に向かう。そこで作戦の鍵を握る北朝鮮の工作員リ・ジュンピョン(イ・ビョンホン)との接触に成功。白頭山へ向かうが、中国や米軍までもが核を狙って介入し、噴火までのタイムリミットは刻々と迫ってくる。ようやく白頭山に到達したチョ大尉とリ・ジュンピョンだが、彼らを待っていたのは過酷な運命の分かれ道だった……。
『サムジンカンパニー1995』(2020)
90年代から現在に続く韓国の社会問題とは?
1995年、金泳三大統領の「世界化」宣言によってソウルの街には英語塾が急増、社会は英語ブーム一色になっていた。大企業のサムジン電子は、社内にTOEICクラスを設け、高卒の女性社員でも600点を超えたら「代理」(日本でいう係長)に昇進できるチャンスを与えると告知する。入社8年目を迎える高卒組のイ・ジャヨン(コ・アソン)、チョン・ユナ(イ・ソム)、シム・ボラム(パク・ヘス)は、実務能力は優秀だが、掃除やお茶くみなどの雑用ばかりさせられる毎日にへきえきし、昇進の希望を胸にTOEICクラスを受講する毎日だ。
そんなある日、雑用のため工場に出向いたジャヨンは、工場から有害物質が川に流出しているのを偶然目撃してしまう。ユナ、ボラムと共に会社の隠蔽工作を明らかにしようと奮闘する。解雇の危機にさらされながらも決してあきらめない彼女らは、やがて会社の巨大な陰謀を知ることになるのだが……。
『アジョシ』(2010)
「テコンドー」と“作られた伝統”の歴史
質屋を営みながら孤独に暮らすテシク(ウォン・ビン)。そこにやってくるのは、客と隣の家の幼い少女・ソミ(キム・セロン)だけだ。家でも学校でも1人で過ごす時間が多いソミは、テシクを「アジョシ(おじさん)」と呼んで慕い、テシクもソミに心を開いていく。そんなある日、ソミは麻薬事件に関与した母親と共に拉致され、どこかへ連れ去られてしまう。テシクはソミ親子を助けるため、拉致犯たちに言われるがままに麻薬を運ぶ。
だが、ソミの母親はすでに残酷な方法で殺されており、犯人たちが凶暴な臓器密売の組織であることを知ったテシクは、必死にソミの行方を探して走り回る。一方、一連の事件との関係を疑ってテシクを追っていた警察は、ヴェールに包まれていた彼の過去にたどり着く。テシクはある極秘任務の報復で家族を失い、そのショックで退役した特殊工作部隊の最精鋭要員だったのだ。作戦で敵を制圧するがごとく、ソミの母親を殺した犯人たちを次々と排除し、ついに臓器密売組織のアジトに乗り込むテシク。ソミを救うため、命を懸けた彼の最後の戦いが始まる。
『ミナリ』(2020)
主人公が「韓国では暮らせなかった」事情とは何か?
舞台は1980年代のアメリカ。韓国系移民のジェイコブ(スティーヴン・ユアン)は、家族を連れてアーカンソー州の田舎に引っ越してくる。妻のモニカ(ハン・イェリ)とヒヨコ鑑定の仕事に従事しつつ、長年の夢である農場作りを実現するためだ。妻は、心臓に病気を抱える息子デビッド(アラン・キム)や長女のアン(ノエル・ケイト・チョー)ら、家族を顧みずに夢ばかり追う夫に不満を爆発させ、新しいすみかとなったトレーラーの中では夫婦げんかが絶えない。
そこで彼らは、韓国からモニカの母親・スンジャ(ユン・ヨジョン)をアメリカに呼び寄せ、一緒に暮らすことにする。唐辛子の粉や漢方薬、ミナリの種をカバンいっぱいに詰め込んでやって来たスンジャは、「ザ・韓国のおばあちゃん」。花札に興じて奇声を上げる祖母・スンジャの姿に、デビッドは自身が思い描いてきた「グランマ」とのギャップを感じつつも、徐々に心を開いていく。一方、ジェイコブはなんとか農場を成功させようと必死で仕事に励むのだが……。
『焼肉ドラゴン』(2018)
韓国側から見た「在日コリアン」の歴史
1969年、高度経済成長を達成し、大阪万博を控えた日本。大阪の空港近くの集落に小さな焼肉店「焼肉ドラゴン」があった。店を営むのは、太平洋戦争に動員され左腕を失った金龍吉(キム・サンホ)と、大混乱の済州島から日本に逃げてきた高英順(イ・ジョンウン)。龍吉は静花(真木よう子)と梨花(井上真央)、英順は美花(桜庭ななみ)をそれぞれ連れて再婚し、2人の間には長男・時生(大江晋平)が生まれ、6人で暮らしている。
幼い頃の事故で片足に障害を負った長女・静花は結婚を諦めているが、次女・梨花は李哲夫(大泉洋)との結婚を控えている。しかし、静花と哲夫は元恋人で、いまだに気持ちが残っていることを知る梨花は、哲夫とのケンカが絶えない。一方、クラブで働く三女・美花は妻帯者の長谷川(大谷良平)と不倫関係にあり、日本人の私立学校に通う末っ子・時生は、いじめが原因で失語症になってしまった。
決して平穏とは言えないものの、仲間や常連客たちと一緒に、明るく生きてきた一家。そんなある日、大きな悲しみが彼らを襲う。いじめや不登校が重なって留年した時生に、龍吉が負けずに学校に通うよう言い聞かせたところ、絶望した時生は橋の上から飛び降り自殺を遂げたのだ。さらに、“日本人から買った家”に住んでいるという龍吉の主張が役所に受け入れられず、立ち退きを余儀なくされ、店まで取り壊されることに。そして大阪万博から1年、それぞれが人生の選択をした家族は散り散りになりながらも、希望を胸に長年暮らした場所を後にするのだった。
『整形水』(2020)
男性中心社会に入る切符としての「美」
幼い頃、バレエの才能の片鱗を見せていたイェジは、外見による壁にぶつかり、それがすっかりトラウマとなってしまった。大人になった今は、人気タレント・ミリのメイク担当として働いている。ミリからは毎日のように罵倒され蔑まれるなか、偶然出演する羽目になったテレビショッピング番組で、悪意ある切り取られ方をしたイェジの姿がネット上に広まり、外見に対する悪質な書き込みでショックを受け、部屋に引きこもるように。
そんなある日、ウワサで聞いていた「整形水」が、なぜかイェジのもとに届く。それに顔を浸せば、思うがままに簡単に、顔や体を変えられるという水だった。半信半疑ながらも試してみると、イェジは信じられない変貌を遂げる。変わる周りの視線。さらに美しくなるため、イェジは巨額の借金を重ねて整形水にのめり込む。だが、彼女の整形への欲望は、徐々に恐ろしい方向へと逸脱していく。
『君の誕生日』(2018)
「セウォル号沈没事故」遺族たちの“闘い”と“悲しみ”の現在地
セウォル号沈没事故で息子のスホ(ユン・チャニョン)を失い悲しみに暮れる母・スンナム(チョン・ドヨン)と、幼くして失った兄を懐かしむ妹のイェソル(キム・ボミン)のもとに、仕事の事情で長い間外国にいた父・ジョンイル(ソル・ギョング)が突然帰ってくる。
家族にとって最もつらい時期に不在だったジョンイルに対し、スンナムは戸惑いと怒りを隠せない。罪悪感にさいなまれながらも、夫として、父として償おうとするジョンイルに、遺族団体からスホの誕生日パーティーが持ちかけられる。
激しい拒否反応を示すスンナムに対し、スホとの新たな再会の機会になるからと説得するジョンイル。生前のスホを知る多くの人々が集った誕生日パーティーで、スホがみんなの記憶の中に生きていることを再確認したスンナムやジョンイルは、スホを近くに感じながら、新たな日々を歩き始める。
『マルモイ』(2019)
「ハングル辞典」誕生、「独自の言葉」を守る意味とは?
1940年代、日本統治下の京城(現ソウル)。映画館の仕事をクビになったキム・パンス(ユ・ヘジン)は、息子ドクジン(チョ・ヒョンド)の学費を得るために、他人のカバンを盗もうとして失敗。
その後、かつて刑務所でパンスに助けてもらったというチョ先生(キム・ホンパ)の紹介で、雑用係の面接に向かった朝鮮語学会にて、カバンの持ち主であるリュ・ジョンファン(ユン・ゲサン)と再会する。ジョンファンは文字の読めないパンスが学会で働くことに反対するが、ほかのメンバーたちが歓迎したため、パンスがハングルを覚えることを条件に渋々受け入れる。
粗野だが人情に厚いパンスは、ハングルを学ぶなかで「朝鮮語」の大切さを知り、次第に「朝鮮人」としての民族意識にも目覚めていく。だがその一方で戦時下の朝鮮では、朝鮮語の使用を禁止し、日本語を強要する政策が行われており、そんな中でも朝鮮語辞書を作ろうとする朝鮮語学会に対し、朝鮮総督府は弾圧を強めていった……。
『はちどり』(2019)
韓国における「正当化された暴力」と儒教思想の歴史
1994年のソウル。餅屋を営む両親、姉のスヒ(パク・スヨン)、兄のデフン(ソン・サンヨン)と暮らす14歳、末っ子の女子中学生ウニ(パク・ジフ)は、勉強が苦手で学校も好きではないが、ボーイフレンドと仲の良い、ごく平凡な女の子。
兄は優等生だがウニに対しては暴力的で、姉は不良に片足を突っ込んでいる。父(チョン・インギ)や母(イ・スンヨン)は末っ子のウニにあまり興味がないようだ。そんなある日、ウニが通う漢文塾に、新しい講師・ヨンジ先生(キム・セビョク)がやってくる。
初めて自分の気持ちを理解してくれる大人に出会ったウニは、彼女のことを大好きになるが、先生との日々は長くは続かなかった。突然姿を消した先生の行方をウニが知ったのは、ソンス大橋の崩落という信じられない事故が起こってから間もなくのことだった……。
『バーニング 劇場版』(2018)
『パラサイト』につながる“ヒエラルキー”と“分断”の闇
作家を夢見るジョンス(ユ・アイン)は、宅配のアルバイトの途中で幼なじみの女性ヘミ(チョン・ジョンソ)と偶然再会する。まもなくヘミは、旅行中の猫の世話をジョンスに頼んでアフリカへと旅立つ。
帰国すると、現地で出会った男性ベン(スティーブン・ユァン)をジョンスに紹介する。金持ちだが素性のわからないベンと付き合う中で、ジョンスはベンからビニールハウスを焼く趣味があること、そして近日中にジョンスの家の近くのビニールハウスを焼くつもりであることを聞く。
近所のビニールハウスを調べるジョンスは、同じ頃、突然姿を消したヘミを探すうちに、ベンに対する疑念を募らせていく。
『トガニ 幼き瞳の告発』(2011)
厳しい現実を描き、社会と法律を変えた作品
韓国南部の街・霧津(ムジン)にある聾学校「慈愛学園」に美術教師として赴任したカン・イノ(コン・ユ)は、自分を警戒する生徒たちの態度や、夜中に女子トイレから聞こえる悲鳴など、校内の異様な雰囲気に疑念を抱く。
ある日イノは、ヨンドゥ(キム・ヒョンス)、ユリ(チョン・インソ)、ミンス(ペク・スンファン)と彼の弟が、双子である校長と行政室長(チャン・グァンによる二役)、教師らに性的暴力や虐待を受けており、ミンスの弟はそのことが原因で自殺したと知る。イノは彼らを保護し、人権センターで働くソ・ユジン(チョン・ユミ)とともに告発するが、学園と結託した警察や教会団体の妨害に遭ってしまう。
テレビ報道によってようやく校長らは逮捕され、裁判が行われる中でイノらは決定的な証拠にたどり着くも、司法の悪習によって、加害者たちは執行猶予で釈放される結果に。
親が知的障害を持つことにつけ込まれて示談にされ、証言すら許されなかったミンスは、自らの手で復讐すると言い残し、家を出る。イノとユジンはミンスを探し回るが、待っていたのはさらに悲惨な現実だった。
『国家が破産する日』(2018)
日常を一瞬で粉々にするIMFという「爆弾」
OECD(経済協力開発機構)への加盟を実現し、ついに先進国への仲間入りを果たしたと国全体が浮かれていた1997年の韓国。しかし水面下では経済破綻が確実に迫っていた。
通貨危機の兆しを察した韓国の中央銀行「韓国銀行」の通貨政策チーム長ハン・シヒョン(キム・ヘス)は上司に報告、政府は遅ればせながら国家の破産を防ぐべく、密かに対策チームを立ち上げる。一方、独自の分析で状況を把握した金融コンサルタントのユン・ジョンハク(ユ・アイン)は会社を辞め、危機こそチャンスと主張し、投資家たちを集める。
そんな社会の動向を知るすべもない町工場の社長ガプス(ホ・ジュノ)は、大手デパートとの大口契約締結に大喜び、現金ではなく手形取引であることに一抹の不安を抱きつつも事業の拡大に乗り出す。対策チームでは、危機にどう取り組むべきかをめぐり、シヒョンと財務局次官パク・デヨン(チョ・ウジン)が激しく対立する。
反対するシヒョンを振り切ってデヨンは強引にIMFへ救済を要請。専務理事(ヴァンサン・カッセル)が交渉のために来韓し、韓国の運命はIMFの手に委ねられる……。
『タクシー運転手~約束は海を越えて』(2017)
光州事件をめぐる国民的心情とは?
1980年のソウル。タクシー運転手のマンソプ(ソン・ガンホ)は、あちこちで繰り広げられる学生デモに悪態をつきながら車を走らせていた。ひょんなことからドイツ人記者ピーター(トーマス・クレッチマン)を光州まで乗せる仕事について聞きつけたマンソプは、大金に目がくらみ喜び勇んで向かうものの、光州への道路はなぜか軍人によって遮断されていた。
検問を逃れ、なんとか光州にたどり着くも、そこにはデモ隊と軍隊が衝突する異様な光景が展開されていた。危ないから引き返そうとするマンソプだが、ピーターはカメラを向けて街を撮影し始める。ピーターと対立しつつも、大学生ジェシク(リュ・ジュンヨル)や光州のタクシー運転手(ユ・ヘジン)と知り合う中で、次第に事の重大さに気づいていくマンソプ。
一人家で待つ娘を心配し、一度はソウルへ戻ろうとするマンソプだったが、光州での実態が捏造されて報道されている事実を知り、再び光州へと車を向かわせる。
『明日へ』(2014)
非正規雇用の女性たちの憤りと社会問題を描く
大手スーパー「ザ・マート」のレジ系として働くソニ(ヨム・ジョンア)は、真面目に業務をこなし、サービス残業も積極的に引き受けてきたおかげで、正社員への登用が約束され幸せいっぱいだった。ところがある日、彼女を含む非正規の女性労働者たちは、会社から一方的に解雇を通報される。
ろくに説明もない会社の理不尽な態度に、シングルマザーのヘミ(ムン・ジョンヒ)、清掃員のスルレ(キム・ヨンエ)らは憤り、団結して闘おうと労組を結成。ソニもリーダーの1人に抜てきされ、交渉を試みるも、会社側は彼女たちに向き合おうともしない。
このままではらちが明かないと判断した彼女たちは、ストライキを敢行しスーパーの占拠に踏み切るが、「不法占拠」として警察から排除され、逆に会社から訴えられてしまう。仲間同士を分裂させようとする会社側のさまざまな妨害に遭いながら、人間としての尊厳を必死で守ろうとする女性たちだが、ギリギリの生活の中で、家族との関係にもひびが入ってしまう。果たしてソニらは「良き明日」を勝ち取ることができるだろうか?
『下女』(1960)
2つの不思議な設定と「韓国社会の歪み」
妻(チュ・ジュンニョ)や足の不自由な娘、息子(アン・ソンギ)と4人で暮らすピアノ教師のトンシク(キム・ジンギュ)は、新しい家を建てて引っ越しをする。だが、新築のために無理して内職を続けていた妻は体を崩してしまい、トンシクは若い下女(イ・ウンシム)を雇う。
そんなある日、妻の留守中に下女はトンシクを誘惑して関係を結び妊娠。しかし、これを知った妻によって中絶させられてしまう。そのショックで徐々に乱暴になっていく下女は、ついに残酷で執拗な復讐に出る……。
『密偵』(2016)
韓国で英雄視される「義烈団」とは?
1920年代の植民地朝鮮。独立のための資金集めに奔走していた義烈団メンバー、キム・ジャンオク(パク・ヒスン)は日本警察に追われ、日本の手先となっていた朝鮮人警部イ・ジョンチュル(ソン・ガンホ)の目の前で自殺。これを機に、義烈団メンバーの検挙に乗り出した日本警察は、ジョンチュルを使って古美術商の義烈団メンバー、キム・ウジン(コン・ユ)へと接近を試みる。団を率いるチョン・チェサン(イ・ビョンホン)との接触に成功したジョンチュルだが、日本警察という立場と朝鮮人のアイデンティティの間で揺らぎ、次第に義烈団に協力するようになる。
日本警察部長のヒガシ(鶴見辰吾)が送り込んだ警部ハシモト(オム・テグ)の監視をかいくぐりながら、義烈団を追うジョンチュル。一方で、義烈団の中にも密偵が存在し、そのせいで彼らの作戦は見破られ、一網打尽にされてしまう。一度は捕まったジョンチュルだが、自分は警察側の密偵として義烈団に近づいたにすぎないと訴えて釈放。見せしめのため、義烈団の女性メンバー、ヨン・ゲスン(ハン・ジミン)への拷問に加担させられながらも、ジョンチュルはウジンとの“ある目的”を果たすべく、隠してあった爆弾を持ち出して最後の行動へと移る……。
『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』(2019)
63人もの被害者を出した「奴隷事件」との共通点
看護師のジョンヨン(イ・ヨンエ)と夫のミョングク(パク・ヘジュン)は、6年前に行方不明になった息子ユンスを捜して全国を駆け回っている。2人の生活は苦しみの連続だが、それでも希望は捨てていない。
だがある日、ミョングクは情報提供者を名乗る人物との待ち合わせ場所に向かう途中、交通事故に遭って命を落としてしまう。息子だけでなく最愛の夫をも失い、絶望に突き落とされるジョンヨン。そんな彼女のところに今度は、ユンスとよく似た「ミンス(イ・シウ)」という子どもが、ある島の釣り場で虐待を受けつつ働かされているとの電話がかかってくる。
ユンスであることを祈りつつ、ジョンヨンが釣り場に駆けつけると、そこで彼女を待っていたのは何やら訳ありげなホン警長(ユ・ジェミョン)や釣り場の主人らだった。かたくなにジョンヨンを「ミンス」に会わせようとしない彼らを怪しみながら、ジョンヨンは自らの力で徐々に真実に近づいていく。そして息子を助け出すため、彼女の孤独な死闘が始まる……。
『スウィング・キッズ』(2018)
“タップダンス”で際立つ捕虜収容所の暗鬱な現実
1951年、朝鮮戦争中の巨済島捕虜収容所。新任所長(ロス・ケトル)は収容所のイメージ改善のために、捕虜たちでダンスチームを作る計画を立て、ブロードウェイの舞台に立ったことのあるジャクソン(ジャレッド・グライムス)にその任務を任せる。
ジャクソンは、ダンスの才能を持っている捕虜のロ・ギス(D.O.)、英語はもちろん日本語や中国語もできる踊り子ヤン・パンネ(パク・ヘス)、離れ離れになった妻を探すために有名になりたいカン・ビョンサム(オ・ジョンセ)、ダンスの実力はあるが栄養失調ですぐ息の切れる中国軍捕虜のシャオパン(キム・ミノ)の4人を集めて、タップダンスチーム「スウィング・キッズ」を結成する。
ところが、この計画を良く思わない米軍兵士たちの罠にかかり、ジャクソンは刑務所に入れられてしまう。チームのメンバーたちはジャクソンを助けるため、収容所の視察に訪れた赤十字の訪問団の前で踊りを披露し、大きな反響を得る。さらに、所長は記者たちに「クリスマスにこのチームがダンスを披露する」と公言。ジャクソンも釈放され、「スウィング・キッズ」はタップダンスの練習を再開する。
一方、新しく収監された捕虜のグァングク(イ・デビッド)の煽動と、「人民の英雄」でロ・ギスの兄であるギジン(キム・ドンゴン)の登場とともに、捕虜たちの暴動はますますエスカレート。ついに彼らは所長暗殺もたくらみ、ロ・ギスも巻き込まれていくことになる。
『チスル』(2013)
韓国現代史最大のタブー「済州島四・三事件」を読み解く
1948年11月、米軍と韓国軍は済州島に戒厳令を敷き「海岸から5キロ以上離れた中山間地域の島民は暴徒と見なし、無条件に射殺せよ」と命令を下した。村人たちは訳もわからないまま山奥へと逃げ、洞窟に身を隠しながら時間をやり過ごしていた。
持ち寄ったジャガイモを分け合ったり、飼っている豚の心配をしたりと、たわいのない会話に興じる彼らだったが、本を取りに戻った少女スンドク(カン・ヒ)や、こっそり豚の様子を確認しに向かったおじさん(ムン・ソクボム)が殺されるなど、死の影は徐々に忍び寄ってくる。やがて捕らえられた村人の一人が、命を助けてくれれば洞窟の場所を教えると裏切ったため、ついに洞窟は軍人たちに包囲されてしまう……。
『記憶の戦争』(2020)
ベトナム戦争と韓国の関係とは?
映画は主に、ベトナムの有名な観光都市・ダナンからそう遠くないフォンニィ村で68年2月12日に起こった虐殺事件を取り上げている。子どもや女性、老人を含め、確認されただけで74人が韓国軍によって殺された事件だ。
韓国は64年9月~73年3月に延べ30万人以上の兵力をベトナムに送っているが、この期間に約80件の虐殺事件を起こしたと報道されており、被害者は最低でも約9,000人に達すると推定される。ウワサレベルでしか語られていないものや、証言はあっても裏付ける証拠のない事件も多いため、実態の把握は非常に難しく、正式に認められたのは80件のうち、敵兵と誤認して6人の民間人を射殺したというたった1件のみである。92年に韓国とベトナムが正式に外交関係を結んでからは、一つの虐殺も認められていない。
このような現状からは、韓国政府が真相究明にいかに消極的な姿勢を貫いてきたかがうかがえる。だがフォンニィ村の虐殺は、映画に登場する家族を殺された女性のタンさんや、視力を失ったラップさん、殺りくを目の当たりにした聴覚障害のあるコムさんらの証言だけでなく、当時の米軍の報告書の発見や虐殺に加担した韓国軍兵士の証言もあり、虐殺の事実はほとんど明らかだと言わざるを得ない。
『エクストリーム・ジョブ』(2019)
韓国で“チキン”が愛される背景
昼夜を問わず犯人逮捕に東奔西走、孤軍奮闘するもこれといった成果は上げられず、ついに解体の危機にさらされる麻浦警察署の麻薬捜査班。最後のチャンスとして国際的な犯罪組織による麻薬密輸の捜査を命じられた面々は、リーダーのコ班長(リュ・スンリョン)と4人の部下、チャン刑事(イ・ハニ)、マ刑事(チン・ソンギュ)、ヨンホ(イ・ドンフィ)、ジェホン(コンミョン)で張り込みを開始。だが、アジトの向かいにある張り込みにぴったりだったトンダク屋の主人は、売り上げ不振のため閉店を宣言してしまう。
班の解体のためにはもう後がないコ班長は、悩んだ末に退職金を前借りしてトンダク屋を買い取り、捜査とわからないよう偽装のトンダク屋を始める。トンダクの作り方すら知らない彼らだったが、絶対味覚を持っているというマ刑事が故郷のカルビの味付けを応用して腕を発揮、「おいしい」とたちまち話題となり、メディアにも取り上げられて店は連日大繁盛。いつしか張り込みは後回しとなり、一行は接客に振り回されることに。
そんなある日、ついに犯罪組織から注文が入り、捜査班に一網打尽の絶好のチャンスが訪れる。だが、そこには巨大な陰謀が待ち受けていた……。
『ファイター、北からの挑戦者』(2020)
差別や詐欺、性的暴行の対象となる「脱北者」
脱北者の支援施設を出て、ソウルで一人暮らしを始めたジナ(イム・ソンミ)。食堂で働き始めるが、脱北して中国で身を隠している父を韓国に呼び寄せる資金を稼ぐため、さらにボクシングジムの清掃の仕事を掛け持つことに。ジムでのトレーニングの様子を目にしたジナは、少しずつボクシングに魅了されていく。やがてトレーナーのテス(ペク・ソビン)や館長(オ・グァンノク)に勧められ、戸惑いながらもジナはリングに立つことを決心する。
一方ジナには幼い頃、家族を捨てて脱北し韓国で再婚して暮らす母(イ・スンヨン)がいた。母と再会するも心を開くことができないジナだが、ボクシング練習に励み、ついにデビュー戦を迎える。果たしてジナは、ボクサーとして韓国での新たな人生に挑むことができるだろうか?
『野球少女』(2020)
物語とは決定的に異なる「悲しい」結末
全国で唯一、高校の野球部に所属する女子選手であり、「天才野球少女」と呼ばれ注目を浴びていたチュ・スイン(イ・ジュヨン)。彼女の夢は高校卒業後、プロ球団に入団して野球を続けることだ。だが、かつてはスインの実力に到底及ばなかった同級生男子が、彼女の身長を追い越し力もつけて、ドラフト指名を受けるまでになる。スインが持つ134キロという最高球速記録も、凡庸な数字にすぎなくなってしまった。
女子であるという理由だけで入団テストの機会もろくにもらえず、家族や監督からも現実を見るよう諭されるが、スインは諦めずに日々練習に励む。そんなある日、野球部に新しいコーチのジンテ(イ・ジュニョク)がやってくる。最初はまともに取り合わなかったジンテも、めげないスインの姿に徐々に心を動かされ、“球の回転数が多い”というスインの長所を伸ばした指導を行った結果、やがて大きなチャンスが訪れるのだが……。
『私の少女』(2014)
LGBTと韓国社会の現在地
14歳の少女・ドヒ(キム・セロン)は、継父のヨンハ(ソン・セビョク)と祖母から虐待を受けながら、人里離れた閉鎖的な海辺の村で孤独な日々を送っている。ある日、ソウルから村の警察署長として赴任してきたヨンナム(ペ・ドゥナ)は、村の子どもたちにいじめられていたドヒを助ける。そこで、ドヒへの虐待を知ったヨンナムは自宅に保護し、次第にドヒもヨンナムに懐いていく。
だが、2人の幸せは長く続かなかった。ヨンナムに強い不満を抱くヨンハが、ヨンナムと同性の恋人がキスをしている様子を目撃し、「同性愛者」と騒ぎ立てたからだ。実は、ヨンナムは同性愛を理由に左遷され、この村に赴任したのだった。ヨンナムから引き離され、元の生活に戻されてしまったドヒは、ヨンナムと自らのために大胆な行動に出る。それは、今までのドヒとは思えない、衝撃的なものだった。
『アシュラ』(2016)
物語そっくりな政治スキャンダル勃発
再開発を控える韓国の地方都市・アンナム。刑事のハン・ドギョン(チョン・ウソン)は、権力と利権のためなら手段を選ばない市長のパク・ソンベ(ファン・ジョンミン)の悪行の後始末を行い、カネをもらっている。末期がんを患うハン刑事の妻は市長の妹でもあり、2人は義理の兄弟関係であった。
妻の治療費が必要なハン刑事は、市長の不正を暴露しようとする動きを暴力で潰すなど、パク市長の言いなりになっていた。一方、市長を内密に捜査している検事のキム・チャイン(クァク・ドウォン)は、ハンの弱みを握り、市長の悪事の決定的な証拠を手に入れるスパイとして利用しようと画策。市長と検事の間で板挟みになっていくハン刑事は、ついに両者を直接対峙させ、事態は修羅場と化していく……。
『冬の小鳥』 (2009)
韓国経済を潤わせたのは「孤児の輸出」だった?
1975年、9歳のジニ(キム・セロン)は父親(ソル・ギョング)に連れられ、ソウル郊外にあるカトリックの児童養護施設にやってくる。孤児たちが集まるその場所に、父親はジニを預け、無言のまま帰ってしまう。去っていく父親の後ろ姿を不安そうに見つめていたジニは、何日たっても“捨てられた”という現実が受け入れられず、周りの人に反発を繰り返す。そんなジニを年上のスッキ(パク・ドヨン)は気にかけ、ジニも少しずつスッキに心を開いていく。
一方、子どもたちを養子として引き取るため、施設には時々アメリカ人夫婦が訪れる。だが、養子になるには大勢の子どもたちの中から選ばれなければならない。気が乗らないジニに対して、スッキは1日でも早く引き取られようと必死に英語を勉強し、アメリカ人の前では余計に明るく振る舞ったりする。その努力は功を奏し、ついにスッキはアメリカ人夫婦の養子として迎えられる。頼もしかったスッキに去られ、残されたジニは再び周囲に反抗的になっていくが、ある日、ジニにも養子の話が舞い込んでくる。行き先は、幼い少女にとってはあまりにも遠いフランスだった。
『フェイク~我は神なり』(2013)
韓国における宗教や信仰の背景――自称イエスが多いのはなぜか?
ダムの建設予定地で、水没の危機にある田舎の村に、プレハブの教会が建てられる。この教会の長老であるチェ・ギョンソク(声:クォン・ヘヒョ)は、牧師のソン・チョル(オ・ジョンセ)と共に病人を治癒するなどの詐欺を働いて村人を信じ込ませ、水没の補償金を騙し取ろうする。一方、外地から村に帰ってきたキム・ミンチョル(ヤン・イクチュン)は、娘のヨンソン(パク・ヒボン)の貯金を奪い、賭博に費やしてしまう。
ひょんなことから、チェ長老が実は指名手配中の詐欺師だと知ったミンチョルは、この事実を警察や村人に知らせようとするが、乱暴者のミンチョルを信じる者は誰もおらず、むしろミンチョルは悪魔呼ばわりされる。妻や娘にすら信じてもらえず暴力を加速させるミンチョルは、自分の正しさを証明しようとするが、チェ長老の口車に乗せられたヨンソンが行方不明になると、事態はますます破局へと向かっていく。
『ハハハ』(2010)
韓国の「あるべき男性像」と真逆の男たち
映画監督のムンギョン(キム・サンギョン)は、作品製作もうまくいかず、教えていた大学もクビになったため、親戚のいるカナダに移住を計画している。出発前に母親(ユン・ヨジョン)に会おうと故郷の統営(トンヨン)を訪れる。
その後、ソウルに戻ってから大学の先輩チュンシク(ユ・ジュンサン)と偶然に遭遇、なんと同じ時期にチュンシクも統営を訪れていたことがわかり、2人はマッコリを酌み交わしながら、統営での思い出話に花を咲かせる。
『逃げた女』(2020)
誰が、何から“逃げた”のか?
結婚以来一度も離れたことがないという夫が出張に出かけ、その間、ガミ(キム・ミニ)は3人の女友達を訪ね歩く。ひとりはバツイチの先輩ヨンスン(ソ・ヨンファ)、2人目は独身の先輩スヨン(ソン・ソンミ)、そして3人目は偶然入った映画館で再会した同級生のウジン(キム・セビョク)。ガミと女たちのやりとりを通して、それぞれの事情が少しずつ浮き彫りになっていくのだが……。