私たちの心のどこかを刺激する有名人たちの発言――ライター・仁科友里がその“言葉”を深掘りします。
<今回の有名人>
「今日で終わりにしたいと思います」ジャガー横田
「ジャガー横田ファミリーチャンネル」1月1日
有名人になりたい。誰もが、人生で一度くらいは、こんな願望を持つことがあるのではないだろうか。しかし、有名人になるには、世間サマをうならせるような業績を上げなければならないし、大衆に幅広く愛されるキャラクターも必要となる。言うまでもなく、これらを成し遂げることは並大抵のことではなく、有名人になりたいと思いつつ、実際は平凡な一般人として生きていく人がほとんどだろう。
しかし、SNSの出現で「有名人になる方法」は多様化した。最近では、芸能事務所に所属しないズブのシロウトでも、SNSの投稿がバズり、閲覧・視聴回数が伸びれば、有名人に仲間入りできる。この新たな「有名人になる方法」は、旧来の「本業でコツコツ実績を積み上げて結果を出す」――例えば、プロテストに合格して歌手になり、CDの売り上げ100万枚を達成して有名人になる方法よりかは、はるかに易しいはずだ。
しかし、そうは言っても、多くの人が「見たい」と思うものをSNSでコンスタントに提供するのは、簡単なことではない。そこで、多くの人が手を出してしまうのが炎上商法ではないだろうか。世間サマに叩かれるような投稿で、閲覧数や視聴回数を稼ぐ。ネットニュースになれば、さらに数字は伸びるだろう。「自分の目論見が当たって、投稿が世間にウケた」という達成感と万能感はクセになり、数字を取ることに夢中になってしまったとしてもおかしくはない。しかし、実績のない者の炎上商法は、あっという間に飽きられてしまうという危険性もある。
私から見て、ジャガー横田の夫で医師の木下博勝氏と一人息子の大維志くんは、SNSの魔力に取り憑かれ、炎上商法に手を染めているように思えてならない。
ジャガーファミリーといえば、大維志くんの高校受験の結果を、SNSを通じてオンタイムで報告したことにより話題となった。合格の報告ならともかく、不合格が続いて進学先がなくなるのではと危ぶまれたこともある。
当然、ネット上では、「こんな時にSNSをやっている場合ではない」という声が上がったが、木下氏は「これからはすべてをさらけだす時代」と説明し、受験の間だけでも、息子をSNSから引き離すことをしなかった。お子さんの身辺を静かにして受験に集中させることよりも、日本中に注目されている状態が気持ちよかったのではないだろうか。
無事に高校生となっても、「寮母のメシがマズイ」など、炎上発言を繰り返す大維志くん。ジャガーはSNSで世間サマに謝罪するも、息子に対してきちんと言い含めた形跡はなく、一方の木下氏は息子の発言に対し、「(寮母さんが)見てるかもわからんだろ」とどこかズレた諫め方をしている。
常識に基づき、世間に謝罪するけれど、息子に対して影響力がない「母親」と、屁理屈をこねて絶対に謝らない「父親」、母親を無視して父親に従う「息子」――SNSはこの家族のいびつな一面をさらけだしたようにも思える。
昨年末、大維志くんは足の手術のために入院したものの、なぜか病名を「肝硬変」とSNSで報告。おそらく注目を集めたいがゆえの冗談だったのだろうが、健康体に見えた彼が大病を患っていると信じてしまった人もいて、大炎上した。
例によってジャガーは、SNSで「紛らわしく『肝硬変』だなんて!ジョークにもならない笑えないジョークは止めなさい!と注意しているんですが…本当に失礼いたしました」と謝罪。
一方の木下氏はSNSの生配信で「肝硬変と言っていい気分はしないですよ。だけど、どうしても言いたくない事情があったんですよ。記者の人にお願いしたいんですけど、記事にするときはいろいろ考えて記事にしていただけないでしょうか」と、これまた恒例の「謝らない」かつ、記事化したほうに問題があるような責任転嫁的な言い方をしている。
ある意味、この家族の日常風景といえるが、ジャガーは今年の元日にYouTube「ジャガー横田ファミリーチャンネル」を終了すると発表した。
「お子さんをSNSから遠ざけるために、YouTubeチャンネルの閉鎖は望ましい」といった書き込みを見つけたけれど、私は違う意味で閉鎖は「いいこと」だと思う。おそらく、木下氏や大維志くんは今後もSNSで活動し続けるだろう。注目される喜びを知ってしまった彼らが、SNSのない世界で生活していけるとは思えないからだ。そう考えると、今回の閉鎖は、「ジャガー横田」という“有名人ブランド”がない状態で、どこまで自分たちが通用するかを試すチャンスになるのではないだろうか。
「ジャガー横田ファミリーチャンネル」という名前が示す通り、このチャンネルのキーパーソンはジャガーだった。女子プロレス界のレジェンドとして知名度があり、ファンも多いジャガーに集客してもらって、木下氏や大維志くんはYouTube活動ができたわけだ。
木下氏もしくは大維志くんが世間を悪い意味でザワつかせ、「非常識だ」という声が上がると、ジャガーに頭を下げさせることで何とか体裁を保ってきた。しかし、ジャガーがいなくなったとき、世間サマはどれだけ自分たちに注目してくれるのか、自分たちを信頼に足る人物とみなしてくれる人はいるのか――彼らは身をもって知るべきだと思う。一過性の炎上に頼ることなく、数字を稼ぎ続けることができたら、彼らは真の有名人といっていいのではないだろうか。