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  • 水. 10月 23rd, 2024

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中学受験、憧れの第1志望に連続不合格――「入試の日に初めて行った」1月校に入学した親子の話

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 今年も全国各地で中学受験の本番が始まった。

 栄光ゼミナール調べによると、首都圏では中学受験生1人あたりの受験(出願)校数は、平均4.81校というのが昨今の状況。2月1日から本番が始まる東京・神奈川の子どもたちは、1月受験と呼ばれる千葉・埼玉の学校の入試、または地方にある寮完備の学校の東京入試を受けるケースも少なくなく、これからの数週間はハードスケジュールをこなすことになる。

 東京・神奈川の受験生にとって、1月受験は、2月の本命校受験を前に“まずトライしてみる”ものであり、「入試慣れ」の意味合いを持つ。これを業界用語で「お試し受験」とも呼んでいる。つまり、本命校は別にあるので、1月に受ける学校は、合格しても入学辞退するケースが多い(もちろん、1月校に行くことになっても本望というご家庭もある)。

 咲子さん(仮名)は、中学受験を経て入学した中高一貫校のS学園出身。

 彼女の母校愛は強く、結婚する前から、「女の子を産んで、母校に入れたい」と本気で願っていたそうだ。念願かなって、女の子・紗良ちゃん(現中学1年生・仮名)が誕生。咲子さんは自分の夢をかなえるため、紗良ちゃんが赤ちゃんの頃から、頻繁にS学園の行事に連れて行っていたという。

 当然、紗良ちゃんは母の恩師たちとも顔なじみに。それゆえ、紗良ちゃんにとっては、受験前から「S学園=自分の学校」という感覚が強く、当然のようにS学園を目指し、勉強に励んでいたと聞く。
 
 紗良ちゃんは最終模試で、S学園の合格確率80%を出していたため、咲子さんも受験に関しては楽観視していたという。

 ところが、どういう運命のいたずらか、3回チャレンジしたものの、S学園の扉は開かなかった。

 ご承知のように、近年、中学受験は大変な盛況ぶりで、人気校の倍率は高くなる一方である。S学園も人気校であるため、激戦になるのは間違いない。受験に「絶対」はないのである。

「私も紗良も受験を舐めていたのかもしれません。塾の先生の『受験は水物』という言葉が身に沁みますが、正直、“まさかの不合格”にうろたえました」

 紗良ちゃんは塾の勧めで、1月校を受験しており、その学校には合格。2月はS学園以外にも1校受験し、こちらも合格していた。つまり、合格した2校の中から、どちらを選択するのかを早急に迫られる事態になったのである。

「どちらに通うかを決めなければならないんですが、呆然としていた私は何も考えられなくなっていました。紗良はS学園に行くものと思い込んでいたので、ほかの学校のことはロクに調べもしなかったんです。特に1月校については何の情報も持っておらず、受験日に初めて学校を訪れたという有様で……早く決めなければならないのに、どうしていいのかわからなくなっていました」

 入学金を振り込まないと、どちらも合格が取り消しになってしまうという日の前夜、塾の先生から「紗良ちゃんと一緒に塾へ来てください」との電話が入った。

 塾の先生は受付で「お母さんはここでお待ちください」と言い残し、紗良ちゃんだけを連れて、教室に入っていったという。30分ほどたった頃、教室から紗良ちゃんがスッキリした顔で出て来て、咲子さんにこう告げたそうだ。

「ママ、紗良は(1月校の)K学園に行く。S学園に行けなくて、ごめんね」

 咲子さんは、その時のあることに気付いたという。

「その『ごめんね』でハッとしたんです。S学園は私の希望で、紗良の希望ではなかったんじゃないかって。私が喜ぶから、紗良は『S学園に入りたい』と思おうとしてくれたんじゃないのかって……。あの時、紗良は生まれて初めて、私に対して自分の口から『こうしたい』と言ってくれました」

 K学園の生活にも慣れた頃、咲子さんは紗良ちゃんに、「どうして入試の日にしか行ったことのない……知らないも同然のK学園に決めたの?」と聞いてみたそうだ。

 紗良ちゃんは、「塾の先生が、『先生は、K学園は紗良ちゃんに合っていると思うよ。男女共学で自由な校風だし、楽しいよ』って言ってくれて」と切り出し、当時の自分の思いを次のように明かしてくれたという。

「先生がね、『今まではママの言う通りにしていたかもしれないけれど、もう中学生なんだから、自分の行く学校くらい、自分で決めよう。自分の運命は自分で選択するんだよ』って。それで、K学園の入試の時、雰囲気がすごく良かったことを思い出して、ちょっと遠いけど、K学園がいいなって思った」

 咲子さんは、その言葉を聞き、「ああ、やっぱり紗良は、ちゃんと自分で行きたい学校を選べたんだ」と感慨深い気持ちになったそうだ。

「もちろん、紗良はS学園のことも気に入っていたとは思うのですが、今となっては逆に、不合格でよかったのかなと思います。あのままS学園に行っていたら、紗良はずっと『私の娘』として振る舞わなくてはならなかったかもしれません。でもK学園へは、“まっさらな紗良”で入学できたので、逆に伸び伸びとできているようにも思うんです。実際、紗良は今、すごく楽しそうです」

 中学受験は、良くも悪くも、子どもが親に“洗脳”されがちな世界なので、咲子さんのようなケースも珍しいことではない。

 親としての注意事項は、第1志望校はあるにせよ、併願校もしっかりと見極めた上で、受験のラインナップを組むこと。そして、入学校への最終判断は、子どもに任せるということだ。筆者は、さまざまなご家庭の「中学受験物語」を聞いているが、そのほうがのちの学校生活はうまくいくように感じる。

 12歳の子どもは、きちんと五感を使って、自分に合っている学校はどこかを判断する力を備えている――筆者は常々そう思っている。

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