「子ども同士の付き合い」が前提のママ友という関係には、さまざまな暗黙のルールがあるらしい――。ママたちの実体験を元に、ママ友ウォッチャーのライター・池守りぜねが、暗黙ルールを考察する。
年が明け、4月から新学年が始まるとなると、ママたちが頭を悩ませるのは「PTA活動」ではないだろうか。PTAへの加入は任意ではあるものの、当たり前のように活動せざるを得ないのが実情。学校によっては、在学中に一度は委員か役員をやらなければならないという暗黙のルールも存在する。
今回は、仲の良いママ友とPTA役員になったものの、その活動に悩みを抱えるお母さんの話を取り上げる。
PTA役員になったママ友についていけない! 無償で作ったバザー用のスタイに“作り直し”要請
テイクアウト専門の総菜屋に勤務している泉美さん(仮名・38歳)は、小学5年生の女の子を育てるママ。今年度、仲が良いママ友・奈菜さん(仮名・39歳)からの誘いを受け、PTA役員を務めたという。
「娘が4年生のときに、奈菜さんは推薦委員という役員をやっていたんです。この推薦委員は、秋頃に保護者に対し、翌年のPTA役員にふさわしいと思う人のアンケートを行い、選出された人に電話をかけるという仕事を担っています。奈菜さんは、回答に自分の名前があったのを見て、『誰かに頼むよりも自分がやろう』と思ったそうで、PTAの役員 を買って出ました」
一方で奈菜さんは、泉美さんに「PTAの役員を推薦するアンケートに、あなたの名前を書いてもいい?」「一緒に役員をやらない?」と聞いてきたそうだ。
「事前に聞いてくれたのはよかったですが、断りづらいですよね。『仕事があるので、あまり活発にできない』と伝えたところ、『あなたの仕事は、早朝から午前までで終わるでしょ。PTAの集まりは午後にあるので大丈夫だよ』って押し切られました」
PTAのシステムは学校によって異なるが、一般的には学年にかかわらず、学校全体の活動を円滑に行うための作業を担う会長や副会長、会計などは「役員」と呼ばれる。それぞれの学年の代表ともいえる学年委員や、広報委員などの「委員」に比べ、実質的な負担が大きいため、「もし子どもの在学中に役員か委員を一度はやらなければいけない場合、やっぱり委員を選ぶママが多い」そうだ。
「奈菜さんとは娘が同じ幼稚園に通っていて仲が良くなりました。彼女は幼稚園でもPTA役員をやっていて、みんなが嫌がるバザーの運営も率先して引き受けていましたね。絵が得意だからとポスターを描き、近所の学童や学区内の掲示板に貼らせてもらえるよう、各所にお願いしたそうで 、実際バザーは盛況に終わったのですが……奈菜さんの“やる気”についていけなくなるシーンが多々あったんです」
例えば、保護者が無償で作ったバザー用のスタイやパッチワークの出来が気に食わなかった奈菜さんは、「これ、お金を出してまで欲しいと思うクオリティかな?」と言って作り直しを命じたという。
「ほかにも、出店の店番をママたちに強要したり……やる気がありすぎる彼女に巻き込まれ、周囲はみんな疲れ果てていました」
結局、奈菜さんはPTAの副会長をやることになった。そして泉美さんを「同じ副会長にしたい」と打診してきたそうだ。
「『副会長は2人体制だから、泉美さんが忙しいときは、私がフォローする』と言ってくれたので、渋々引き受けました。いずれにせよ、私はそれまで委員もやったことがなかったため、一度は何かやらなければならなかったんです。でも奈菜さんはPTAに対してのモチベーションが私とは全然違うんですよね。それでいろいろ困ってしまって…… 」
コロナ禍のPTA活動において、以前と最も変わった点は「小学校に行く回数が減ったこと」だろう。これまでPTA役員や委員は、何とか時間を捻出し、小学校にわざわざ出向いて会議を行っていたが、最近はLINEのグループチャットやオンライン会議ツールなどを使い、時間や場所を気にせず打ち合わせするようになった。しかし、奈菜さんはあくまで“対面”にこだわったという。
「奈菜さんは、それぞれの役員が集まった顔合わせの場で、『なるべくオンラインではなく、PTA室に集まって打ち合せしましょう』 と言い出したんです。奈菜さんは専業主婦なので時間があるんですが、忙しいワーママはうんざり顔でしたよ。 そういえば奈菜さんはよくPTA室にこもって事務作業をしていましたね……」
コロナ禍でラジオ体操や夏祭り、交通安全教室など、学校行事が中止になったケースも多い。しかし、奈菜さんは「小規模での復活」を熱望したそうだ。
「奈菜さんは、『行事がなくなって、子どもたちがかわいそう』と繰り返すんです。確かに運動会や学習発表会などは、学年ごとの入れ替え制にし、入口で来場者全員に検温を実施するなどの手間がありましたが、開催して良かったって思うんです。でも、門松やしめ縄といった正月の飾りを小学校の校庭でお焚き上げする『どんど焼き』や、児童たちが集まって風船を空に放つ『風船飛ばし』は、別に復活しなくてもいいんじゃないかなって。ママさんたちのボランティアも必要ですし、準備も大変なので、ほかの役員さんも本音では復活に後ろ向きみたいなんですが、 奈菜さんに押し切られてしまいそう 」
奈菜さんは、「来年も引き続き役員をやりたい」と意欲を見せているという。
「基本的には、うちの学校のPTA委員は1年任期ではなく、引き継ぎの期間も入れて2年やるのが通例。奈菜さんは、娘さんが6年生になるので、会長をやりたいのではないかと思います。私のほうは、もう今年で辞めたいですが。多分、来年の役員さんへの引き継ぎがあるので、『一緒にやろう』って誘われそうで頭が痛いです。また周囲を巻き込む“暴走”を起こすのも怖いですね」
PTA活動は「積極的にやりたいという人のほうが圧倒的に少数派ではないか」と泉美さんは言う。
「だからこそ『できるだけみんなの負担を減らす』方針を取るのが、暗黙のルールだと思っていたのですが、奈菜さんには通用しませんでした」
そもそも国内でPTAが広まったのは戦後すぐのこと。 「会員の主体は専業主婦」の時代が過ぎ去った現在、その活動自体が見直されるべきなのかもしれない。 ワーママが増えた令和のPTA活動をめぐっては、「できる限り最低限で抑えたい派」のほうが、「積極的に学校と関わりたい派」より多いだろう。
2020年から始まったコロナ禍の影響で、PTA主体の行事が見直され、中止になったという話をよく聞く。また、泉美さんが言っていたように、オンライン会議が一般的になり、仕事を早退したり、休まなくても、ある程度の活動はできることも証明され、PTAの負担を減らす流れが活発化する気配を感じる。 泉美さんが言う「『できるだけみんなの負担を減らす』方針を取る」を暗黙のルールと捉える人も増えていると思う。
しかし一方で、「子どもが小学校に在籍しているほんの1~2年我慢すればいいだけのこと」と思い、PTA活動自体に異議を唱えるママは少ないのではないだろうか。担当が数年で変わることもあり、そのやり方自体を大々的に変えるのは骨が折れると、とりあえず前年までのやり方が踏襲されがち。情熱を持って「負担を減らそう」と改革に乗り出す人がいない場合、奈菜さんのようなやる気のある人に流されることは大いに考えられる。
泉美さんは、そもそも奈菜さんからの誘いを最初に断るのがベターだったのではないか。PTA活動は、どの委員や役員が自分に合っていて、どれくらい時間を取られるかを、できるだけ事前に調べるのが重要だ。そういった下調べナシで、誘われるがまま、やる気みなぎるタイプの奈菜さんと一緒に副会長になってしまっては、苦労するのは目に見えている。
また、高学年になると子どもの塾通いが始まったり、中学受験に向けた学習が本格化するケースもあるので、できるだけ低学年で委員もしくは役員を終わらせておくというのも今では一般的だ。PTAで悩まないためには、小学校入学当初から、その攻略法を練っておくことが大事だと思う。
子どもの小学校入学を控えるママたちには、上の子どもがすでに小学生というママ友から、事前にPTAの情報を入手することを強くおすすめしたい。「今はみんな忙しいから、PTA活動自体もそこまで大変じゃないはず」という自分都合の思い込みは禁物だろう 。