私たちの心のどこかを刺激する有名人たちの発言――ライター・仁科友里がその“言葉”を深掘りします。
<今回の有名人>
「本当にすみませんでした」フワちゃん
『行列のできる相談所』(1月15日、日本テレビ系)
フワちゃんが『行列のできる相談所』(日本テレビ系)のロケで渡韓する予定だったが、パスポートを忘れたために搭乗予定の飛行機に乗れず、アイドルユニット・KARAを3時間も待たせ、番組内で「本当にすみませんでした」と謝罪した――。こんなネットニュースを見て「また?」と思った人もいるだろう。
フワちゃんといえば、遅刻癖がたびたび報じられてきた。ブレークを果たした2020年には、「週刊女性」(主婦と生活社)が「フワちゃん、多忙すぎて遅刻連発」と報じているし、21年放送の『有吉の夏休み2021』(フジテレビ系)でも集合時間に遅刻し、有吉弘行から「時間だけは守れって言ってるの。自由にやってもいいし、敬語使わなくてもいいから」と指摘されている。が、遅刻癖は直らず、22年の『有吉の夏休み2022』に出演した際も遅刻。理由はわからないが、どうしても遅刻してしまうのがフワちゃんなのだろう。
日本では、時間に正確な人が多く、時間は守らなくていいという考えの人はかなりの少数派だと思う。フワちゃんの遅刻を報じるネットニュースには「遅刻する人は信用できない」とか「そういう人は仕事がなくなるだろう」とかいうコメントがつけられていたが、私はまったく逆のことを思った。
フワちゃん、仕事途切れないわけだ。
バラエティ番組に不可欠なのは、「問題を起こす人」なのではないか。その人が起こした問題をドタバタしながらみんなで解決するという流れを生むからだ。 その時に問題を起こす人と解決する人が激しく対立すると番組が盛り上がるし、最終的にわかり合えれば「みんないい人」と視聴者に思わせることができ、双方が得をする。
ひと昔前、バラエティで「問題を起こす人」を演じるのは「オンナに嫌われるオンナ」だった。例えば、女医タレントのさきがけである西川史子は、芸能活動を始めて間もない頃、「ブスは生きている価値がない」と発言したことがあるが、こういうオンナ叩きをするオンナの問題発言をフックに 、周囲から反論させる形で番組を作ってきたわけだ。
しかし、今はそもそも「ブスは生きている価値がない」という発言そのものが重大なセクハラ。 それが同性からであっても女性蔑視 とみなされて“一発退場”だろう。それに、テレビに出ている人は仕事として言い争っているわけだが、フェミニズムに関心が集まる昨今、「オンナによるオンナ叩き」が口火となって、女性同士が言い争うようなシーンを忌み嫌う人もいるかもしれない。
加えて、テレビ業界全体が番組を作るにあたり、「人を傷つけない」「人に嫌な思いをさせない」 ことを意識していることもあって、オンナによるオンナ叩きはもちろん、広く「人を傷つけ、嫌な思いをさせる言動」で 問題を起こす人を周りが叩くという従来型のバラエティの“お約束”は、通用しなくなっているといえるだろう。
けれど、「問題を起こす人」がいないと、番組が始まらないことも事実なのである。となると「問題は起こすが、人を傷つけず、嫌な思いをさせない人」が必要になってくる。そう考えた時、遅刻するフワちゃんは、この上なく適した人材ではないだろうか。
テレビに出だした頃のフワちゃんは、大御所を前にしてもタメ口でいくキャラで売っていたが、これは他人に迷惑をかけたり、嫌な思いをさせかねない 。どういうことかというと、タメ口をきかれた大御所がちょっとでもムッとした顔をしたとする。大御所の反応は、「礼儀」をベースに考えるとおかしなことではないが、視聴者の中には「タメ口をきかれたくらいでムッとするなんて大人げない」「威張っている」と見る人もいるだろう。
大御所がタメ口大歓迎のスタンスでないとフワちゃんの芸は成立しないわけで、これは相手にとって負担や迷惑をかけることにつながりかねず、長続きしない芸風なのだ。
しかし、遅刻は違う。悪いのは明らかにフワちゃんだから、周囲も批判しやすいし、タメ口のように他人のイメージを下げる心配はない。もちろん、現場に迷惑をかけただろうが、「フワちゃんが遅刻した」こと自体がコンテンツとなり得るし、ネットニュースになる可能性も生じることを考えると、番組に貢献しているし、共演者にとってもプラスになる といえるのではないか。
ネット民は叩く人を常に探しているから、このニュースに食いつき、その結果、フワちゃんは「注目を集める人」としての地位を固めることができるのだろう。私にとってフワちゃんは「ちょうどいい問題を起こす人」のように思えるのだ。
常習的に遅刻する人はあまりいないので、 ほかのタレントと競合しないのもキャラとしていいのではないか。しかし、そうはいっても度が過ぎると、仕事にも悪影響を及ぼすことは想像に難くない。フワちゃんには、今後も「ちょうどよい遅刻」をしてほしいものだ。