• 日. 12月 22nd, 2024

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明日あなたが被害にあうかもしれない

悪質な「マイカゴ万引き」発生! めちゃくちゃな言い分の18歳常習犯に、冷たい手錠がかかった瞬間

 こんにちは、保安員の澄江です。

 昨今、商店を苦しめる万引きは後を絶たず、その手口も巧妙になっています。なかでもセルフレジや無人販売店舗による不正行為が激増しており、その防止対策は急務といえるでしょう。

 各商店は、レジ袋有料化に伴いエコバッグやマイカゴなどを持参されるよう啓発していますが、それを逆手に悪用する犯行も減ることはありません。このような運動が始まる前は、空のレジ袋やバッグを店内に持ち込む来店者は、私たちの中でわかりやすい不審者としてとらえられていました。

 レジ袋が有料化されて以降は、それが普通のこととなり、店内の防犯に携わる者たちを右往左往させています。さらにいえば、以前の教育では、店内における帽子やマスク、サングラスの着用も同様に不審者の発するサインと教えられてきました。それも花粉やコロナ、猛暑などの影響により着用が普通のこととなり、不審者を見極める難易度は年々増しているといえるでしょう。

 今回は、前々回、前回に引き続き、地方出張のお話をしたいと思います。最終日に捕まえた万引き常習者についてです。

連日万引き犯を捕捉するGメンに、なぜかプレッシャーをかける警察

 出張最終日は、正面入口にパトカーを横付けされ、警察官が店内を巡回する状況から勤務が始まりました。ここまでの2日間、逮捕事案が続き、忙しくさせてしまったことが影響しているのでしょう。

 犯罪を未然に防止するという名目で、店内外の警戒にあたるとあいさつをいただきましたが、まだ新人らしき真新しい制服を着た若い警察官から執拗に追尾されて仕事になりません。おそらくは20歳くらいでしょうか。顔だけ見れば高校生に見えるほど幼く、どこか頼りなげな警察官が、まるで気遣いのない形で私の後をついてくるのです。

「あの、仕事にならないんですけど、何時までついてくるんですか?」
「交代の時間(午後3時半)くらいまでいるよう指示されました」
「私の後をついてきても防犯にならないでしょう。違うところを回ってくださいよ」
「いえ、保安員さんが不審者を見つけたら、すぐに声かけするよう言われていますので、ご協力お願いします」

 どうにも話にならないので、警察官を無視して事務所に戻った私は、所轄警察署にクレームを入れるよう店長に進言しました。

「経費もムダになりますし、ずっとついてこられている私が犯罪者みたいで、すごく失礼な話だとも思うんですよ」
「確かにそうですね。ちょっと連絡してみます」

 その結果、私の後をついて回ることだけはやめてもらえましたが、正面口に配備されたパトカーはそのままで、童顔の警察官は出入口付近をウロウロと警戒するようになりました。

 警察の巡回効果もあってか、前半の勤務は不審者に遭遇することなく終了したので、食事休憩をいただいてから後半の勤務に入ります。

(やっと帰ったわね)

 休憩を終えて現場に戻ると、警察官の姿は消えており、パトカーも撤収していました。気兼ねなく巡回を再開して、業務終盤を迎えたところで、黒いスポーツキャップにサングラスをかけ、さらにダウンジャケットのフードをかぶった20歳くらいに見える若い男性が目に留まります。いかにも悪そうな風体はもちろんですが、その手はピンクのマイカゴが握られており、そこに違和感を覚えたのです。

(あんな格好の若い子が、マイカゴを持って買い物に来るなんて、珍しいわね。何を買いに来たのかしら)

 着ている黒のダウンジャケットには、大きなアルファベット文字が白抜きされており、それを目印に追尾すると、精肉売場に直行して和牛のこま切れ肉と切り落とし肉を3パックずつカゴに入れました。

 それから、いくつかのお菓子やドリンクを追加してキャンプ用品売場で足を止めた男性は、紙コップや紙プレート、割りばし、ガスボンベなどをカゴに入れると、家電コーナーに立ち寄ります。そこでスマホ用のケースやバッテリーを複数ずつカゴに入れ、フタをするような形で電動工具セットをカゴに載せた男性は、店内を大きく一周してからレジに寄ることなく店の外に出ていきました。

 動揺している様子は見せずに、風を切って堂々と歩いていますが、手にある商品の代金は支払っていません。外に出て数歩歩いたところで、カゴを持つ男の右腕を両手で抱え込んだ私は、前進を阻むべく腰を引きながら声をかけました。若い男性被疑者は、逃走する確率が高いので、そのつもりで声をかける必要があるのです。

「お店の者です。その商品、お金払わないとダメですよ」
「ああ、いま先輩が金持ってくるから、ちょっと待って」
「そんな言い訳は、通用しませんよ。話は聞きますから、とりあえず事務所まできてもらえますか」
「なんでだよ? 違うから、離せ!」

 身をよじって逃げようとするので、腕を抱きしめたまま腰を落として、その動きを封じます。

「悪いことしていないなら、逃げないで! 事務所に来て払ってもらえば、大丈夫だから」
「わかった、わかったから離せ!」
「逃げるから、それはダメ。事務所までは、このまま仲良くいきましょう」
「なんでだよ、ウゼえなあ」

 たまたま通りかかった店員さんの助けを得て、なだめながら事務所まで連れて行くと、事務作業をしていた店長が顔色を変えて言いました。

「あ! こいつ、昨日の……」
「え? お知り合いですか?」

 プリントを手に立ち上がった店長が、事務所の外に出るよう手招きするので、逃走されないよう出口を塞ぎながら小声で話をします。

「あいつ、昨日も来ていてさ。いまのと同じくらい持っていっているの。これから(顔認証)登録しようと思っていたところに連れて来られたから驚きましたよ」

 示されたプリントを見ると、商品を山盛りにしたピンクのマイカゴを手に、まったく同じ服装でレジ脇をすり抜ける男の姿が写っていました。売上検索の結果、レジにおける精算履歴も見当たらなかったというので、まるで言い訳のできない状況にあるといえるでしょう。あまりに悪質なため、すぐに警察を呼んだ店長は、通報を終えると男に詰め寄りました。

「お前、昨日も来て、やっていったよな?」
「来てねえよ。そんなに暇じゃねえし」
「これ、お前だろ? 上着に書いてある文字まで同じじゃないか」
「誰、これ? 全然、オレじゃねえし」

 昨日の写真を面前に提示されても、まるで動じない様子の男は、すべてを平然と否定して居直っています。今回の被害は、計25点、合計で1万4,000円ほど。買い取れるだけの金があるか尋ねると、カネは先輩が払うという主張を変えないので、少しだけ付き合ってみました。

「その先輩、ここに呼んでよ」
「こんなことになったから、いまLINEして帰らせた」
「はあ? 言っていること、めちゃくちゃじゃない? あなたは、買えるだけのお金持っているの?」
「先輩が払うって話だったから、持ってきてないよ」

 話がめちゃくちゃで付き合いきれずに、事務処理を進めるべく身分証明書の提示をお願いすると、何もないと一蹴されます。これ以上、話をしても仕方ないので、逃走を警戒しながら警察官の到着を待つことにしました。

 駆けつけた警察官による所持品検査の結果、財布から学生証が出てきたので見せてもらうと、通信制高校に籍を置く学生で年齢は18歳。住居として、ここから少し離れた町の住所が記載されていますが、そこには帰っていないそうで、いまは友達や先輩の家を転々としている状態だと話しています。

 家出中の特定少年による犯行とわかり、交番から来た男女の警察官のほか、少年課の刑事や近くを巡回していた自ら隊員まで事務所に駆け付けてきました。ここだけ見れば大事件の様相ですが、警察の人たちに取り囲まれて事情聴取を受ける男に反省の色はなく、先輩が金を払うことになっていたと荒唐無稽な言い訳を繰り返しています。

「お前、警察に捕まったことあるか?」
「ああ、あるよ」
「その時は、何をした? 万引きか?」
「ああ、あと空き家に入って寝ちゃって、捕まったこともある」

 犯歴照会の結果、そのほかの事実も判明したようで、男は逮捕されることになりました。

 直接の逮捕者である私も、警察署への同行を当然に求められます。少年課の刑事に手錠をかけられ、警察官に脇を固められて連行される男の姿を見ながら、顔を上気させた店長がつぶきました。

「18歳で手錠をはめられる人生なんて、ちょっと想像できないな」
「親や家族の問題も大きいでしょうから、若い子の逮捕はかわいそうですよね」
「かわいそう? そこまでは同情できないよ。しょせん泥棒だし」
「まあ、そうですけど……」

 逮捕手続きのため警察署に入ると、この度はお手柄でしたと、少年課の刑事さんから労われます。

「いえいえ、せっかく朝から防犯警戒していただいたのに、また忙しくさせてしまって申し訳ありません」
「そうだったんですか。今回のヤツは、地域の扱いじゃないから、気にしないで大丈夫ですよ」

 おそらくは少年課にとって、おいしい被疑者だったのでしょう。同じ警察署内の話であっても、1階(地域課)と3階(少年課、刑事課)の感覚は別のようで、妙に手厚く扱われて困惑した次第です。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

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