昨年11月4日、King&Prince(以下、キンプリ)の平野紫耀、岸優太、神宮寺勇太が、2023年5月22日をもってグループを脱退、順次ジャニーズ事務所を退所することが発表された。事務所に残留する永瀬廉と高橋海人は、2人でキンプリを継続するというが、「5人体制での活動は残り半年」と突然宣告されたキンプリファン=通称ティアラは、大混乱に陥ることとなった。
平野らの説明によると、海外進出を目指すために事務所を離れるというが、一部ティアラの間では、脱退・退所は本人たちの意思によるものではないという臆測が飛び交うことに。
公式モバイルサイト・Johnny's web内の平野のブログに、「悲しいな手放すの 3人では無理 解散してみんなを連れて活動するのが夢でした」というメッセージが隠されていると指摘したり、ファンクラブ会員向けの報告動画に登場した5人の目をクローズアップして、「カンペが映り込んでいる」「事務所が考えた文章を読まされている」などと推測。平野らは事務所に辞めさせられるという説を強固に主張するとともに、ジャニーズ事務所や藤島ジュリー景子社長をバッシングするようになったのだ。
応援するアイドルグループが突如分裂したとあって、冷静さを失ってしまうのは仕方のないことだが、こうした一部ティアラの言動は、ジャニーズファンだけでなく、同じティアラからも疑問視されており、いつしかSNS上では“暴走ティアラ”なる言葉も生まれた。
今回、神奈川大学心理相談センター所長、人間科学部教授である臨床心理士の杉山崇氏に、ティアラが受けた心理的ショックの度合いや、一部のティアラが暴走してしまう理由について、心理学の観点から見解をお聞きした。
King&Prince分裂は、「人間が耐えられる痛みの許容量を超えていた」
2018年5月にCDデビューを果たしたキンプリは、5周年を目前に控え、まさに“伸び盛り”の時期を迎えていた。マスコミ界隈では「SMAPや嵐に次ぐジャニーズの看板グループ」と目され、ファン層を拡大するさなか、あまりにも突然にメンバーの脱退・退所が発表された。
その際、ファンが受けた心理的ショックは、いかほどのものだったのか。杉山氏は「対象喪失」という心理学用語を用いて、次のように解説する。
「ここで言う『対象』とは、自分を心地よくさせてくれる存在、赤ちゃん返りさせてくれる存在を指します。人は誰しも『対象』を必要としていて、ティアラにとっては、まさにキンプリメンバー5人が『対象』だったわけです。しかし、今回の発表で、ティアラは『対象』を『喪失』してしまった――感覚としては“奪い取られた”となるので、心理的には穏やかではいられなくなります」(杉山崇氏、以下同)
また、キンプリは故・ジャニー喜多川氏が最後にデビューさせたグループ。長年ジャニーズを応援してきた人にとっては、「ジャニーさんからの“最後の贈り物”のような存在であり、深い愛着があったと思う」と杉山氏。
「加えてキンプリは、デビュー組としての活動歴が浅く、ティアラは『これからも私たちを楽しませてくれるはず』と強い期待感を持っていたはず。そんな5人体制のキンプリを突如『喪失』し、しかももう取り戻せないとあって、ティアラは計り知れない心理的ショックを受けたことでしょう。人間が耐えられる痛みの許容量を超えていたのではないかと思います」
キンプリ分裂劇は、16年に勃発したSMAP解散騒動とよく並べて語られるが、ファンのショック度合いとしては、SMAPファンよりティアラのほうが大きいのではないかと杉山氏は言う。
「SMAPは当時デビュー25周年、以前から解散説もささやかれていました。ファンの中には、自分なりの“SMAPという物語”の終わらせ方を、心の中で準備していた人もいたのではないでしょうか。当然、解散に強いショックを受けた人もいましたが、エンディングに向けた準備ができている人を“モデル”にして、自分の心に折り合いをつけることができたわけです。
しかし、キンプリの場合は、本当に突然の脱退・退所発表でしたから、“キンプリという物語”の終わらせ方を準備していた人はいなかったはず。水面下で、自分たちにとって不都合なことが目論まれていたとあって、『パラノイア感』(極度の不安や恐怖を抱き、他者に対して強い猜疑心を抱くこと)を煽られた人たちも多かったと思います」
では、現在SNS上で物議を醸す“暴走ティアラ”が生まれる背景について、杉山氏はどう見ているのだろう。平野らは、本人たちの意思で脱退・退所をするのではなく、事務所によって辞めさせられるというのが、“暴走ティアラ”と呼ばれる人たちの主張であり、その根拠を日々SNSに投稿・拡散。その内容については、「陰謀論に走っている」と物議を醸すことも珍しくない。
「人には、感情的な判断で最初に結論を決める『皮質下回路』という脳の仕組みがあり、それに沿って証拠を集めて正当化するというプロセスを踏むものなんです。平野さんのブログを縦読みにしたら、隠されたメッセージが出てきたという話も、一部のティアラの感情的な結論ありきで、それに沿った言葉を“探して”しまったのではないでしょうか」
最近では、『King&Prince First DOME TOUR 2022 ~Mr.~』のDVD特典映像が話題になった。ドーム公演に向けての打ち合わせ中、ホワイトボードに10周年の構想が手書きで記されているとして、一部ティアラが「メンバーはやっぱり辞めるつもりはなかった」と指摘。この結論もまた、「皮質下回路」による影響があった可能性は否めない。
一方、“暴走ティアラ”は、ジャニーズ事務所やジュリー氏に強烈な敵意を持っているのも特徴だ。平野ら脱退・退所メンバーを冷遇したとして、事務所へ直接クレーム電話を入れたり、公正取引委員会に、独占禁止法の「優越的地位の濫用」に抵触するのではないかと調査を依頼するなど、具体的な行動に出ているという。また、キンプリと比較する形で、事務所の他グループを叩くなどの行為も見られ、ジャニーズファンの間で反感を買っているが……。
「『対象喪失』による心の痛みをそのまま受け取ると、人は耐えがたい苦しみを感じてしまいます。先ほど話に出た『パラノイア感』は、実は心の痛みを緩和するために存在しているもので、人はそれによって『誰のせいでこんなことになったのか』と犯人を捜すようになるんです。
私の研究で恐縮なのですが、この『パラノイア感』に陥ると、人は落ち込みや疲労を感じにくくなる傾向もあるんですよ。キンプリ分裂に際し、何か行動を起こすことで希望を見いだしたい一部のティアラは、かねてからバッシングされている事務所やジュリー氏を“犯人”に仕立て、怒りの矛先を向けているのではないでしょうか」
また杉山氏は、“暴走ティアラ”は、「キンプリも含め、悲劇のヒロインになっている」と考察し、「その悲劇に抵抗することで、やはり心の痛みを緩和しようとしているのではないかなと感じます」と加える。
なお、“暴走ティアラ”化しやすい人の傾向については、そもそもアイドルにハマるタイプの人全般にその“素質”がありそうだ。
「もちろんアイドルファンすべてに当てはまるわけではありませんが、私の研究によると、直接的に関与のないアイドルと自分の一体感を心の支えにするタイプの人には、3つの特徴があります。1つ目は『良くも悪くも人に影響されにくく、主観的な判断を正しいと考えやすい』、2つ目は『人一倍敏感で、不安や心の痛みを感じやすく、感情的になりやすい』、3つ目は2つ目と関連しているのですが、『感情的な面が行動的なエネルギーになりやすい』。
またこういった特徴を持つ人は、自分と感性の合う人には心を許す一方、感性が合わない人には表面的にしか交流しない面を持つため、『自分と意見の合う人ばかりが周りにいる』という環境を作りがちともいえます」
杉山氏の研究による「アイドルにハマる人の特徴」は、“暴走ティアラ”の言動とつながる。応援するキンプリの分裂に人一倍心を痛め、その痛みを緩和するために犯人捜しを行う。「この人が犯人だ」という主観的な判断に絶対的な自信を持って、抗議行動を起こす。自分の周りには同意見の人ばかりという環境も相まって、さらに勢いづいていく――。
“暴走ティアラ”の言動を受け、杉山氏は「アイドルにハマるタイプの人のパーソナリティ通りに、行動のプロセスを踏んでいると感じた」そうだ。
“暴走ティアラ”を攻撃するのは同じ穴のムジナ――“キンプリという物語”の終わらせ方を見つけてほしい
しかし一方で、“暴走ティアラ”の言動に、心をモヤモヤさせているティアラがいるのも事実。SNS上には、残り少ない5人での活動を穏やかに応援したいと願いながらも、“暴走ティアラ”の影響で、心を乱されているという声も多数見受けられる。
「“暴走”していないティアラは、“暴走”する人のせいで、世間から『ティアラはタチが悪い』と見られること、またキンプリ自体の品位を落としかねないことを危惧しているのかもしれません。ただ、『自分と“暴走ティアラ”は違う』と思うことはいいのですが、“暴走ティアラ”を攻撃すると、結局、同じ穴のムジナになってしまいます」
5人体制のキンプリを「喪失」し、心の痛みを感じているのは、「すべてのティアラに共通していること」と、杉山氏は言う。
「ティアラの中には、その痛みを受け入れられない人がいる……と捉えるのがいいのではないでしょうか。はたから見ると“暴走”にしか見えない言動であっても、彼女たちは、自分にとっての“キンプリという物語”を完結させようとしているのです。
そしていま、心がモヤモヤしているというティアラも、自分なりの“キンプリという物語”の終わらせ方を考えてほしいですね。ジャニーズを旅立つ3人、ジャニーズに残る2人、そして5人のキンプリを失った自分自身、そのいずれもが幸せになる完結の仕方が見つかることを祈っています」
杉山崇(すぎやま・たかし)
神奈川大学心理相談センター所長、人間科学部教授。公益社団法人日本心理学会代議員。子育て支援、障害児教育、犯罪者矯正、職場のメンタルヘルスなど、さまざまな心理系の職域を経験。『いつまでも消えない怒りがなくなる 許す練習』(あさ出版)など著書多数。
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