日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。2月19日は「CEOになりたくて ~ポンタの上京物語~」というテーマで放送された。
『ザ・ノンフィクション』あらすじ
水井飛空(ひゅう)は広島から上京してきた21歳。「ポンタ」と自分のことを呼んでほしいと話し、起業家を目指す若者が集まる「U-25起業家シェアハウス」で暮らす。シェアハウスは4人部屋で家賃は一人4.5万円だが、オーナー主催の勉強会を無料で受けられる。
中学生の頃から起業に憧れていたというポンタ。当時、高校生起業家をメディアがもてはやしていたことも影響しているようだ。人間モバイルバッテリーとして充電装置を持って街頭に立つなど、事業のようなことをした経験もあるそう。
現在は、TikTokを用いてホテルの紹介動画から宿泊予約ができる事業プランを思いつき、ライバルに楽天トラベルやブッキングドットコムを挙げるものの、ポンタの事業プランの場合、TikTokに通じた技術者が必要。技術者を探しつつ、動画撮影をするためホテルへの飛び込み営業を続ける。ほぼ空振りに終わるが、撮影協力に応じてくれるホテルもあった。
ただ、地元の父親は「(ポンタは)来年くらい福山に帰ってきて就職するかなと思っている」と冷静だ。番組スタッフの前では愛想のいいポンタも、父親の前ではぶっきらぼうな態度になり、「(父親は)『お前(ポンタ)ならできるよ』って言えばいい話」と不満げ。
「U-25起業家シェアハウス」には、野望を熱く語る者もいれば、夢を追うことを中断し、出ていく人もいる。20歳の前田あかりは高校生で会社を設立し、かつてはメディアに華々しく取り上げていた起業家だった。前田の事業は、虐待サバイバーの子どもたちを低価格のシェアハウスを提供し就職活動につなげていくもの。前田自身も精神疾患やいじめで学校に行けない時期があり、当時の彼女にとっては、高校生での起業や、それにともなうワークショップに通うことが生きる支えになっていたようだ。
しかし、前田には高校の学費などを含め500万円ほどの借金があり、事業どころではなく、キャバクラ勤めで借金返済に追われる日々。まずは自分の生活を立て直すため、シェアハウスを去る決意をした。
一方、ポンタは協力者を得る。TikTokで52万人以上のフォロワーを持つ動画配信者の編集を担う19歳のゆうせいだ。ゆうせいはポンタの撮影したホテルの動画に、撮影者の足が映ると「一気に現実に戻されてしまう」から避けたほうがいいなど、的確な指摘をする。ただ、ゆうせいはかなり多忙のよう。
そして、TikTokの技術者が見つからなかったのか、ポンタはホテル動画を紹介するためのインスタグラムアカウントを開設。興味を持ったホテルから撮影依頼を受けていた。番組の最後、ポンタの上京生活は半年を過ぎ、まだ事業の収益は得られていないが「U-25起業家シェアハウス」を出て、次はイノベーターの育成学校「MAKERS UNIVERSITY」に通うと話していたのだった。
『ザ・ノンフィクション』CEO適性を最も感じたのは……
番組内では起業家を目指す若者が多数出てきたが、個人的に最もCEO適性を感じたのは、CEOを目指していない、動画編集者・ゆうせいだった。
まず人柄だ。ゆうせいは19歳とは思えぬ落ち着きぶりで、ポンタの起業ビジョンにもウンウンと頷いて聞いており、案の定ポンタを骨抜きにしていた。19歳、まだまだ浮かれていてもいい時期なのに、ゆうせいには“人生2回目”なのかと思うほどの風格を感じた。
そして何より、ゆうせいには動画編集という自分で培った確かな「技術」がある。一方、TikTokを用いた旅行予約事業を考えるポンタも、エンジニアとチームを組んで事業プランを練っている「U-25起業家シェアハウス」の住人・柴田、石井もそうだが、「技術ありき」な事業を興す場合、「それって、技術者だけいればいいんじゃないの?」という問題が出てくる。そうした事業の場合、そもそも技術者がCEOをやればいいのではないか。
ポンタ自身にもこの疑問はあったようで、柴田と組んでいるエンジニアがどういったモチベーションで柴田と仕事をしているのか問うシーンがあった。柴田本人は「人」「ビジョン」と回答していたが、実際のところ「有力者とのコネがあり、橋渡しができる」「業務内容を熟知している」「金を引っ張ってこられる」などのほうが、「技術事業だけれど、技術能力を持たないCEO」に求められる能力だと思う。ただ、こういった能力を社会に出たことのない若者に求めるのは酷だ。
起業する前に数年、起業したい業界で働けば、その実態・実情もわかり人脈もでき、その後の起業も一気にスムーズになるはずだ。番組に出てくる起業家志望の若者たちは、近道をしたいようで、かえって遠回りをしているように見えた。
そして、起業家志望の若者たちは「会社勤め」へのネガティブな発言が多かったが、なぜしたこともないのに毛嫌いするのだろうか。「自分には適性がなさそうだからやりたくない」という気持ちはわかるものの、実際やってみればそこまで嫌じゃなかった、と気がつくことだってある。起業がテーマの回だったが、「とりあえず会社で働いてみればいいのに」と思った回だった。
次回は「たどりついた家族2 前編 ~戦火の故郷と母の涙~」都営住宅で暮らすウクライナ人の親子、母マーヤと娘のレギナと息子のマトヴェイ。子どもたちは日本の暮らしになじんでいく一方で、マーヤには戦火のウクライナに帰る理由があり……。