「子ども同士の付き合い」が前提のママ友という関係には、さまざまな暗黙のルールがあるらしい――。ママたちの実体験を元に、ママ友ウォッチャーのライター・池守りぜねが、暗黙ルールを考察する。
共働き夫婦が一般的となり、平日の日中を忙しく過ごす母親が増えた令和の時代。それでも、PTA活動はなくなることがないようだ。コロナ禍になり、これまで対面で行っていた会議がオンラインになるなど、徐々に保護者が活動しやすい仕組みができ上がりつつあるが、学校行事にボランティアスタッフとして駆り出される機会はいまだ多く、PTA活動を面倒だと感じる人は少なからずいるだろう。
今回は、共働きで自分の時間がないというあるお母さんの「PTA活動をめぐる苦悩」を取り上げる。
夫が単身赴任、娘が中学受験――自分の時間がないワーママのPTA事情
首都圏で訪問介護の仕事をしている介護士の美沙子さん(仮名・39歳)は、この春、小学6年生になる女児のママ。夫が単身赴任をしているため、平日はほぼワンオペで家事や娘の世話をしているという。
「建築業者の夫は、地方で単身赴任をしています。今の事業が終わるのが来年なので、それまでは戻ってこない予定です。一方、娘は今、中学受験に向けて勉強に励んでいる身。うちの地域は、都内ほどではないものの中学受験が盛んで、娘も周りの友達が塾通いをしているのを見て行きたがるようになり、小5に上がるタイミングで入塾しました」
美沙子さんは、娘の週4回の塾通いに付き添うため、時短勤務をしているが、会社からは「もっと勤務時間を増やしてほしい」と言われているそうだ。
「うちは10人くらいの小規模事業所なので、1人休むだけでも仕事が回らなくなるんです。今は、結婚していないスタッフが遅い時間帯を担当し、長時間労働をしてくれているのですが、子どもがもう高学年なので、上司から『もっと働いてほしい』と言われています」
そんな中、美沙子さんは今年度、PTAの文化委員を担当したという。
「実は私はこれまでPTAの役員も委員も経験がなかったんです。積極的にPTA活動をしているママがいたので、今回も逃げ切れるかなと思ったら、なんと在学中に一度も委員や役員をしていない人から選ぶことに。娘は中学受験をするつもりなので、保護者の負担が大きいと聞く学級委員は絶対に避けようと思い、人数が多い文化委員を希望しました」
学校によって名称は違うが、文化委員は、主に学内で配られる広報誌を作ったり、ベルマークの集計を行ったりする。ママたちの間では「地味だけど大変」と言われている委員だ。
「確かに、『大変』という話は小耳に挟んだのですが、今はコロナ禍で行事が少なく、広報誌の発行回数も減ったそう。何より、大人数のグループで作業を行う文化委員なら、出席回数が少なくても大丈夫そうと思ったんです」
こうして、文化委員の最初の集まりに参加した美沙子さん。そこでは、広報誌担当とベルマーク担当のグループ分けがあったそうだ。
「意外とベルマークを希望するママさんが多くて、じゃんけんになりました。みんな楽そうだと思ったんでしょうね。ただ話を聞いていると、結構、忙しい係であることがわかったんです。なんでも、前年度は新型コロナがはやっていたため、なかなか保護者が集まる機会を持てず、集計が終わっていないベルマークが何袋分もあるそう。定期的に集まってベルマークを集計し、集めたベルマークで交換する商品を選ぶなど、思っていたより活動に時間が取られるみたいでした」
美沙子さんのママ友・有希奈さん(仮名・39歳)も文化委員のメンバーだったという。
「有希奈さんは2回目の文化委員で、周りからの推薦を受け、委員長を務めることになりました。彼女はPTA活動に慣れているし、専業主婦で時間にも余裕がある。しかも、子どもが中学受験をする予定もなかったので、適任だと感じたんです。私は有希奈さんと仲がいいのもあって、事前に『仕事と娘の受験で忙しいから、あまり活動に参加できない』と伝えていました」
美沙子さんいわく、会社に無理を言って時短勤務にしてもらっている立場だけに、PTAの活動のために仕事を休むことには抵抗があったという。
「最初の顔合わせは土曜だったので、参加しました。でも活動自体は平日の昼間で、主に学校の授業が終わった午後3~6時。その時間、仕事を中抜けするのは無理なんですよ。それに娘の塾の送りもありますしね。委員活動の連絡は、基本的にLINEで行われているので、集まりがある日に『今日はいけません』と一通送り、参加を断っていました」
PTA活動は任意であり、参加は義務ではない。そのため、必ず出席するママと、欠席が当たり前になっているママが出てきたという。
「ベルマーク集計の際、私同様、仕事を理由にして毎回のように参加を断るママもいました。そうすると、どうしても専業主婦のママさんが主体となって活動する形になっていったんです」
そんな中、娘の運動会で、久しぶりに有希奈さんと顔を合わせたという美沙子さん。その時、ある“異変”を感じたそうだ。
「有希奈さんたちのママ友グループを発見したのですが、すごくよそよそしかったんです。こちらを見てあいさつはしてくれるものの、会話には加われない感じで……。以前はみんなと仲良く雑談できていたのに、おかしいなって思いました。あとで別のママ友に聞いたのですが、有希奈さんは、自分ばかりが委員の仕事を任されていることに不満を感じていたそう。私がずっと活動に参加していないことを、周りに愚痴っていたみたいなんですよね……」
その後、有希奈さんから文化委員のグループチャットに、「夏休みの期間は、これまで参加していなかった人を中心に、ベルマークの集計を行うように」という連絡が来たという。
「まるで私たちワーママが、“さぼっている”みたいな言い方でした。確かに、有希奈さんほか専業主婦のママは、ワーママより学校に行って作業する機会は多かったですが、もともとPTAはやりたい人がやるものだと思うんです。私のように働いている人は、活動がどうしても難しい。PTAは時間に余裕のある専業主婦が主となって活動する……これって暗黙のルールなのではないでしょうか」
PTA活動は具体的に月何回という決まりがないため、実際に活動を始めたら「思っていたよりも大変」と感じる人は大勢いるのではないだろうか。そんな中、稼働量の格差、不公平さをめぐって、PTA委員や役員から不満が出るケースは珍しくない。
今回のように、ワーママより専業主婦のほうに負担がいきがちという話以外にも、例えば、「子どもが中学受験をする予定で、今後地域との関わりがなくなるから」という理由で、ほかの保護者の目も気にせず、PTA活動を途中でフェードアウトするママが現れた……という話を聞いたことがある。このようにPTA活動では、さまざまなケースの“不公平な出来事”が起こるものだ。
その是正のために、委員活動にあまり参加していなかったワーママが、代わりに動いていた専業主婦のママから、一気に作業を振られるのもよくある話で、そうなると今度はワーママ側から不満が出てきてしまう。PTA活動業務で生じる格差は、なかなかに根深い問題といえるだろう。
今回、美沙子さんは、「PTAは時間のある専業主婦が主となって活動する」を暗黙のルールと考えており、実際にそれが常態化しているPTAは少なくないように思う。しかし、有希奈さんら専業主婦の不満は当然だろう。加えて、美沙子さんは、親しいママが委員長だったため、参加しなくても許されると思い込んでいた節がある。その点も有希奈さんは納得できなかったのではないか。
では、こういった不公平を解消するにはどうすればいいのだろう。ワーママが増えた今の時代、仕事を調整できるように、できるだけ事前に活動日を設定したり、専業主婦ばかりに作業を偏らせないため、シートで作業分担するなど、誰もが効率良く活動できる仕組みづくりが必要だと思う。それこそが委員長のやるべき仕事なのかもしれない。一方、任期は1年だけだからと割り切り、たとえ不満を覚えてもやりすごす――これも一つの手なのかもしれない。
PTAが誕生した昭和の時代とは違い、今は共働き家庭が増えた。一方、少子化で1人の子どもにかける教育費が増え、複数の塾や習い事に通う子も多い分、防犯面でのリスクが高まっている今、「その付き添いで平日は忙しい」という専業主婦も少なくない。誰しも余裕がないことを前提に、PTA活動の体制を整える――それが暗黙のルールになってほしいと感じた。