私たちの心のどこかを刺激する有名人たちの発言――ライター・仁科友里がその“言葉”を深掘りします。
<今回の有名人>
「自分が何かヒマになる」YOU
『上田と女が吠える夜』(2月22日、日本テレビ系)
バラエティ番組に出演する芸能人は、場を盛り上げるエピソードトークを披露するのがお仕事と言っていいだろう。人とカブらない、面白いエピソードができたら、番組制作者にも視聴者にも強い印象を与えられる。しかし、今の時代は面白い話をするだけではダメで、違うワザも必要なのではないかと、2月22日放送の『上田と女が吠える夜』(日本テレビ系)を見て思った。
今回のテーマは「悩み相談されがちな女が吠える夜」。悩み相談に乗ったのにモヤモヤしたことがあるか、一般の女性に尋ねると“こっちとこっち、どっちがいいと聞かれ、アドバイスしたのに、(相手が)違うほうを選んだ”とか“彼氏がクズで、絶対別れたほうがいいと自分でわかっていて相談してきているのに、結局別れない”といった答えが返ってきた。誰にとっても一度くらい経験のある話でつい笑ってしまうが、番組の出演者は、その上をいく面白い話を披露しなければならない。
若槻千夏は、“指原莉乃に仕事の相談をされ、真面目に答えたところ、指原が携帯をいじりだし、覗いてみたらアプリで自分のほうれい線を消していた”と、双方のイメージダウンにならない程度に、ちょうどよく指原をイジッてみせた。ヒコロヒーは“オジサンと交際する女友達に「銀座の高い店連れて行かれて、イヤやってん」と相談され、自分は彼氏と鳥貴族に行っていると話すと「めっちゃいいやん」と言われた”と、相談に見せかけてマウントを取ってくる女の具体例を挙げ、スタジオを盛り上げた。
これもまた、「こういう人いるよな」と笑えるが、エピソードトークがある一線を越えると、番組の雰囲気、もしくは、そこに出演している芸能人全員の印象までも変わってしまうような気がする。
クリスタル・ケイはヒコロヒーのトークを受け、「相談と見せかけてマウントを取るのはジャパニーズカルチャー」「謙遜とマウンティングのミクスチャーな感じ」と分析し、具体例として「あたし、ちょっと太っちゃって」「いやいや、細いじゃん」という会話を挙げた。すると、料理家・和田明日香が、「相手が求めてる『いやいや痩せてるよ』は絶対言ってやらない」方針だと明かし、「国によってはそっちのほうがモテるよ」と返すと述べたのだ。同番組司会のくりぃむしちゅー・上田晋也は「意地悪いなー、あの人」と言っていたが、私もそう思った。
友人の悩み相談に付き合ったのに、アドバイスを無視されたとか、マウンティングされたという話が面白いと感じられるのは、相談を受けるこちら側が、善意的な人間であることが大前提ではないだろうか。つまり、相手のためを思っての対応に、思いもよらない仕打ちが返ってきたからこそネタになるわけで、和田のような意地悪なエピソードトークでは、「悩み相談する振りをしてマウンティングするオンナも嫌だけど、ムキになってやり返す側も結構ひどい」と感じる人が出てきてしまうのだ。
そうなると、出演者全員が、なんだか「性格の悪い女の集団」に見えてきて、番組もタレントもイメージダウンにつながる気がする。
こんなふうにトークが行きすぎたとき、調整を図れるのがベテランの腕なのかもしれない。YOUが突然「だいぶ長く、別れる別れる詐欺をしていました」と独白を始めた。同番組の出演者は、悩み相談で迷惑をかけられた側というテイで集っているはずだが、YOUは自分が迷惑をかけた側だと“自首”したわけだ。
YOUは「冗談じゃねーよ、もうやってらんねーよ」と彼氏のことを友達に愚痴りつつ、「全然別れない」のだそう。なぜ別れないのかというと「自分がなんか暇になる」から。つまり、そんな彼氏でもいないと寂しいとか、一人になるのが嫌というような消極的な理由で交際を続け、その一方で友達に、愚痴とも相談とも取れる内容の話をしていたということだろう。
「人からの相談を受けたことで、こんな迷惑をかけられた」というエピソードが過熱すると、一種の断罪になってしまい、番組の雰囲気も出演陣の印象もキツくなるように感じる。しかし、悩み相談で迷惑をかけられた側のYOUが、「かつては、自分も人に迷惑をかけていた」と、“お互いさま”であると告白したことで、スタジオの空気が中和され、番組が見やすくなったように感じた。加えて、出演者個々のイメージダウンも回避されたといえる。
かねてからサバサバした女の代表格とされてきたYOU。例えば、2015年放送の『ボクらの時代』(フジテレビ系)にゲスト出演した際には、友人の真木よう子を「暗いし、美人だし、おっぱい大きいし、すごい人見知りで面倒くせぇ女だと思ったけど、一皮むけると、すごくチャーミング」と、毒舌交じりに褒めるなど、女の友情にありがちとされる“ベタベタした関係性”に浸っていない自分をアピールしていたように思う。
しかし、今の時代、こうしたサバサバはあまり肯定的に受け止められないだろう。タレントとして、時代に即したサバサバキャラにアップデートする必要があるわけだ。
YOUはさらっとこの難所を乗り越えた。同番組でYOUは「みんなそうだと思うけど、まずみんなに言いたい、聞いてほしくて、友達にワーっと言って、それで解決していることのほうが多い」と、相談というのは答えを求めて行うものではなく、ストレス発散が目的であると受け止めているそうだ。なので、人の相談に乗った後、報告がなくても特に気にならないという。
そういえば、人生相談の名手としても知られていた作家・瀬戸内寂聴先生(21年死去)は、“悩み相談は話を聞いて、一緒に泣いてあげるだけでいい”といった意味合いのことを話していた。
瀬戸内先生とYOUは、恋多きオンナという共通点を持つが、奇しくも2人が同じような見解を持っているのは、「男女の仲、ひいては人の心というものは、理屈ではどうにもならない部分がある」との実感から、「相手の悩みに他人がどうこう言ってもしょうがない」という諦念を持っているからではないだろうか。
そもそも、相談に乗るという行為は、なかなかの鬼門であるように思う。真剣に答えたつもりでも、相手が納得しなかったり、「傷ついた」と言われてしまえば失敗である。それに今時、「ああしろ、こうしろ」というアドバイスは多様性の時代にそぐわない気がするし、「アドバイスを聞き入れない」とか「その後の報告がない」と文句を言うと、こちら側がパワハラ気質の人物であるように見られてしまう。
こう考えてみると、相談には乗るけれど、その後の報告は求めず、仮に相手がアドバイスを聞き入れないとしても、「私も昔はそうだった」と言えるYOUは、人生相談の名手になる素質を備えたタレントといえるのではないだろうか。
少し前まで、YOUのサバサバキャラのポイントは、「サバサバしているけれど、オトコが途切れない」ことだったと私は思っている。「サバサバしたオンナはオトコにモテなさそう」というイメージを覆す彼女の姿が、テレビ映えする個性になっていたと感じるのだ。しかし、今はもうモテるオンナが憧れられる時代ではない。現在のYOUのスタンスなら、そのキャラを上書きする、ニュー・サバサバキャラを確立できる気がするのだ。
他人に対して押し付けがましさがなく、それ故に年齢も性別も問わず、支持される――よく考えると、ニューサバサバって無責任なのでは? という気がしないでもないが、それはさておき、売れ続けているタレントの「自分を変化させる能力」には感服するばかりだ。