“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。
今や首都圏では、5人に1人が挑むと言われる中学受験。学区によっては学年の8割が受験をするというところもある。
このように“大盛況”である中学受験界なのだが、当然ながらメリットもあれば、デメリットもある。
高額な塾代をはじめとする費用負担はもちろん、それ以上に親子共に精神的負担が大きいのが中学受験。子どもによっては抱えきれないストレスを感じてしまうことが、最大のデメリットかもしれない。
中学受験の場合、難関校になればなるほど、小学校では習わない問題が出題されることがほとんど。つまり“受験対策”が必須となる。
この“対策”の王道パターンは、小学4年生からの塾通いだ。学年が上がるごとに週の通塾回数は増えていき、6年では、平日はほぼ毎日塾の授業、土日も模試や振り返りテストなどに追われるようになる。小学校にいる以外の時間のほぼすべてを受験勉強に充てている子も多く、生活の中心が“受験勉強”になるのだ。しかも塾のクラス分けや模試などで、常に偏差値という名の序列が付いて回るとあって、子どもにとっては過酷な日々といえるだろう。
もちろん、そんな受験生活を楽しむことができ、前向きに勉強に励む子もいるが、中には大きなストレスを感じ、“他者への迷惑行為”に走る子も存在する。
小6の娘のクラスメイトに翻弄されたという貴子さん(仮名)は、ため息混じりに口を開いた。
「もうすぐ、卒業式なんですが、実は娘のクラスは6年になるや否や、学級崩壊状態に。担任の先生はメンタルに支障をきたして休職中、不登校の子も複数います。学級崩壊の主犯ともいえる子は、中学受験組だったMちゃんです」
PTAの「卒業を祝う会」役員である貴子さんは、学校側から「できれば役員さんも、不登校のご家庭に卒業式へ参加するよう声掛けしてほしい」と頼まれているそうで、正直、負担に感じているという。
「みんな揃って卒業式に出られるのが理想ですが、一役員でしかない私にそういうことを振られても困りますよねえ。そもそも、不登校になっている子もMちゃんも中学受験組ですから、親に頼むなら、受験組のママたち同士でどうにかしてほしいですよ」
貴子さんによると、娘さんのクラスは3分の1ほどの児童が中学受験塾に通っていたそう。6年生になると、その受験組の子たちの中で微妙な空気が流れ出したそうだ。
「クラスの様子がおかしくなっていったのは、Mちゃんが同じ塾に通うSちゃんに成績で負け出したかららしいです。最初、MちゃんがSちゃんを無視しだして、続けて同じグループの子も追随するように仕向け、Sちゃんを孤立化させたとか……」
Sちゃんはその後、不登校になり、連鎖するかのように、受験組の女の子たちが次々と学校に来なくなっていったのだそうだ。
「その頃には、もはや授業が成立しないような状態でした。先生が、問題の説明しようとしても、Mちゃんが『知ってる!』『わかんないヤツはバカ』みたいなことを言い出し、授業を妨害するんだそうです。便乗してはやし立てる子も出る始末で、娘も『授業にならない』と嘆いていました」
担任の先生はベテラン教師だというが、中学受験をする子たちへの“苦手意識”があるらしく、6年で担任を受け持った時点から、彼・彼女らを“迷惑な存在”という具合に扱っていたとのこと。その空気を敏感に感じ取ったMちゃんは、先生に反発。加えて、塾内の成績が上がらないというストレスが、Sちゃんへの“いじめ”や授業妨害という形で暴発してしまったようなのだ。
さすがに親たちも、学級崩壊状態を心配し、緊急保護者会を開いたそうだが、その前日から担任が休職。肝心のMちゃんの親御さんは保護者会を欠席した。貴子さんいわく、「なんとも無意味な保護者会だった」という。
「Mちゃんは困った子ですが、同時にかわいそうな気もします。ご両親は仕事でお忙しいらしく、Mちゃんは幼い頃から、習い事と塾でスケジュールがパンパン、放課後の遊びの輪にも加われない子として有名だったからです。お母さんはよくいえば、教育熱心。悪くいえば、教育産業に子育てを外注。Mちゃんは、寂しかったんじゃないかなぁって思ってしまいます」
そんな中、Mちゃんをはじめとした中学受験組はみな合格を果たし、新天地である中高一貫校に入学するらしい。
「それぞれのご家庭の判断だから、中学受験がいいとか悪いとかは言えないですが、Mちゃんたち中受組を見ていたら、我が家は『受験ナシ』にしてよかったと思っています。うちの子は小学校の6年間、目一杯遊んで、“子ども時間”を楽しんでいましたから(笑)。娘は、春から地元の中学に行きますが、仲の良い幼なじみたちとも一緒なので、心強いんじゃないかな。その代わり、高校受験がありますけど、ほとんど全員が受ける受験なので、皆と一緒に乗り越えられるはずって期待しています」
貴子さんはそう言いながら、「卒業を祝う会」で出す紅白饅頭の発注数に頭を悩ませているようだった。
中学受験の取材をしていると、中学受験組のストレスがいじめを誘発したり、学級崩壊を招いたりするケースを多く耳にする。
中学受験は、子どもがストレスフルな状況に置かれやすいということは事実。ゆえに親は、より一層、注意深く、我が子の様子を観察していなければならないと思う。
中学受験は親が主導する受験である。我が子の心身の健康を守ることができるのも、また親しかいないということを肝に銘じてほしいものだ。