私たちの心のどこかを刺激する有名人たちの発言――ライター・仁科友里がその“言葉”を深掘りします。
<今回の有名人>
「嫌だもん、芸能人と付き合ったりするの」ハライチ・岩井勇気
『ぽかぽか』(3月21日、フジテレビ系)
芸能人や有名人の結婚相手というのは、“時代を映す鏡”といえるのではないだろうか。
例えば、2021年に離婚したが、とんねるず・石橋貴明が女優・鈴木保奈美と結婚し、記者会見を開いたときのこと。男性リポーターから「とんねるずは2人とも、美人女優と結婚してうらやましい」という意味のコメントがあった(石橋の相方・木梨憲武の妻は女優・安田成美である)。
男性お笑いタレントにとって、“美人女優”との結婚はステイタスを上げる“モノ”であるというニュアンスが込められた発言だけに、今なら炎上してもおかしくない。なぜ、このようなコメントがなされたかというと、当時、女優というのは実業家、俳優、プロデューサーの男性と結婚することが多く、人気女優と男性お笑いタレントというカップルがほとんどいなかったからではないかと思う。
男性お笑いタレントが人気を博し活躍するようになると、彼らをMCに起用する番組が増えていく。その番組が高視聴率を記録すれば、彼らの番組に出たいと思う芸能人が増え、男性お笑いタレントの影響力および地位が向上していく。人気番組には、それにふさわしい人気アイドルや女子アナ、有名女優が出演することになるので、必然的に出会いの機会も増える。
そうすると、とんねるずのように、これまであまり接点がないように思われた“美人女優”とゴールインする者が現れ、それがいつしか男性お笑いタレントのステイタスのようになっていったのだろう。
実際、モテ男として知られ、13年に元モデルの一般女性と結婚したロンドンブーツ1号2号の田村淳は、独身時代に若槻千夏らバラエティアイドルとも浮名を流したが、ある番組で「女優と結婚したい」と発言していた。「女優の〇〇さんと結婚したい」ではなく、「女優」とまず職業を口にするあたり、当時の彼にとって女優を妻にすることがステイタスだったことがわかる。
ほかにも、オードリー・若林正恭は、2017年12月24日放送のラジオ番組『第43回ラジオ・チャリティ・ミュージックソン』(ニッポン放送)内において、南海キャンディーズ・山里亮太について、「女子アナやモデルと結婚しようとしている節がある」「『ここまで来たら、一軍と結婚するしかないだろ』と叫んでいた」と暴露していた。そんな山里は、実際に女優・蒼井優と結婚している(そういう若林も、翌年元日に女優・南沢奈央との交際が報じられたものの、同年9月に破局している)。
トロフィーワイフという言葉があるが、人からうらやましがられる女性と結婚することが、男性お笑いタレントにとって「売れた証拠」になるのかもしれない。
3月21日放送『ぽかぽか』(フジテレビ系)に出演したお笑いコンビ・さらば青春の光・森田哲矢もそういった価値観であるらしい。「誰しもが、女優さんとか行きたくて、この世界入っている」と女優との結婚を夢見ていることを明かしていた。
しかし、同番組司会のハライチ・岩井勇気は、「俺はまったく(そんな気持ちは)ないよ」「嫌だもん、だって俺、芸能人と付き合ったりするの。自意識高そうで」と全否定。女優をはじめ女性タレントとは「あえて結婚しない」という発言は、女性を男性の地位向上の道具とみなしていないという点で、今どきの視聴者にウケるのかもしれない。一方で、岩井の価値観は、時代とともに、タレントを取り巻く環境が変わったからこそのものと私には感じられる。
2016年、「週刊文春」(文藝春秋)がベッキーの不倫を報じ、“数字”を稼ぐようになると、この流れにほかの週刊誌も追随するようになり、ワイドショーや情報番組が芸能人の不倫を追いかけるようになった。その時に面白いと思ったのが、『バイキング』(フジテレビ系)に出演していた司会の坂上忍が「芸能人同士で結婚するなら、不倫をしてはいけない」と言っていたことだ。
芸能人だけでなく、既婚者の不倫は総じてよろしくないことだが、坂上のこの発言には理由がある。
男性芸能人が不倫をしたとして、妻が一般人の場合、マスコミは原則妻を追わない。しかし、妻も芸能人の場合、マスコミは妻にもコメントを求めるし、それを無視するわけにもいかないだろう。場合によっては妻のイメージが低下して、仕事に差し障りが出てしまうかもしれない。つまり、自分と相手の事務所をも巻き込んだ大トラブルになりかねないわけで、芸能人と結婚するのなら、不倫はしないと腹をくくるべきだと持論を述べていた。
女優など女性芸能人と結婚することは、男性芸能人にとってステイタスなのかもしれない。しかし、コンプライアンスが強化されている現代の芸能界で、女性芸能人を妻にすると、妻の顔が売れている分、面倒なことが起こりかねない……実際に岩井がそこまで思っているかは不明だが、一時期に比べ、芸人の妻が“一般人”であるケースが増えているのは、どこか示唆的ではないだろうか。
千原ジュニア、ナインティナイン・岡村隆史、ノンスタイル・井上裕介、そして先に触れた若林は、だいぶ年下の一般女性と結婚している。彼らは番組で「うちの奥さんが」と妻の話をすることがあるが、こういう家庭の話は今時の視聴者が最も親近感を抱きやすいネタだし、妻は一般人で、表に出ない職業であるからこそ、ある程度好きに話せるのだろう。
岩井も今のところ、女優をはじめ女性芸能人との結婚はまったく頭にないのかもしれない(過去には結婚願望がゼロとも語っていたそうだ)。それは確かに今の時代、賢い判断だろうが、恋愛や結婚というのは縁でするものだ。「思っていたのと違う」結果になるほうが面白いよとも申し上げたい。