今は亡き某指定組織の三次団体幹部の妻だった、待田芳子姐さんが語る極妻の暮らし、ヤクザの実態――。
ヤクザも「コンプライアンス」の時代
「ヤクザのコンプライアンス(法令遵守)って、すごいですね」
編集者さんから言われました。先日、関東の指定団体が傘下組織に通達したといわれる「文書」が出回っている件ですね。
例の「ルフィ」問題で、指定団体の関与がちらほら報道されていることとは無関係ではないようです。
ネットで確認できる「通達」の文面には、「最近報道されている強盗 特殊詐欺等の事案」とあり、「この様な事件に加担した者が居た場合又は接触を持ったりした者が居た場合は当人は元より一家一門まで厳しく処罰する」として、違反した場合は本人だけでなく、その親分や兄弟分たちまで厳罰だそうです。
もう一つは、「ETC」ですね。名前こそ出ていないものの、他人名義のETCカードを使用して割引料金で高速道路を通ったとして、今年の2月に大阪府警が山口組幹部を逮捕したことについて、「私達にも起こり得る事件で御座いますので注意して下さい」と書かれています。
ネットでは「厳しすぎる」とか「異例」とかざわついているようですが、こういう「注意喚起の通達」自体は、これまで何度も複数の組織が出しています。
最近では東京オリンピック関連ですね。当初予定されていた2020年の開催を前に、19年2月、関東の組織六団体で構成される「関東親睦会」(14年発足、旧・関東二十日会)が、「東京五輪・パラリンピックに向けて、銃器の使用の自重を改めて要請する」と関係組織にファクスで送ったことが報道されています。
「オリパラの時期以外なら発砲OKなのか」といわれると、そういうことでもないのですが、この頃は今以上にいろいろあった時期でしたからね。18年10月には神戸山口組関係者が路上で発砲したり、12月には東京・歌舞伎町の住吉会の関係先のビルに銃弾が撃ち込まれたりしていました。
「今どきファクス?」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、国会も中央官庁も、街場のクリニックもファクスは現役ですよ。到達確認がしやすいし、処方薬の発注書など紙で管理するほうが便利だそうです。ちなみに「盗聴されにくい」というのは都市伝説らしいです。
ヤクザも若い衆を叱りにくい時代に?
こうした「通達」は、簡単に言えば「アリバイづくり」ですね。組としては「傘下の者たちに厳しく指導しており、それを破るのは組のせいではない」ということです。殺人の教唆や民事の使用者責任問題から逃れるためです。
最近はオレオレ詐欺について、トップの使用者責任が認められ、億単位で損害賠償の支払いを命じられることも珍しくなくなっていますから、ここで「ルフィ」のような闇バイトへの関与があったとしたら致命的です。
過剰な暴力団排除でシノギがきつくなっているので、オレオレ詐欺や闇バイト、クスリ(違法薬物)に手を出すのは仕方ない面もあります。追いつめられたら、もっと悪いことをすると思いますよ。
そもそも「高額のギャラ」に釣られて闇バイトに応募してくるカタギさんたちが後を絶たないのは、不景気だからでしょう。なんでもかんでもヤクザのせいにしないでほしいですよね。
冒頭の通達には、ほかにも「会員同士のお金の貸し借りは禁止」とか「会合中は携帯電話はマナーモードに」とかがあったそうです。これはヤクザには合わない感じもしますよね。週刊誌には「新入社員が研修で学ぶような“社会人としての心得”」と揶揄されていました。
元極妻的には、お金の貸し借りはともかく、会合中に携帯電話の電源を切るのは最低限のマナーですけどね。昔は部屋住みの若い衆は、お掃除から調理、接客と、礼儀作法を厳しく叩き込まれたものでしたが、今はちょっと厳しくするとやめちゃうから言いづらいとも聞いています。
だいぶ前ですが、オットの兄弟分だった親分は「ふと2階の窓から外を見たら、庭にホースで水をまいてた若い衆が笑いながら携帯電話で話してたから、灰皿を投げつけてやった。うまいこと命中してた」と笑ってました。アルミ製だったそうで、よかったです。クリスタル製なら死んでます。
ヤクザに限らず、昔はどこにでも「叱ってくれる人」がいましたが、今はいないから、こんな通達を出さねばならないのでしょうか。寂しい気もしますね。