「子ども同士の付き合い」が前提のママ友という関係には、さまざまな暗黙のルールがあるらしい――。ママたちの実体験を元に、ママ友ウォッチャーのライター・池守りぜねが、暗黙ルールを考察する。
初めての育児の場合、誰でも子どもの発達を周りと比べてしまうものだ。今はネットで簡単に情報が手に入るため、「自分の子は発達が遅いのではないか……」と、人知れず悩みを抱えてしまうママもいるのではないだろうか。
今回は、子どもの発育具合に不安を覚えたあるお母さんの「周りに言われたくない苦悩」を取り上げる。
◎1歳半の息子は発語ナシ、ママ友の子は2語文を話すのに……
地方で野菜の袋詰めなど軽作業のパートをしている雅美さん(仮名・31歳)は、先日1歳半を迎えた男児のママ。夫は船員として働いているため、長い時には3カ月ほど家を空けることがあるという。
「夫は国内の荷物を運ぶ貨物船で働いています。まとまった休みは1カ月ほど取れるのですが、船員不足のため休暇が長く取れない時も。私のほうは週4勤務で、息子は0歳の頃から保育園に預けています。本当は息子と長く一緒にいたかったのですが、ワンオペ育児はつらいので、保育園に入るために働いている感じですね。仕事がない平日は、地元にある地域センターの乳幼児が集まる時間帯に子どもを連れて行っていました」
地域センターでは、同じ月齢の男児のママである桃花さん(仮名・31歳)と親しくなった。
「桃花さんは私のパート先の経営者と、親戚だったんです。彼女は専業主婦で、幼稚園に入れるまでは自宅育児予定。私の夫が長期間不在なのを知っているので、『働きながらワンオペで子育てするなんて大変だね……』と親身になって話を聞いてくれました。いつからか地域センター以外でも会うようになりました」
桃花さんと子連れで頻繁に会うようになってから、雅美さんは息子の大介くん(仮名)の発達が気になりだしたという。
「うちの子は1歳過ぎてからすぐ歩けるようになり、保育園の園庭でもよく走り回っていると先生から聞きます。ただ、桃花さんの息子の翔太くん(仮名)と比べると、大介は発語が遅い気がしてきたんです。翔太くんはまだ1歳半なのに『ママ、ワンワン』と2語文を話すこともあって……気にしすぎなのかもしれないのですが、うちの子はまだ『ううー』とか、喃語しか話さないので、だんだん不安になってきました。でも桃花さんは『男の子は言葉が遅いから、気にしなくていいよ』って言ってくれたんです」
雅美さんは、大介君の発語がないことを心配して保育士に相談した。
「保育士さんからは、『まだ1歳半なので大丈夫ですよ』って言われました。2歳児検診で指摘されたら、病院などで診てもらえばいいとのことで。うちの地域では赤ちゃんの発達についての専門医もいない。『もしも、言語の遅れが発達障害だったらどうしようか……』と悩んでいました」
◎ママ友の家で見つけたフラッシュカード……うちの子の発語が遅いのを指摘された?
そんな中、雅美さんは桃花さんの家に遊びに行った際、気まずい思いをしたという。
「桃花さんは、早期教育をしている幼稚園を希望し、2歳からのプレの入学に向けて、園選びをするなど、子どもの教育に熱心なタイプ。家に遊びに行った時に、絵が描いてあるカードがあったので、何気なく触ったら、『それはフラッシュカードといって、言葉を覚えるためのカードなの。でも早い時期からやっていないと効果がないから、大介君もやったほうがいいよ』と勧めてきたんです。もちろん悪気はないでしょうが、口では『発語が遅くても気にしないで大丈夫』と言っていたのに……なんとなく大介の言葉が遅いのを指摘されたみたいでモヤっとしました」
桃花さんの何気ない一言が気になったと言う雅美さん。その後、職場である衝撃的な出来事が起こる。
「桃花さんが彼女の親戚に、大介の発語がまだないという話をしたようなんです。ある日、職場にいる桃花さんの親戚の女性から、『ちょっと話があるのだけれど』と呼び出され、『〇〇市の小児科の先生は、子どもの発達に詳しいよ』と教えてくれて……。『うちの子は発達障害ではありません』とも言えず、『そうなのですね』とだけ答えました。もう少し様子を見て、やはり発語がない場合は、何よりも大介のために専門の病院を受診しなければと考えていましたが、今の段階で、大介が発達障害と決めつけられたようなアドバイスに、胸が苦しくなりました」
雅美さんは、桃花さんに「もしかして、大介の発語の話をした?」とLINEで訊ねたという。
「桃花さんからは、『〇〇さん(親戚の女性)は、子どもを3人育てていて病院にも詳しいから聞いてみた』『“うちの子は言葉より先に手が出てしまう”と悩んでいる知り合いのママさんにも、その先生を勧めた』と返信がありました。うちの子は言葉が出ないので、嫌なことがあると『う~う~』とうなることはありますが、友達を叩いたりなどのトラブルはまだないのに……。桃花さんは翔太くんと大介の発達具合を比べていたのだなと思うと、モヤモヤしました。ほかの家庭の子どもの発達具合に首を突っ込みすぎるのは、ママ友のルール違反ではないでしょうか」
◎ママ友ウォッチャーが解説!
発達に関する余計なアドバイスは厳禁
育児の悩みは、明確な正解があるわけではないので、ママたちは常に「これで大丈夫なのだろうか」と迷うものだ。ネットや育児雑誌に書いてあることと、子どもの様子が違うと、より不安を感じてしまうし、最近は、発達障害に関する情報があふれているため、「もしかしたら自分の子どももそうかも……」と当てはめ、悩んでいるママは多い。
しかし、実際にママ友から子どもを「発達障害の症状がありそう」と言われて、良い気持ちがする人は皆無だろう。一方、安易に「大丈夫」と励まされることも嫌だという意見も少なくない。身内が障害の可能性を不安視するのは自然だが、他人が首を突っ込んであれこれ言うのはよろしくないと思う。
今回のケースの場合、雅美さん自身は、子どもの発語が遅いことを気にしてはいるが、まだ様子を見ようと考えていた。桃花さんのように勝手に親戚に相談し、さらにその人が雅美さんに病院を紹介するというのは絶対にやめるべき行為だったのではないか。
ただ、桃花さんが言っていたように、“言葉の発達が遅いために手が出てしまう”など、ほかの子に危害を加えることがある場合は、話は別だろう。もしそのことにママが気づいてなければ、直接ではなく、保育園の先生などを通して、やんわりと伝えてもらうのもアリだと思う。
ただ、繰り返しになるが、やはり発達に関することは、ママ同士、首を突っ込みすぎない――余計なアドバイスは厳禁というのが暗黙のルールといえる。