「子ども同士の付き合い」が前提のママ友という関係には、さまざまな暗黙のルールがあるらしい――。ママたちの実体験を元に、ママ友ウォッチャーのライター・池守りぜねが、暗黙ルールを考察する。
今回は、PTA委員・役員決めをめぐって、ママ友との間に溝ができてしまったというお母さんの苦悩を取り上げる。
学校の当番を一緒にやりたがるママ友
関東近県で小学5年生の隼人君(仮名・10歳)を育てている唯さん(仮名・38歳)。彼女には、子ども連れでお互いの家を行き来する仲のいいママ友・香織さん(仮名・39歳)がいる。
「隼人のクラスメイトである健くん(仮名)のママ・香織さんとは、保育園からの付き合いなので、もう10年近い仲になります。彼女には健くんのほか、3つ下に双子の女の子がいるんです。下の子の面倒をみるのに手一杯になっていた香織さんに代わって、私が健くんと隼人のプールの送り迎えをしたり、健くんを家で預かったりしていました」
子どもが小学校に入学すると、学校行事や保護者会などが頻繁にあるため、ママ友と接する機会はぐんと増える。地域によっては、学校への欠席連絡をする際、交流のあるママ友に連絡帳を託さなければならないというルールもあり、いつでも連絡が取り合えるママ友の存在は、必要不可欠といえる。
唯さんと香織さんは、子ども同士の仲が良く、家も近いとあって、お互いに助け合える関係だった。しかし、唯さんいわく、香織さんとの付き合いには困ってしまう部分もあったそうだ。
「ほかのママ友に『健くんを家でよく預かっている』と話すと、『大変でしょう』といわれるんですが、隼人も喜ぶので負担には感じていませんでした。それより手を焼いたのは、香織さんがなんでも“一緒にやろう”というタイプなこと。去年は、『校外委員(※)の当番が回ってきそうだから、一緒にやろう』と誘われて、香織さんに付き添いました」
※地域の見守りや旗振りなどを行う委員
唯さんと香織さんは、子どもが5年生になるまで、PTA委員も役員もやったことがなかった。そんな中、香織さんは、「校外委員の仕事を行えば、PTAの委員や役員をしなくて済む」と思い込んでいたそうだ。しかし、校外委員の当番(係)やベルマーク集めなどの軽作業を行っただけでは、「委員をやった」と認められず、また別の委員や役員を担当しなければいけないこともある。
「うちの小学校は1学年のクラスが2クラスしかない小規模校。卒業までに通年で活動するような委員か役員をやらならければならないルールなので、ちょっと旗振りをやったくらいで免除されることはないと思ったのですが、香織さんは、『このまま逃げ切れるかも』と自信満々で……。というのも、去年まではコロナ禍の影響で、PTAの集まりはオンラインがメイン。しかも、運動会以外の大きな行事はほとんど開催できず、PTAの活動も縮小されていたんです。そのため、『楽なうちにやっておこう』という保護者の自薦が多く、抽選制になったのですが、香織さんは、今年度も同様の事態になるだろうと予想していました」
新学期、PTAの委員・役員決めがあった際、香織さんから「自薦はしないでおこう」と声をかけられたという唯さん。PTAの自薦アンケートは「委員・役員を希望しない」を選択し、提出した。しかし、今年度の選考には異変があったという。
「そろそろ行事が復活しそうと踏んだ保護者が多かったのか、それとも香織さんと同じ考えの人が多かったのか、『委員・役員の希望者が足りなかった』というメールが届いたんです。特に高学年の学級委員や推薦委員が足りていないという話でした」
そこで、定員に満たない委員・役員は、今まで経験のない保護者の中から抽選で選ぶことになったという。
「ただ、期日までに立候補した人がいる場合は、優先的にその人を選ぶとも書いてありました。悩んだのですが、忙しそうな委員や役員に抽選で選ばれるよりも、できるだけ楽そうなものを自分で選んだほうがいいと思ったんです」
というのも、唯さんには、6年生でPTA委員・役員を務めるのは「どうしても避けたい」理由があった。
「隼人はいま中学受験塾に通っているんです。もし6年生で私がPTA委員か役員になったら、受験のサポートとの両立で、大変になることは目に見えている。万が一、学校に行かなければいけない日が多く、負担が大きいとうわさされている広報委員会や卒業対策委員会に選ばれたら、隼人の受験に大きな影響が出てしまいそうで……」
唯さんは、推薦委員に希望を出し、数人の抽選を突破した。
「今まで、PTA委員も役員もやりたくないと思っていたのですが、来年のことを考えると、選ばれてホッとしました」
しかし、香織さんに「推薦委員に決まった」とLINEしたところ、彼女を怒らせてしまったそうだ。
「『なんで相談してくれなかったの!』『抜け駆けされた』という返信が来ました。彼女がなんでも“一緒にやろう”というタイプなのは知っていましたが、うちの事情を理解してくれないんだなぁ……と。でも、いくら仲の良いママ友だからといって、なんでもかんでも一緒……というのはおかしいですよね」
PTAの委員・役員決めのトラブルは絶えることがない。基本的には、アンケートで立候補者を募るが、最近耳にしたのが、定員よりも希望者が多い場合に行われる抽選でのトラブルだ。
かつては最初の保護者会の後に開催されていたようだが、現在はコロナ禍の影響から、人が集まるのを避ける傾向にあるために、一部の委員だけで行われるケースが少なくない。その際、本当に公正に決めているのかと、保護者から苦情が出たという。中には、抽選の様子を動画で配信するという対応を取るところもあるそうだ。
まさにママたちにとって重大イベントともいえるPTA委員・役員決め。実際に委員や役員になると、最低でも月1回程度の会議に出なければならないが、休んだ時のために、仲のいいママ友と一緒の委員・役員に希望を出すというケースも聞く。ただ抽選になった場合、必ずしも一緒にやれるとは限らないだけに、その際、気まずい思いをすることもあるだろう。
今回の唯さんのケースだが、香織さんの言い分には納得しかねる一方、長年にわたり、唯さんはうやむやなまま、香織さんに合わせてきた……という面がありそうだと感じた。「PTA委員や役員をやらないで卒業できるかもしれない」という香織さんの話に同調せず、「でも、そうならないときのことも考えておいたほうがいいよ」と諭したうえで、今年度は希望を出すと先に伝えてもよかったと思う。そうしておけば、もしかしたら「一緒に希望を出そう」という話になったかもしれない。
仲良しのママ友と、なんでも一緒にやりたがるママというのは、実際のところ結構いる。ことPTA委員・役員は、それなりの負担を強いられるものだけに、ママ友の意見に流されず、自分はどうしたいのかをしっかり伝えておく――それがママ友付き合いの暗黙のルールといえる。