• 日. 12月 22nd, 2024

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中学受験を小6で撤退――「公立中学の内申点」に不信感を抱く母が、3年間でわかったこと

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験を志望する理由はご家庭によってさまざまだろうが、その中に高校受験の選考で参考にされる「内申点」への不信感が含まれる場合がある。

 高校受験では多くの場合、「内申書(調査書)」が合否判定の資料として使用されるのだが、ここに記載される成績のことを内申点と呼ぶ。学期ごとの学業成績を、5段階の評定×9教科=45点満点を“素点”として数値化するのだが、テストの点以外にも、課題提出や授業態度などが加味される(なお、都道府県によって、実技教科の得点が重視されるなど計算方法は微妙に違う)。

 この内申書には、内申点だけではなく、生徒の学校生活のまとめも記載され、出欠記録、部活・委員会活動での活躍の度合い、ボランティア活動の有無なども反映される。

 高校受験の合否判定は、内申書と当日の学力試験の結果で総合的に判断される(受験する高校によってこの比率は異なる)だけに、内申点を含む内申書は非常に重要なものといえる。

 ただし、この内申書は中学校の先生が作成するものなので、「個人的主観で評価される面が大きい」という声があるのも事実。それゆえ「結局は先生の好き嫌いで評定が決まってしまう」と話す人も多い評価制度なのだ。保護者の中には、「提出物をちゃんと出して、先生に気に入られる振る舞いをすれば、評定は上がるが、それができなければ、お先真っ暗」と捉える人もいるだろう。

 中学受験組の中には、この高校受験のための内申点への不安から、私立中高一貫校進学を選択しようと考えるご家庭もあるのが実情だ。

 現在、高校1年生の拓海くん(仮名)の母・ひかりさん(仮名)も、かつてその1人だった。ひかりさんが住んでいるのは、小学校の1クラスのうち、約半分が中学受験組という地域。「公立中学の内申制度を避けるため」という理由で、中学受験に参戦する家庭が多かったという。

「拓海が小学校に入った頃から、学区の公立中学に入った子のお母さんたちから『内申を取るのが大変!』という話をたくさん聞いていました。『提出物を出せない子は無理』とか『行事でリーダーになる子が有利』とか『“授業をちゃんと聞いてる”アピールをできる子が可愛がられる』とか『先生の贔屓がひどい』とか……そういう話を聞いているうちに、だんだん公立中学が怖くなっちゃったんです」

 そこでひかりさんは、小学4年生から拓海くんを大手進学塾に通わせたそうだが、「期待するようには成績が伸びてはいかなかった」そうだ。

「当時の拓海は勉強嫌いというか、ただただ幼いというか。塾には喜んで行くんですが、塾の宿題すらもやっていないという状態でした。課題の提出が苦手なんて、まさに公立中学で内申点を取りづらいタイプで、だからこそ中学受験をさせようと思ったわけですが……(苦笑)。『夜まで友達と一緒にいられるのが楽しい』というだけで、塾に通っていたようなものです」

 成績としては、塾の真ん中あたりのクラスで、そこから下がりもしなければ上がりもしないという状況だったという。その拓海君に変化が訪れたのは小6の春だった。

「拓海が『受験をやめる!』って言い出したんですよ。ずっと少年野球をやっていたんですが、『野球魂に火がついた』とか言って、『野球に専念したい』と。レギュラーは6年生から選ばれることが多いらしく、『中学受験をしたい!』より『少年野球チームのレギュラーになりたい!』という気持ちが勝ったとのことでした」

 ひかりさんは、拓海くんに野球で活躍できるほどの運動神経があるとは思えなかったそうだが、「このまま受験しても、私が希望するような名の通った私立中学に行ける可能性は低い」と冷静に判断したという。

 塾にも意外とあっさり退塾を認めてもらい、野球に専念できる環境を得た拓海くん。しかし、大きな大会に出場したものの、チームはあっという間に敗退。ひかりさんいわく「結局、拓海は遊んでいるだけの小学生」になり、そのまま卒業。公立中学に進学したという。

「最初はすごく心配しました。『提出物は出せるのかな?』とか『先生に逆らって内申点が取れなかったらどうしよう?』とか……。でも、それが意外にも杞憂だったんです」

 拓海くんは公立中学でも野球部に入り、野球を継続。3年間レギュラーには定着できなかったものの、腐ることなく裏方仕事に徹していたという。拓海くんのそうした姿勢は、顧問の先生から担任の先生に伝えられていたらしく、中学3年時の三者面談で褒められたそうだ。

「『先生たち、俺のこと、意外とよく見ててくれるんだな』って、拓海はまんざらでもなさそうでしたね。良い先生が多かったというのもあって、私は『もし内申点が取れないのであれば、それは先生ではなくて、やっぱり(そう評価される)生徒が悪い』って思うようになりました(笑)」

 ひかりさんは中学受験への参入を決めた当時を振り返って、「近所の公立中学のことをよく知りもせず、イメージやうわさ話だけで、『先生個人の主観だけで内申点をつけている』と決めつけていたのは反省しています」と述べる。

「でも、中学受験塾に通わせていたのは後悔していません。やっぱり、そのおかげで相当、基礎学力が付いたなと思うんです。それに、ここだけの話ですが、中学受験で賢い子たちがみんな抜けてくれたおかげで、中1の中間テストは、あの拓海でも上位の成績が出たんですよ。それに気を良くして、拓海は新たに行き出した高校受験塾で頑張るようになって、おかげさまでこの春、県立高校の上位校に入学することができました。きっと勉強って、親が無理やりやらせるものではないんですよね」

 受験には適齢期があるというのは、よく聞く話だ。「馬を水辺に連れて行けても水を飲ますことはできない」ということわざがあるが、これは子育てにこそ当てはまるのかもしれない。

 やはり親は、無理に我が子を受験に向かわせるのではなく、まずは、子ども自身が「こうしたい」と希望を伝えてくれるのを待ち、それを聞くことができたら、黙って寄り添う。中学受験する/しないにかかわらず、これが子育てでは一番、大切なことなのかもしれない。

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