下世話、醜聞、スキャンダル――。長く女性の“欲望”に応えてきた女性週刊誌を、伝説のスキャンダル雑誌「噂の真相」の元デスク神林広恵が、ぶった斬る!
杉田水脈衆院議員の“暴言”に高裁判決が下った。ことの発端は2019年、大阪大学の牟田和恵名誉教授らの論文に慰安婦に関する記述があったのに対して、杉田議員が「反日」「捏造」などとツイッターで批判したこと。その後、損害賠償訴訟となっていたが、5月30日に大阪高裁が杉田議員に33万円の賠償を命じる判決を下した。当然だろう。しかしLGBT差別発言もそうだが、度重なる暴言や差別には毎度呆れてしまう。そんな人物が日本の権力、国民を代表する国会議員のひとりだとは――。
第652回(5/25〜5/30発売号より)
1位「市川猿之助 本誌だけが知る『宿縁と過ち』全真相」(「女性セブン」6月8日号)
2位「市川猿之助 贖罪の出家へ『生涯かけ両親弔う』」(「女性自身」6月13日号)
3位「市川猿之助 自宅近所で囁かれる『あんなに気の強い母親がまさか…』」(「週刊女性」6月13日号)
警視庁による市川猿之助の事情聴取が始まったが、しかしいまだ真相解明とは程遠い“猿之助一家心中疑惑事件”。マスコミも関連報道はしているが、しかしなかなか核心に触れるものは少ない。では女性週刊誌はどうか。なにしろ事件の発端とも言われているのは我らが女性週刊誌「女性セブン」の先週のスクープ記事だ。「セブン」はその後どんな取材をして、特集を組んでいるのか。また他2誌もどんな記事を掲載しているのか比較したい。
臆測を羅列する「週刊女性」
まずは3位の「週刊女性」から。残念ながら本当に“周辺取材記事”だ。記事では事件のあらましをおさらいした後、猿之助が自殺幇助罪に問われる可能性を指摘、だが一方で、亡くなった母親の延子さんは意見をはっきり言うタイプで、自らの命を断つとは思えないとの友人のコメントを紹介、そして“自分の意見をはっきり言う”エピソードとして、なんと猿之助一家が抱えていたご近所トラブルを持ち出すのだ。すごく無理矢理な展開である。
その内容は、猿之助家近くのアパートと出入りのための私道をめぐるものだが、記事ではそのトラブルを紹介しながら「気の強い延子さん」「アグレッシブで憎めない人」と評しながら、「自ら命を断つとは到底思いない」という近所の住民のコメントを掲載している。
要するに「週女」記事は、“延子さんは自殺ではなく猿之助に殺された“と言いたいのだろう。でも根拠はない。なので、こんなまどろっこしい表現になってしまった。しかも延子さんが”自殺とは思えない“というのは近所の住人や延子さんの友人なる匿名証言だから、責任逃れもばっちりというわけだ。「週女」は、これまでも歌舞伎に関する記事は他2誌に比べても多く、比較的得意としていたはずなのに、今回の取材は核心に迫るものでなく臆測の羅列で残念だ。
猿之助に勝手に出家を勧める「女性自身」
次は「女性自身」。「週女」と同じく猿之助が自殺幇助罪に問われる可能性を指摘しているが、その次に飛び出したのが“猿之助出家説”だ。記事では「両親への贖罪のため、出家することも考えていると思います」という歌舞伎関係者の匿名コメントが掲載されているが、その根拠は猿之助がもともと仏の道に興味を持っていたということらしい。
記事では猿之助と仏教の関係について過去のインタビュー記事などを引っ張り出し、“猿之助の仏教への情熱”を“熱心”に解説していく。いわく「定期的に比叡山に足を運ぶ」「最澄さんの大ファン」などなど。そして同じ歌舞伎関係者のこんなコメントを紹介するのだ。
「比叡山で修行し、残りの人生、悔い改めることが両親へのせめてもの罪滅ぼしなのではないでしょうか」
つまり出家は猿之助の意志とはなんら関係なく、匿名の歌舞伎関係者による“願望”というわけだ。「自身」による“勝手に出家の勧め”記事である。
香川照之に無理やり責任を押し付ける「女性セブン」
最後は大きな期待が寄せられる「セブン」。猿之助のセクハラ、パワハラというスクープ記事の発売日から1週間、そして発売日当日に起こった猿之助事件からも1週間、どんな新事実が、そして真相が明かされるのか。
「セブン」は今回の事件がなぜ起きたかについてこう記した。
「解き明かす鍵は、猿之助と香川(照之)という従兄弟同士の『いびつな関係』が握っている」
どういうことか。まずは猿之助が書いた遺書について“遺産は愛するAさんに渡す”との趣旨が書いてあったが、その真意は“香川に絶対に渡したくない”のだと解く。猿之助一家3人がもし全員亡くなってしまったとしたら、その相続は猿之助のおじである猿翁、つまり香川の父親が行うことになる。猿翁は高齢だ。いずれその財産は香川やその息子の團子に引き継がれるから、猿之助からすると、それは絶対に避けたかったことらしい。
なぜなら猿之助は香川に「強烈な敵愾心」を持っていたから。40歳を過ぎて歌舞伎界に入った香川だが、“血筋”も正しくあり“芸の才能”もある。世間からの知名度、注目度も高い。そんな香川に激しく嫉妬し、ことあるごとに陰口をたたいてきた猿之助。そして香川の性加害スキャンダルが報じられると「絶対にああはなりたくない、恥ずかしい、“嫌だね”」と嫌悪していたとも。そして香川というライバルなき後“我が世の春”を謳歌していたはずの猿之助だが、そんな矢先に襲われた自身の性加害スキャンダル――。
「澤瀉屋のリーダーの位置から、今度は自分が追い落とされるのではないか、そして香川さんと團子さんという猿翁さんの直系に澤瀉屋の中心が移るのではないか。それを猿之助さんは心の底から怯え、パニックに陥ったのではないでしょうか」(歌舞伎評論家のコメント)
うーーん。確かに香川との関係は複雑だったかもしれないし、事件の遠因かもしれないが、“事件を解き明かす鍵”というほどではないのでは。これまた香川に無理やり責任を押し付けるような解釈をしているだけで、事件の真相に迫っているとは言い難い。
そう考えると、「セブン」と同日発売の「週刊文春」(文藝春秋)の猿之助特集はすごかった。猿之助の残した文章〈愛するAだいすき。次の世で会おうね、たかひこ〉を正確に明らかにし、事件前夜からの猿之助一家の動向、例えば蕎麦を食べたことや睡眠導入剤10錠ほどを両親が口にしたこと、意識が亡くなった両親の顔に猿之助がビニール袋をかぶせたこと、そのビニールなどは夜中に家の近くのゴミ置場に置いたことなど、事件の詳細をかなりディープに報じている。
やっぱりすごいな「週刊文春」。女性週刊誌との取材力の“差”を見せつけられた猿之助事件であった。