私たちの心のどこかを刺激する有名人たちの発言――ライター・仁科友里がその“言葉”を深掘りします。
<今回の有名人>
「大人ならば誰でも知っている。ウソは嘘を呼ぶことを」広末涼子
「STORY」2022年6月号(光文社)連載「毎日が3兄弟ママで、女優。」より
都内の1つ星レストラン「sio」のオーナーシェフ・鳥羽周作氏との不倫報道を認め、所属事務所から無期限の謹慎処分を受けた女優・広末涼子。
報道後、キリン、日本和装、EDWIN、リーガルオンなどのCM契約が終了に。以前、『ぽかぽか』(フジテレビ系)にゲスト出演したベッキーが、CMをやるとプライベートで問題を起こさないことはもちろん、日頃の発言にも制約がかかると話していた。そういう条件だとわかった上で契約を結んでいるのだから、この結果は仕方のないことなのかもしれない。
しかし、19年からMCを務めるテレビ東京の大型音楽特番『テレ東音楽祭』も出演を見合わせ、今月中旬に予定されていた映画もクランクイン延期と、芸能界は「臭いものにふた」とばかりに、広末を排除しているように見えてしまう。ついには、女性誌「STORY」(光文社)での連載「毎日が3兄弟ママで、女優。」も休止となった。
主婦と生活社のニュースサイト「週刊女性PRIME」が、同連載の中の一節を取り上げていた。22年6月に公開されたエッセイで、広末は読者から寄せられた「子どもがつくウソ。親はどこまで許容すればいい?」という質問について、下記のように書いている。
「大人ならば誰でも知っている。ウソは嘘を呼ぶことを。どんなに小さいウソでも、ひとつウソをついてしまうと、そのウソを隠すためにまた嘘を重ねてしまうことを。そしてウソをつくことに慣れてしまい、普通に嘘がつける人間になってしまうことを」
ウソをつくと一度で終わらず、どんどん嘘の上塗りをしなければならなくなるし、そのウソを守るため本当の嘘つきになってしまうと言いたかったのだろう。子どもの教育のために書いた“名文”が、今の広末本人を的確に表しているとは、なんと皮肉なことだろうか。
「子ども3人いるんです」広末涼子はなぜ急転直下で不倫を認めたのか?
「週刊文春」(文藝春秋)に直撃された広末は、鳥羽氏との不倫関係について「絶対にありません! 子ども3人いるんです」と強く否定した。ちょっと芝居がかった物言いで、個人的には嘘くさく感じだが、ともかく「不倫関係と思われたくない」という気持ちは伝わってきた。
しかし、広末の所属事務所は「プライベートなことに関しては、本人に任せていますが、今回の報道を受けて本人に対して責任を持って行動するように厳重注意をしております」とコメント。自社タレントを守るのが仕事であるはずの事務所が、不倫を否定しないとは、これいかに。
一方、不倫相手とされる鳥羽氏も予想外の反応を見せる。「文春」記者に「広末と再婚するつもりはあるのか?」と尋ねられて、「どうっすかねぇ、仲は良いですけど、そういう感じでは、今はないですね」と将来に含みを持たせた発言までしている。事務所と鳥羽氏がきっぱり否定しなかったことから、不倫しているという印象を持った人も多かったのではないだろうか。
しかし、広末と鳥羽氏は急転直下、不倫関係を認めるコメントを出し、広末の無期限謹慎が発表された。おそらく、これは「文春」対策だろう。言い訳のできない証拠を「文春」に握られてしまったので、これ以上のイメージダウンを防ぐために認めてしまったほうがよいと判断したのではないかと感じた。
さて、今回考えてみたいのは、広末が書いた「ウソは嘘を呼ぶ」発言である。「文春」記者に直撃されて、“不倫をしてない”と主張した広末は、確かにウソをついたと言えるだろう。しかし、冷静に考えてみると、あの場面で「はい、不倫をしていますよ」と答える芸能人はいないだろうから、ウソではなく、答えが「YES」か「NO」しかない“誘導尋問”に引っかかったと見たほうがいいのではないか。
それでは、広末最大のウソとは何か。それは、広末が自身のキャリアを“清純派”としてスタートさせた点だ。とはいえ、これは事務所が、彼女をそのように売り出してしまったからなのだが。
広末だけでなく、10代でデビューする女性芸能人は、この“清純派”カテゴリに半強制的に入れられてしまう。芸能界における“清純”とは何かを定義すると、多くの人に求められる優れた容姿を持ち、誰に対しても明るくさわやか、一方で貞操観念が高いため、男性に対して免疫がなく、セックスの経験がほとんどない女性のことを指すと思う。
そのカテゴリに属することに疑問を持たないタレントもいるだろうが、中には「私はいっぱい恋愛したい」「付き合うとか結婚はどうでもよい、いいと思った人とはとりあえずセックスしたい」というタレントだっているはず。
が、若い女性タレントは問答無用で“清純派”の箱に入れられてしまうので、何かのきっかけで“清純”でない行動が明らかになると、世間に「ウソをついた」「ウラがある」とバッシングされてしまう。
広末は10代だった頃、夜遊びや、ちょっとワルそうな異性との交際がたびたび報じられたが、そんなとき「どうして、自分で自分のイメージを下げるようなことをするのか」と私は不思議に思っていた。しかし、広末本人からすれば「自分から“清純派”と名乗ったわけではないのだから、プライベートでまで“清純”な行動を取る必要はない」と思っていたのかもしれない。
そう考えると、遊び対盛りの10代の頃から、“清純派”という役割を押し付けられた広末は、気の毒な人なのではないだろうか。
広末涼子に「子どもがいるから母に徹しろ」なんて言うつもりはないけれど
3児の母となっても、恋をすると周りが見えなくなってしまうのは、10代の頃と同じで、“非清純派”の特徴なのかもしれない。冷静に考えてみて、今さらこの性質を変えることはできないだろう。
今は鳥羽氏に夢中な広末だが、時がたてば、違う男性と激しい恋をするようにも思う。母親になったんだからオトコを断てとか、子どもがいるから母に徹しろなんて言うつもりはない。ただ、守らなくてはならない大切な人たちの存在を忘れないでほしいと願わずにいられない。