私たちの心のどこかを刺激する有名人たちの発言――ライター・仁科友里がその“言葉”を深掘りします。
<今回の有名人>
「これからは法律で決まったこと、裁くこと以外は何も勝手なことを言うべきじゃないなと思いました」南海キャンディーズ・山里亮太
『DayDay.』(日本テレビ系、6月27日)
歌舞伎俳優・市川猿之助が、母親に対する自殺ほう助の疑いで逮捕された。6月28日放送の『よんちゃんTV』(毎日放送)によると、本人は「女性セブン」(小学館)に自身のセクハラやパワハラ記事が掲載されることを知り、両親と「3人で次の世界に行こう」と話し合って、睡眠薬を大量摂取したという。
歌舞伎界を代表する人気俳優の逮捕とあって、世間に与えた衝撃は大きいが、なぜ「3人で次の世界に行こう」と思うに至ったのかなど、謎も多い。ゆえに多くの番組がこの事件を大々的に扱っており、6月27日放送の情報番組『DayDay.』(日本テレビ系)も猿之助の逮捕について報道していたが、MCを務める南海キャンディーズ・山里亮太の発言が物議を醸してしまった。
山里サンは、「逮捕に至った経緯に、一度自殺を考えた人だから、もう一度可能性があるって言ってるのに、臆測だったりテレビで、ただでさえ、自分のご両親がこうなったことで精神的にショックが大きい中で、我々は報道するときに本当に気を付けないといけない。これがきっかけとなることもある」「繊細な状態の話なので……。これからは法律で決まったこと、裁くこと以外は何も勝手なことを言うべきじゃないなと思いました」などと力説。
これはつまり、起訴や裁判の判決を待って報じるということだろうか。もしそうなら、逮捕直後の今、この事件を扱うことに矛盾が生じてしまう。ネット上でも「MCがそれを言ったらおしまい」という意見が見られたが、おそらく山里サンの真意は別にあるのではないかと思っている。彼は、この事件を扱う際には細心の注意を払って、極力当て推量を排し、慎重に伝えていくつもりだと言いたかったのではないか。
メディアが個人を責めすぎることは時代の流れと逆行しているし、やりすぎれば、今度は番組や出演者がやり玉にあげられてネット炎上しかねない。そのあたりのリスクを総合的に考慮しての発言だったのだろうが、表現がちょっと極端だったためにバッシングされてしまい、気の毒だなと感じてしまった。
好感度が高い人気芸人なら誰でも名MCになれるというわけではない
しかし、山里サン、そもそもワイドショーの司会としては、あまり適性がないのではないかと、私は思っている。
山里サンは、人気芸人として知名度が高いだけでなく、妻は売れっ子女優・蒼井優で、お子さんもいることから、生活感覚があってクリーンなイメージを持ち、それが、今回のMC起用の決定打となったのかもしれない。一方、山里サンにとっても朝の帯番組の司会は、仕事の幅を広げることにつながるから、願ったりかなったりのオファーだろう。しかし、好感度が高い人気芸人なら、誰でも名MCになれるかというとそうではなく、やはり向き不向きがあるのではないか。
MCはいろいろな話題を扱わなくてはいけない。そのため、タレントより、業界内での人間関係やCMスポンサーなどのしがらみが比較的少ないアナウンサーのほうが「MCに向いている」と私は思う。しかし、もしタレントがMCをやるなら、中立性やバランス感覚が必要になるのではないだろうか。メディアに悪者を追及するスタンスは必要不可欠である一方、悪者を過剰に責め立て、追い込む様子を見るのは、朝から気分が悪い。山里サンはそのあたりが苦手なように思えるのだ。
6月14日放送の『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)の「あの恨みは忘れない!根に持つ芸能人ぶっちゃけSP」に出演した山里サン。その名の通り、芸能人が経験した恨みつらみを打ち明ける企画だが、ここで彼の「らしさ」が出ていたような気がした。
ブラックマヨネーズ・吉田敬や明石家さんま、アンガールズ・田中卓志は、ヘアメイクの女性や合コンで出会った女性の対応に根に持っていると話していた一方、山里サンのエピソードは対象者が仕事関係者オンリーかつ重い。
山里サンは、17年前、南海キャンディーズに密着した番組があったと回顧。その際、カメラマンの「だめだ、眼鏡のほうが入ってる」という一言で、番組が求めているのはしずちゃんこと山崎静代であり、自分は必要とされていないと気づき、この密着番組を台無しにしてやろうと画策したそう。具体的には、しずちゃんについて「犯罪歴があるのに隠している」と、今だったら問題になる大ウソをついたというのだ。
その後、番組スタッフが謝罪してきたものの、「山里さんも映るように努力します」と中途半端なスタンスだったので、険悪さは解消されず。結局、オンエアでは山里サンは1ミリも映っていなかったそうだ。それ以来、山里サンはそのディレクターの動向をチェックしているという。
仕事関係者への恨みが多いのは、それだけ山里サンが熱心に仕事をしているということであり、「上に行きたい」という野心が強いことの表れだろう。野心は仕事の場だけで発動するとは限らない。
オードリー・若林正恭が『激レアさんを連れてきた。』(テレビ朝日系)で、山里が飲みに行くたびに「もう女優か女子アナと結婚するしかねぇだろと叫んでいた」と明かしていたが、蒼井との結婚も、野心の賜物なのかもしれない。野心が強ければ強いほど、その反動で恨みも深くなるのだろうが、「やられたらやり返す」エピソードを得意とする人は、深夜番組はよくても、中立性やバランス感覚が求められる朝のワイドショーには向かないのではないか。
山里亮太は「長いものに巻かれる」タイプ?
また、上に行くためには、権限を持った人や組織に認められる必要がある。実際、山里サンは、所属事務所である吉本興業が闇営業問題で揺れたとき、極楽とんぼ・加藤浩次などの所属芸人が吉本批判をする中、『JUNK 山里亮太の不毛な議論」(TBSラジオ)で「ウチの会社は言った人をメモったりする几帳面さがある」と指摘。安易な気持ちでの会社批判はよしたほうがいいと言っていたのだ。
これは処世術としては実に賢明で、会社に楯突く人を会社はよく思わないし、プッシュすることもないだろう。しかし、ここまで徹底して「上下にこだわる」「長いものに巻かれる」タイプの人は、MCとして中立なポジションを取っているつもりで、つい強い人、自分にメリットがある人の味方をしてしまうと思うのだ。
しかし、報道と暴露の垣根があいまいになりつつある今、山里サンの“恨み芸”が、朝のワイドショーにハマる可能性も十分にある。山里サンが“持っている人”なのは確かなだけに、彼がワイドショーに新風を吹き込むのかもしれない。