“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)
そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。
亡くなった人からのメッセージを受け取ったという人は少なくない。前回から引き続き、そんな体験をした人たちの話をご紹介したい。
出産後、夢に現れた父は微笑むだけ
平野紅梓さん(仮名・58)は、中国人だ。20代で日本に留学し、そこで知り合った日本人の夫と結婚してからは、中国へは数年に一度しか帰っていなかった。まだ60代だった父親が末期がんで余命半年だと宣告されたときも、平野さんが妊娠中だったこともあって、帰国することができなかった。
「父の病状はずっと気になっていたんですが……。あるとき、夢に出てきて、私に赤い靴を渡してくれたんです。私の故郷では、赤い靴は亡くなったときに履く靴なんです。目が覚めて、ああ父は亡くなったんだと思いました」
死期の迫った父に顔を見せることもできず、申し訳なく思っていた平野さんだったが、その後再び父親が夢に出てきた。
「『お父さんが好きだった服をずっと探していたんだけど、やっと見つかったよ』とうれしそうに言うんです。翌日、母に電話して父の言葉を伝えたら、お葬式のときに父が気に入っていつも着ていた服をお棺に入れるのを忘れていたので、四十九日の納骨時にその服を燃やしたということでした。父の元にその服が届いたんだなと思いました」
母親も驚いていたという。そして、「なぜ私には知らせてくれなくて、紅梓のところに行ったのかしら」とやきもち半分で笑った。
その後、平野さんは無事男の子を出産した。するとまた父が夢に現れた。
「部屋の外からこちらを見ているんです。孫を見に来てくれたんだと思って、『お父さん、赤ちゃんが生まれたんだよ。入って来て抱っこしてあげて』と言ったのですが、微笑むだけで入ろうとしないんです」
平野さんは、父が部屋に入ってこなかった理由を考えていて、あるとき思い当たった。
「この世は“陽”、亡くなった人は”陰“の世界にいるから、入ってこれなかったのかもしれません。父はもう向こうの世界にいるということだから、安心していいのかなと思うようになりました。それ以降、父は長く夢に出て来ませんが、きっと向こうで幸せにしているんだろうと思っています」
亡くなって10年、夢に出てきた父
沢井久美子さん(仮名・61)も、50代だった父親を亡くした。30年以上たった今でも、父親を思い出しては泣いてしまうくらい大好きだったという。
「亡くなって10年ほどたったころでしょうか。父が夢に出てきたんです。父は、まばゆいばかりの白い光があふれる場所にいました。そして『お父さんはここにいるから、いつでも遊びに来ていいよ』と言ってくれたんです。そのときの幸福感といったら……うまく表現できないんですが、あふれる愛に包み込まれるような感覚、と言ったらいいのでしょうか」
その夢を見てから、沢井さんはいつか父に会えると思えるようになった。だから、生きている今を大切にしなければならないとも思っている。
「父はいなくなった今も、私を励まし、勇気づけてくれる存在なんだと思います」
親は亡くなっても、子どもを気にかけてくれているし、子どもが前を向いて生きる力になっている。そうして、死を受け入れていくのかもしれない。親だけでなく、いずれ訪れるであろう自分の死をも。