“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)
そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。
義母のホーム探しが簡単だった理由
峰まゆみさん(仮名・63)の夫の母親、令子さん(仮名・91)は、夫を見送ったあと長く一人で暮らしていたが、10年ほど前に峰さん家族近くのアパートに転居した。一人暮らしではあったが、峰さん夫婦がこまめに様子を見に行くことができる距離だったので、互いに安心していた。ところがここ数年は体調を悪くして入院することが増え、峰さんは令子さんがこれ以上一人暮らしを続けるのは難しいのではないかと考えるようになた。
「私も夫も60歳を過ぎ、健康に不安を感じるようになりました。先日は私も腰を圧迫骨折してしまい、老老介護予備軍だと実感したんです」
自宅で転倒して入院した令子さんを、もう自宅アパートに戻すのは無理だと考えて施設探しを始めた。当初は、リハビリや医療ケアを受けながら自宅に戻ることを目指す「介護老人保健施設(老健)」を当たっていたが、リハビリの時間が少ないことがわかった。
「週に2回、それも20分しかしてくれないというんです。それに老健は長期入所はできず、3カ月とか6カ月で出されるのでは、結局また一から施設探しをしないといけなくなります。だったらいっそのこと、有料老人ホームを探そうと思ったんです」
ホーム探しは、予想以上に簡単だった。というのも、峰さんの住む市の近辺に、有料老人ホームは3カ所しかなかったのだ。
「ホーム探しで、選択肢が多くて迷うというのは都会の人だけ。ぜい沢な悩みだと思います。それも3カ所あったホームのうち、2カ所は満室で、空きがあるのは1つだけだったので、悩むまでもなくそこに決めるしかありませんでした」
そのホームは、以前令子さんとパンフレットを見ていたことがあった。看取りまでしてくれるというので、「入るならここね」と令子さんが言っていたのが決め手になった。全国展開している大手の有料老人ホームだ。
「費用は月に20万円強です。前払い金はいらなかったので、安いほうだとは思います。それでも義母の年金では足りないので、貯金を取り崩しています。義母も90過ぎているので、100歳まで生きても、何とか足りるでしょう」
これで一安心、のはずだった。
選んだ老人ホーム。こんなはずじゃなかった
「ところが、そのホームに入ってみるとリハビリはまったくありませんでした。リハビリもないのに、義母の状態が改善するわけがありません。食事のときだけ車いすで食堂に行っていますが、あとはすぐに部屋に戻って、ベッドに横になる。これでは筋力が落ちるばかりです」
食事もあまりおいしくないらしい。
「見学時に試食したときは、そんなに悪くないと思ったんですが……。いろんなことにやる気が失せてしまい、しかも動かないので、食事もおいしくないのでしょうね」
それでもホームにいれば、近くに職員がいるので安心だ。一人暮らしのときはちょっとしたことでも電話で呼び出されていたので、気持ちが全然違う。コロナの感染拡大もあって、たびたび面会に行かなくてすむようになったことも、峰さん夫婦にとっては解放感が大きかった。
「もう携帯電話も必要ないので解約してしまいました。何かあればホームから呼ばれるでしょうが、その時はその時。通院する際の付き添いは必要になりますが、今はホームに訪問医が来てくれているので、それで十分足りています」
それに義母は夫の親だし、と峰さんは淡々と語る。
――後編(9月10日公開)につづく