• 日. 12月 22nd, 2024

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なぜジャニーズファンは、性被害の告発者を誹謗中傷するのか? 臨床心理士が語る“暴走”の理由

 現在、国内外で大きく取り沙汰されているジャニーズ事務所創業者・ジャニー喜多川氏(2019年に死去)の性加害問題。これまでタレントが語ってきた“ジャニーさん”像とは大きくかけ離れた同氏の性加害者の一面を知り、ジャニーズファンの多くは大きなショックを受けている。また、これまで同氏にそうしたうわさがなかったわけではないだけに、自身が見て見ぬふりをしてきたことを後悔し葛藤したり、応援するタレントの活動にどのような影響が及ぶのかと不安になっているファンもいることだろう。

 そんな中、一部ジャニーズファンが被害を訴える元タレントたちに対し、二次加害を行っていることが大きな問題に。こうしたファンはSNS上で、「カネや売名のため、嘘の告発を行っている」などと被害者を激しく攻撃しており、実際、元タレントが誹謗中傷に苦しめられていると吐露する場面も増えている。

 これまで幾度となく問題視されてきた性被害者への二次加害だが、なぜ一部のファンはこうした行為に走ってしまうのか――今回、神奈川大学心理相談センター所長、人間科学部教授である臨床心理士の杉山崇氏に、心理学の観点からその理由について、見解をお聞きした。

ジャニー氏性加害問題、被害者を二次加害するファン心理

 SNSを見ると、ジャニーズ事務所を擁護し、被害者を非難するジャニーズファンが少なからずいる。被害者の告発インタビューと、過去のニュース記事や経歴などを照らし合わせ、「彼らの証言は嘘」と主張。特定の政党と組んで、ジャニーズ事務所を潰そうとしているといった持論を展開し、その怒りの矛先は、ジャニーズ批判をする著名人やマスコミなどにも向けられている。

 こうした被害者への二次加害に走る過激ジャニーズ擁護派のファンは、どのような心理状況にあるのだろう。

「偶像(=アイドル)崇拝に人生を捧げているタイプの人は、アイドルと自分の間に“絆”を感じることの高揚感で、心理的な生きづらさであったり、自分の生き方に対する迷いを緩和している面があるんです。そういう人のことを、私は『絆スタイル』の人と呼んでいて、ジャニーズファンにはこのスタイルを持つ人が相対的に多いのではないでしょうか。この『絆スタイル』の人は、絆を感じる対象を美化するときは徹底的に美化する傾向があり、その対象が所属する事務所=ジャニーズをまだまだ必要としている人が、事務所を擁護し、被害者を非難するという行為に走っているのではないでしょうか(杉山氏、以下同)

 一方、「絆スタイル」の人には、絆を感じる対象が、少しでも自分の理想通りではないと感じると、こき下ろす傾向もあるとのこと。今回のファンの反応を見ていると、「『絆スタイル』の人たちが、事務所を徹底的に批判する/擁護する側のいずれかに分かれている印象を抱いた」そうだ。

「もちろん『絆スタイル』ではないジャニーズファンも存在する。そういうタイプの人が、ジャニーズ批判派/擁護派の間で、困惑しているように見えます」

 アイドルと自身の絆を壊されたくないという気持ちは理解できるが、「性被害者への二次加害はしてはいけない」という倫理観を見失うほどの行為に出てしまうのはなぜなのか。杉山氏は、二次加害を堂々と行っているジャニーズファンは、「おそらく被害者をすり替えていて、ジャニー氏並びにジャニーズ事務所が『被害者』という認識」と指摘する。

「『絆スタイル』の人にとって、絆を感じる対象は“自分の一部”ですので、対象の所属する事務所も大事な一部。性被害の告発者を『自分を傷つける敵』とも認識してしまいます。敵に苦痛を与えることは“快楽”であり、そのモードが全開になると、自分のやっていることが正しいのか、間違っているのかの判断を失ってしまうのです」

 こうしたファンの中には、告発者の証言が嘘である証拠を探すだけでなく、メディアや著名人の過去のジャニーズ批判を掘り起こして非難する者も見られるが、杉山氏の目には「敵を追い詰めているという実感から、アドレナリンやドーパミンが出て、脳が興奮状態になっている」ように映るという。

「絆スタイル」になりやすい性格の人とは?

 なお、「絆スタイル」になりやすい人には、もともと「敏感で悲観的になりやすい」「ドーパミンによる高揚感を好む」「社会的に協調性は獲得しているものの、実際には人に合わせるのが嫌い」といった性格の傾向があると杉山氏。

「悲観的になりやすいのに高揚感を好むというのは、矛盾しているといえますが、こういった性格の人は、ゆえに『こんなはずじゃない』『何かがおかしい』という不全感による葛藤が強い。人との交流を好むタイプであれば、その中で葛藤が緩和されるのですが、人に合わせるのが嫌いな場合は、それもできない。となると、自分が主導権を持ち、好きな時に絆を感じられる“アイドル”という存在に救いを見いだすようになるんです」

 「アイドルに救われている」と感じるファンはたくさんいるだろうが、それが性被害者への誹謗中傷につながってしまうのは断じて許されない。

「『絆スタイル』の人は対象を美化するための妄想や、敵をこき下ろすための妄想が暴走しやすいんです。現実検討能力を失いがちで、現実社会で逸脱した行動に出て、結果的に人を傷つけてしまうことが少なくありません」

 ジャニー氏の性加害問題をめぐっては、今後も事務所の対応や被害者のケアなど、さまざまな論点で議論が繰り広げられるだろう。その一つに、被害者への誹謗中傷問題も挙げられるが、一部のファンを加害に走らせる“心理”を把握することの重要性を実感させられる。

杉山崇(すぎやま・たかし)
神奈川大学心理相談センター所長、人間科学部教授。公益社団法人日本心理学会代議員。子育て支援、障害児教育、犯罪者矯正、職場のメンタルヘルスなど、さまざまな心理系の職域を経験。『いつまでも消えない怒りがなくなる 許す練習』(あさ出版)など著書多数。

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