私たちの心のどこかを刺激する有名人たちの発言――ライター・仁科友里がその“言葉”を深掘りします。
<今回の有名人>
「頑張っているタレントさんが、そのCMのある番組に出られないことになってしまわないか心配です」南海キャンディーズ・山里亮太
『DayDay.』(9月13日、日本テレビ系)
9月7日に、ジャニーズ事務所による会見が行われた。事務所として、創業者・ジャニー喜多川氏(2019年に死去)の性加害を認めたことを受けて、大手スポンサー企業が同社との契約を見直すと相次いで発表している。
同10日放送の『サンデー・ジャポン』(TBS系)に出演したデーブ・スペクター氏は、「(ジャニーズ事務所を)いじめているような気もする。なんで(広告契約の見直し)表明をわざとらしくやるのか」とコメント。
また、同13日放送の『DayDay』(日本テレビ系)でも、MCの南海キャンディーズ・山里亮太が「頑張っているタレントさんが、そのCMのある番組に出られないことになってしまわないか心配です」とタレントの今後を慮るような発言をしていた。
確かにジャニーズタレントは、今回、同社との契約を見直すと発表した企業のCMだけでなく、スポンサーとなっている番組にも出られない可能性が出てくる。そうなると、ジャニーズ事務所、タレント双方にとって大打撃だろう。タレント本人が不祥事を起こしたわけではないのに、CMやテレビ出演の機会を失うのは気の毒だが、「ビジネスとして」考えるのなら、それも致し方ないのではないか。
少年隊は「本当にお行儀がいい」――テレビ局はなぜジャニーズを信用したのか?
ビジネスシーンにおいては“信頼”が何よりも重要視される。テレビ局が大手事務所を丁重に扱うのは、人気タレントを多数有していることが一番大きな理由だろう。しかしそれ以外にも、長年の付き合いで事務所に信用があるからだと思う。
テレビ局は、人気のあるタレントに出演してもらい、視聴率を稼いでほしいというのが本音だと思われるが、だからといって、コンプライアンスを遵守できない人物を出演させると、番組がお蔵入りとなりかねないので、それは避けたいところ。そういう時に「この子はちゃんと教育してあるので安全です、私どもが保証します」と“身元保証”するのが事務所の仕事だと思われる。
その昔、演歌歌手の小林幸子が、『夜のヒットスタジオデラックス』(フジテレビ系)で、少年隊の3人を「本当にお行儀がいい」と褒めていたが、上下関係が厳しいとされる演歌界の人にそう言われるくらいだから、彼らの周囲に対する気配りは、相当なものだったのだろう。それは事務所内での教育が行き届いていた証しともいえるはずだ。
視聴率を稼いでくれるスターがいる、しかも礼儀正しいとなると、 テレビ局はますます大手事務所を信頼するようになる。テレビ局は「あの事務所に頼めば、間違いない」と信頼し、一方で芸能界志望者も「あの事務所に入れば、チャンスがつかめる」と信じて、多くの才能が集まるだろう。
しかし、長年ささやかれてきたジャニー氏による性加害をジャニーズ事務所が認めた今、ジャニーズ事務所の信頼は地に堕ちた。戦後、姉と力を合わせ、一代で芸能界にエンパイアを築き上げたというのが、これまでのジャニー氏のイメージだろうが、今では趣味と実益を兼ねて芸能事務所を作り、餌食となる少年たちを集めていたと言われても否定はできない。
事務所に信頼がなくなれば仕事は来なくなる。テレビ局や企業が事務所に仕事を頼むということは、亡くなったとはいえ、性犯罪者が舵取りをしていた企業にお金を落とすことにつながるわけだから、タレントに非はなくても、取引をやめると考えたとておかしくはない。
長年、芸能界にいる山里サンだけに、こんなことがわからないとも思えないので、おそらくタレントを傷つけないように、とはいえ企業側を叩きすぎないように気を使って 「頑張っているタレントさんが、そのCMのある番組に出られないことになってしまわないか心配です」 という表現を用いたのだと思われる。
確かに、人を傷つけない、傷ついた人に寄り添うこと、また過度な批判は避けること は、時代が求めているものともいえるだろう。しかし、こうした全方位にやんわり忖度していると、視聴者に「発言がズレている、わかっていない、そういう問題ではない」と思われてしまい、となると、山里サンの信頼に関わってくるのではないか。
9月10日放送の『Mr.サンデー』(同)で、MCのフリーアナウンサー・宮根誠司は「テレビとかは魅力あるジャニーズのタレントさんに出てもらいたいわけですよ」「視聴率を取りたいわけです。だから、そういううわさがあっても、あえて追及はしませんでした、誰も。これは本当に猛省しなければならない」と述べた。
一方、TBSアナウンサー・安住紳一郎も、同9日放送の『情報7DAYSニュースキャスター』で、ジャニーズ事務所に対する忖度は「十分にあると思います」と認め、事務所から触れてほしくないと言われたことについては、「もしその約束を守らなければ、次からはこちらの依頼に応えてくれない、そういう損得勘定で仕事をしている部分はあります」と総括した。
自身らの後ろ暗いところを、先に言ってしまえば、「なぜ疑惑を追及しなかったのか」「ジャニーズ忖度はしていなかったのか」 というネットユーザーからの批判を封じることができるし、正直なコメントだと好感を抱く人もいるだろう。宮根、安住アナといえば、アナウンサーとして絶大な人気を誇るが、やはり民意を捉えるのがうまいと感じる。
彼らに比べると、山里サンはその「民意を捉える」ことができていないように思う。 彼のコメントについて、先ほど、全方位にやんわり忖度していると述べたが、腰が引けているともいえるのではないか。彼は 自分が芸人として認められることには熱心だけれど、実は他人のことにあまり興味はなく、共感性も薄いのかもしれない。だから、自分が他人にされた屈辱的なことはいつまでもいつまでも覚えている割に、他人の受けた痛みのようなニュースになると、途端にぼんやりしたコメントしかできなくなるように見える 。
しかし、ワイドショーのMCである以上、視聴率を取る必要があるだろう。山里サンが本音を言うことが、視聴率が低迷する『DayDay.』の突破口 のように思えてならない。