「皇族はスーパースター」と語る歴史エッセイストの堀江宏樹さんに、歴史に眠る破天荒な「皇族」エピソードを教えてもらいます! 今回は皇族のお屋敷にかかる金額事情をお話いただきます。
――戦後、宮家にとっては「どんな邸宅に住むか?」が頭痛の種だったというお話までを前回うかがいました。
堀江宏樹氏(以下、堀江) それは戦後、皇族がたは個人資産を持たないという法律に縛られるようになったからですね。
戦前の天皇家には莫大な私有財産があって、各宮家にも現在の価値で3億円程度の額を毎年、下賜しており、それを使って、宮家の方々がどんな豪華な邸宅を建てて住もうが、それは個人の自由だったわけです。「東京都庭園美術館」として豪華なアールデコ様式の建物と広大なお庭が公開されている旧・朝香宮邸などに、現在でも戦前の皇族たちの栄華の跡が見られると思います。
しかし終戦後、各宮家にも莫大な財産税がかけられたので、自慢の大邸宅も売り払うしかなくなりました。多くの(旧)宮家から不動産を買収することに熱心だったのが、西武グループの堤康次郎氏でした。
――皇族がたの旧邸が、プリンスホテルに作り変えられたという話は聞いたことがあります。
堀江 昭和25年(1950年)の朝香宮邸買収に始まり(別荘は昭和22年に買収)、竹田宮、北白川宮、東伏見宮、そして李王家の旧邸が昭和29年までの間に一気に買収されていっています。「堤氏の資金が続いたのか?」と思いきや、猪瀬直樹氏の『ミカドの肖像』(小学館)によると、買収手段はかなりユニークでした。
後に「新高輪プリンスホテル(現・グランドプリンスホテル新高輪)」としてオープンする北白川宮邸の1万2,000坪あまりの土地と邸宅を買収したときには2回にわけ、現金は合計1500万円しか払わず、残りは「売買代金に対する年一割の利息を現金払いにするということで相手を納得させた」とあります。
しかし、昭和28年(53年)、買収された当時の北白川宮邸の価値は、戦後の混乱期ということもあり、当時のお金で1億円程度だったのが、昭和54年(79年)の段階で300億円に値上がりし、さらに『ミカドの肖像』が出版された昭和61年(86年)では900億円を突破していたとか……。
――昭和45年(70年)に新築された三笠宮邸の建物が1068平方メートル(323坪)で、その価格は当時の1億6千万円=現代の6億4千万円程度だったことを考えると、北白川宮邸はどうでしょうか。
堀江 庶民には大邸宅という感じでしょうけれど、戦前を知る皇族の方々にとっては、かなり小さい家だと見えていたでしょうね。
結局、皇族が日本の顔であることは国民も納得していると思うのです。立派な邸宅に住んでいてほしいというのも国民の総意でしょう。しかし、改修にしても、新築にしても、国民からの文句が出にくい金額があって、それは10億円以内ではないかといえるような気がします(笑)。
皇居・御所の改修費費は56億円だった
――実際、秋篠宮家の新邸宅の改修費が33億円であるのに対し、今上天皇陛下ご一家の「皇居・御所」の改修費は8億7千万円程度にとどまりました。庶民から見ると、これも巨額なのですが、バッシングされてはいませんね。
堀江 今上皇陛下のお住まいは、平成の天皇皇后両陛下のお住まいで、公務の場でもあった「皇居・御所」ですよね。この建物は平成5年(1993年)、約56億円かけて大改装されたからこそ、今回の改修費用も抑えられたという側面は否定できないでしょう。
ちなみに、上皇后陛下こと、美智子さまが体調不良でお倒れになり、声を出せなくなる「失声症」を患われたのも、平成5年のことなのです。美智子さまのご希望で、昭和天皇が愛した皇居の自然林が伐採されたという、事実とは反する記事が週刊誌に多く掲載されていたからだといいますが、改修費用56億円についても批判されたことは想像に難くありません。
――当時も批判されたとはいえ、今ほどマスコミは皇族の生活費用に口を挟まなかったのではないでしょうか。ちなみに当時の56億円は、現代ではどのくらいになりますか?
堀江 70億円くらいに相当だと思います。たしかに「新秋篠宮邸」ほど、猛烈なバッシングは受けなかったようですね。平成初期の日本経済は現在に比べるとまだ強く、国民の生活水準も、現在よりはかなりマシだったからかもしれません。
――宮内庁がしきりに「いかに節約したか」を強調するのは、平成の皇居大改修でかかった費用に比べれば……という前置きがあるのでしょうね。
堀江 今回の33億円プラスアルファもかかった「新秋篠宮邸」の計画で批判されているのは宮家の方々ばかりで、計画を具体的に動かしていった宮内庁については、ほとんど何も咎められておらず、不自然ですよね。
まぁ、秋篠宮さまご一家には、現代のほかの皇族がたに比べると、住み替えが非常に多く、その都度、億単位の建築関係の経費が発生し、結果的に高く付いてしまっているのは事実です。最初から、それなりの規模の邸宅にお住まいになっていたのであれば発生しなかったのであろう費用ともいえるでしょうが……。
――次回に続きます。