「皇族はスーパースター」と語る歴史エッセイストの堀江宏樹さんに、歴史に眠る破天荒な「皇族」エピソードを教えてもらいます! 今回から全7回にわたって上皇陛下の長女で天皇陛下の妹である黒田清子さんをめぐるお話をお聞きします。
――最近、小室圭さんと眞子さんのニュースがまた目立つようになりましたね。ニューヨークの弁護士事務所にお勤めの圭さんのお仕事が好調なようで、素直に喜ばしいことだと思います。
堀江宏樹氏(以下、堀江) ヘルズ・キッチンの手狭なワンルームから、より安全なエリアの広い一軒家にお引越し予定との報道で、なぜだか「ホッ」としてしまった方も多いのではないでしょうか。
――小室さんとの結婚によって、皇族から一般人になった眞子さんですが、それでも一般人には手の届かないような特別な生活を送っていただきたいという願望が、なぜだかあるんですよね。
堀江 NHKによる令和元年(2019年)の調査では、国民の72%が「皇室に関心がある」と答えているそうです。05年の黒田清子さんの結婚が多くの国民から祝福されたのとは逆に、21年の眞子さんの結婚はバッシングの嵐でした。過去記事でも理由を分析したので、今回は触れませんが、あまりに型破りで、「皇室らしくない」と感じられてしまったのでしょうね。
清子さんと眞子さんの間にも女性皇族の結婚はありましたが、やはり天皇家に近ければ近い方の結婚ほど、国民の関心は高まり、毀誉褒貶も激しくなるのですね。
――そういえば、どうして日本人は、皇室の動向にこれほどの関心を抱くようになったのでしょうか?
堀江 私の体感では明治時代の終わりくらいから、大正、昭和と、時を経るごとに、庶民にも皇室への関心がジワジワと広がっていったのではないかと思われます。実は、明治時代初期には、日本人の大半が皇室には無関心でした。明治初期に来日したドイツ人医師のトク・ベルツが、明治13年(1880年)11月3日の日記の中でこんなことを書いています。
「天皇誕生日。この国の人民の多数がその君主に寄せる関心の程度の低い有様をみることは情けない」
こう記した背景には、明治時代以前から、天皇や将軍などの誕生日は身内では盛大に祝われてきたのですが、国民全体で祝うようなイベントではなかったことが影響していると思われます。しかし、ベルツが本当に伝えたいのは、「天皇誕生日さえ無視されているくらい、日本人は天皇家に興味を持っていない」という事実なのでしょう。
――戦前の日本では、すべての家の玄関に日の丸を飾って天皇誕生日をお祝いしていたようなイメージがあるのですが、全然違ったのですね!
堀江 そうなんです。ちなみにベルツが来日したのは明治9年(1876年)でした。しかし、それより14年後の明治23年(90年)に日本を訪れた作家のラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は、違う反応を見せています。彼は来日直後から約1年間、松江中学校(現在の島根県)で教壇に立ちました。
その時の、教え子たちの大半が「天皇陛下のために死ぬこと」が最大の願いであると語ったことを踏まえて、天皇への熱烈な愛は、日本人の中に遺伝するように受け継がれているのだと感動したようです。
――ベルツが感じた皇室への無関心から、わずか10年……何が日本人に起きていたのでしょうか?
堀江 明治時代後期には、近代化を急ぎすぎている日本のあり方に疑問を抱く人たちの数が急激に増えました。松江中学は、エリートの男子校ですから、そういうお父さんやお兄さんたちの思想をコピーした学生が多かったのでは。こういう学生にとっての「アイドル」が、日本古来の伝統を体現すると考えられた皇族の方々だったのです。
ただ、ハーンが指摘しているように「天皇への愛は日本人に遺伝している」という仮説も、なかなか正しいのではないか……とも思われてしまいますね。優れた文学者が持つ、特有の直感による言葉ではないか、と。
明治時代以降の天皇制は、日本にもともとあった制度に、ヨーロッパの君主制を真似て、接ぎ木していったものなのですが、その過程の中に、日本人の血の中に眠っていた天皇への愛を目覚めさせるものがあり、それが活性化したまま、現在になるまで傾向が続いているのではないでしょうか。
――しかし、太平洋戦争で日本が敗北すると、皇室人気も低迷したんですよね?
堀江 戦後の天皇家が、国民からの人気を復活させるときに活用したのが、「皇族たちの結婚」という慶事なんですね。現在も、皇族がたの結婚のたびに国民が皇室に熱視線を浴びせるのは、そういう過去があるからかもしれません。
思えば、天皇家の方々に課されたもっとも大事な使命は、皇位の継承なのですが、お子さまの誕生といえば、結婚生活の中で起きることです。ですから、国民から天皇家の結婚に関心が集まるのは当然ともいえるのでしょう。
普段から『皇室アルバム』(TBS系)を見たりする人は多くはないかもしれませんが、結婚というイベント発生時には皇室に注目してしまうのも本能的なものかもしれません。
――次回に続きます。