ジャニーズ事務所創業者・ジャニー喜多川氏(2019年に死去)による未成年タレントへの性加害が、大きな社会問題として各方面に多大な影響を与えている。元ジャニーズの「告発本」「暴露本」といわれる関連書籍にも注目が集まり、サイゾーウーマンでもそれら内容を紹介した記事が連日ランク入りした。
これら暴露本にあたる『ジャニーズのすべて 少年愛の館』(1996年4月、平本淳也著)、『ジャニーズのすべて2 反乱の足跡』(96年6月、同)『SMAPへーそして、すべてのジャニーズタレントへ』(2005年3月、木山将吾)を出版した鹿砦社が10月に『ジャニーズ帝国 60年の興亡』を刊行。ジャニーズ事務所の栄光の歴史と、それを圧倒するあまたのスキャンダルを年表形式でまとめた一冊になっている。
今年8月末、ジャニーズ事務所が設置した「外部専門家による再発防止特別チーム」の会見をきっかけに「マスメディアの沈黙」との言葉が注目を浴びた。ジャニーズ事務所の圧力とマスコミの忖度が一斉に取り沙汰されたが、本書を読むとこれほどまで多くのスキャンダルが矮小化され、もみ消されてきたのかと、衝撃を受けざるを得ない。
特に00年は、「海外メディアがジャニー喜多川の裁判を報道」「国会でジャニーズ性的虐待と指導法が問題に」「森田剛が告訴されたレイプ疑惑」「中居正広の交際相手が中絶を告白」と社会的な問題やビッグスキャンダルが続出した一方で、「『ザ少年倶楽部』放送開始」とある。今の感覚で捉え直すと、なぜこれほどまでの問題を抱えた事務所が、NHKで1社独占ともいえる番組(『ザ少年倶楽部』)をスタートできたのか疑問でならない。もちろん、中居や森田のスキャンダルが大手マスコミで報じられることはなかった。
なお、この「海外メディアの報道」とは、「ニューヨーク・タイムズ」が「陰り始めた、日本のスターメーカー」とのタイトルでジャニーズ事務所が「週刊文春」を相手に起こした名誉毀損裁判を取り上げたことを指す。それから23年が経過し、やはり海外メディア、英国の公共放送「BBC」の報道をきっかけにジャニーズ問題が始まったことを思えば、なぜこのときは日本メディアが完全スルーを決め込んだのかと、やはり疑問符が浮かぶ。しかし、存命中だったジャニー氏とその姉で事務所経営を取り仕切るメリー喜多川氏の影響力がそれほど強大だったともいえるのだろう。
オリキが赤西仁を逮捕から救った?
一方で、ジャニーズファンの記憶の断片を呼び起こす情報が網羅されている点は見逃せない。例えば09年の年表では、「国分太一、恋人の存在を明かす」「NYCboysを結成」といったトピックが紹介されたあと「赤西逮捕の怪情報がメディアに流れる」とある。
「NHKや民放各社、新聞社などが警察に詰めかけ騒然としたが、結局逮捕はなかった。警視庁組織犯罪対策5課により、赤西の張り込みは行われたものの、空振りに終わったということだった」とあらましを説明したあと、「流出した赤西軍団の夜遊びショット」とのキャプションで赤西、山下智久、錦戸亮の写真を掲載。盛り場で上機嫌な表情を浮かべる3人の顔に、赤西軍団の全盛期を思い出すファンもいるだろう。
なお、逮捕が空振りに終わった理由として「以前、オリキの女性が赤西を尾行していた捜査員を見つけ、ジャニーズ事務所に報告していたため、警戒した事務所が赤西に注意を促して逮捕を免れたといわれる」との一文も。数々の伝説を残しているKAT-TUNのオリキがここでも暗躍していたのかと思わずニンマリしてしまった。
ほかにも、10年、近藤真彦がジャニーズタレントが加害者となった交通事故が相次いだことに怒り、タレント全員に運転禁止を命じたとの情報も。錦戸亮(当時NEWS、関ジャニ∞)、長野博(当時V6)、松本潤(嵐)、手越祐也(当時NEWS)、渋谷すばる(当時関ジャニ∞)、二宮和也(嵐)がそれぞれ何月何日にどこでどんな事故を起こしたのかまで詳細につづられており、ここまで徹底して網羅するのかと感嘆してしまう。
ジャニーズに関する貴重な資料も収録
驚くべきは本書に収められた数々の資料だ。貴重な「週刊文春」裁判録をはじめ、公判を伝えた数少ないスポーツ紙の紙面を写真で掲載。1964年に初めて行われた「ジャニーズをめぐる“同性愛”裁判」を報じる「女性自身」(光文社)の誌面も写真で公開している。また00年の国会議事録「国会で議論されたジャニーズの児童虐待問題」も16ページにわたって収録。これらは後年、資料としてさらに重宝されることだろう。
ほかにも、「ジャニーズホモセクハラ裁判1――知られざる暗闇」の章では「芸能界に巣くうパラサイト弁護士」としてジャニーズ事務所の顧問弁護士、矢田次男氏について詳らかにしている。
同氏はジャニーズの前にバーニングプロダクションの顧問弁護士を務めていた、いわば“裏のドン”。ジャニーズスキャンダルの背後には矢田氏が控えていると言え、「文春」の裁判をはじめ、稲垣吾郎の道交法違反等や森田のレイプ事件などでも「華々しい活躍」をみせたという。また、稲垣の謝罪会見では、本人の「隣に座り記者たちにニラミを利かせていた」そうだ。
しかし、不思議なのは今回のジャニーズ問題の会見には一切姿を見せていないこと。事務所の最古参スタッフである白波瀬傑元副社長しかり、ジャニーズ事務所の強固な体制を裏で支えてきたメンツが表舞台に出てこない現状において、本書の情報はとても貴重だろう。
ジャニー氏とメリー氏がこの世を去り、前社長の藤島ジュリー景子氏がジャニーズ事務所を去った今、栄光とスキャンダルの両面からこの事務所の歴史を把握している人物は数名か、あるいは皆無かもしれない。それだけに、門外漢の福田淳新社長には、本書がきっと心強い“社史”になることだろう。ジャニーズアイランド社長の井ノ原快彦社長や所属タレントも、自分たちの知らないジャニーズ事務所の姿が本書から見えてくるはずだ。そして言うまでもなく、ジャニーズファンにとってもこれ以上ない良書といえる。
本書は、23年9月7日の記述を最後に終わっている。それから2カ月、すでにジャニーズの名前を失ったこの事務所の行方は、読者一人ひとりに確かめてもらいたい。