「子ども同士の付き合い」が前提のママ友という関係は、価値観や環境の違いからさまざまなすれ違いが起きやすい――。ママたちの実体験を元に、ママ友ウォッチャーのライター・池守りぜねが、ママ友トラブルの解決策を考える。
景気低迷、物価高騰が止まらない昨今 、それでも中学受験をはじめとする“教育への投資”は過熱する一方のようだ。2023年首都圏中学入試の「私立・国立中学校の受験者総数」(首都圏模試センター推定)は、前年より1,500名増加の5万2,600名(前年比102.9%)、受験率は17.86%と、いずれも過去最多・最高を記録している。
都内では、小学6年生のクラスの2人に1人が中学受験をする地域もあるという。しかし、中学受験をするママと、公立中に行かせるママとでは、子どもの教育に対する価値観が大きく異なり、それが仲たがいのきっかけになるケースもあるようだ 。今回は、中学受験に励むお母さんが抱える“葛藤”を取り上げる。
保育園時代からのママ友に中学受験することをどう思われているか……
優子さん(仮名・42歳)は、都内で11歳になる英恵ちゃん(仮名)の子育てをしている。彼女は関東出身だが、高校まで地元で過ごし、大学入学を機に上京してきた。
「私の地元は首都圏ではあるものの、当時は女子が都内の有名大学に進学するというケースはそこまで多くなかった。 県内で2番目に学力の高い高校に入学し、3年間必死で勉強に励んで都内の有名 大学に合格した時は、本当にうれしかったですね。反対に、夫は中学から大学附属校に通い、勉強一色になることなく青春を謳歌して 、有名大学に進学。その話を聞いてから、私は娘に中学受験させて、ゆとりある中高6年間を過ごしてもらいたいと思うようになりました」
娘の保育園時代からのママ友である聡美さん(仮名・41歳)は、子どものお稽古事で毎週顔を合わせる仲。聡美さんの娘の明日香ちゃん(仮名・11歳)と英恵ちゃんは、同じ水泳教室に6歳の頃から通っている。
「明日香ちゃんは体を動かすのが得意で、うちの娘より上のコースに所属しています。水泳以外にも地元のミニバスケットボール教室に通っていて、まさにスポーツ少女なんです。娘は水泳こそ好きなんですが、スポーツ全般はそこまで……という感じ。共通の趣味があるわけではないものの、2人ともとっても仲良し。 聡美さんとは、かわりばんごで水泳教室の送迎を行うなど 、長年家族ぐるみの付き合いを続けています」
英恵ちゃんが小5になったタイミングで大手進学塾に通うようになると、お稽古に行けなくなる日が増えたという。
「水泳教室は土曜日なのですが、塾のテストなどと重なるとお休みするように。振替のクラスを受けたくても、平日は週3日、塾の授業があるため、水泳教室を辞めようかと考え始めています。明日香ちゃんは地元の公立中に進学予定なので、前と変わらず水泳教室に通っているのですが、 娘は『明日香ちゃんに会いたいから』という理由で、お稽古を辞めたくないというんです。とはいえ、小6になる前には辞めさせないと……と思っています 」
優子さんが住んでいる地域は、だいたい3人に1人が中学受験をするといい、成績優秀な子や、二世帯住宅に住む裕福な家庭の子が目立つそうだ。
「私はパートで事務の仕事をしていますが、普通のサラリーマン家庭から塾の代金や私立の授業料を払うとなると大変なため、中学受験が済んだら正社員で働けるところを探そうと思っています。そういう家庭の事情も知っているせいなのか、聡美さんから『最近、働きすぎで忙しそうだけれど、大丈夫?』と聞かれてしまい……『無理して私立に行かせようとしているって思われているのかな?』とドキリとしました」
そんなある日、優子さんは英恵ちゃんからある気になる話を聞いたという。
「英恵は塾のテストのために水泳教室を休んだ次の週、水泳の進級テストに落ちてしまったんです。ちょうどその時、聡美さんに迎えを頼んでいたのですが、英恵は彼女に『勉強ばかりで疲れているんじゃないの?』と聞かれ、『毎日夜の10時くらいまで勉強しているよ』と答えたというんです。それで驚いた聡美さんから『子どもが夜10時まで勉強するなんて異常だよ。大丈夫? かわいそうでしょうがない』みたいなことを言われたと……」
優子さんはその話を聞いて、塾通いを始めた時に聡美さんから言われた一言を思い出したそうだ。
「保護者会の帰りに、何気なく聡美さんが、『小学生のうちから勉強ばかりしなくてもいいのにね』とつぶやいたんです。これがきっと、聡美さんの本心でしょうね。彼女は『子どもはのびのび育てたい』っていうタイプなんですよ 」
優子さんは聡美さんの「異常」という一言が気になり、その後、水泳教室の送迎は自分で行い、「今はなんとなく距離を取っている」という。
「聡美さんが英恵に『大丈夫?』と聞いたのは、忙しいのを気遣ってのことだと思いますし、『ストレスが溜まってるかもしれないから、愚痴を言わせてあげたい』と考えたのかもしれません。 それに私に対しては、『今日は塾だったよね。英恵ちゃん勉強頑張ってるね』とか『親も大変だね』と励ましてくれることもあります。でも内心では、中学受験をさせる私のことを批判しているのかな と気になってしまって。公立組の親からすると、中学受験は親のエゴに見えるのかもしれないですね」
近年、中学受験者は右肩上がりだが、全体的に見れば、受験する家庭はまだまだ少数派。子どもの頃はのびのび過ごさせたいと考える家庭のほうが多いというのが実情だ。
よく中学受験を考えているママたちの間で聞かれるのが、「中学受験をすること自体、周りには言わない」というケース。子どもの学力から進学先の詮索をされたり、勉強時間などに口出しされるなど、嫌な思いをすることがあるため、 「言わない」という選択は賢明だと思う。
しかし今回のように、長年家族ぐるみの付き合いを続け、 お稽古事も一緒というママ友に、中学受験を隠し続けるのは不可能。とはいえ、中学受験しない家庭のママ友には、やはり理解しがたい面があるだけに、 中学受験や塾の話題は自分からは振らない――こちらからは情報を与えないようにするのが、余計なことを言われないためには必要な心得だ。
それでも子ども同士で仲が良いと、知らず知らずのうちに受験や塾の話も伝わってしまうかもしれない。完全に情報をシャットダウンすることはできないが、子どもにも「中学受験をしない子には塾や受験の話はしない」と徹底しておくべきだろう。
受験が終わると、公立に進学するママ友から、子どもの進学先の詮索が始まるという話も聞く。中学受験を経験しないママ友から、進学先について「聞いたことがない学校」 という心無い言葉を投げかけられたというケースも珍しくない。
中学受験は、家庭の教育方針や経済力にも関わってくるセンシティブな話。まだまだ少数派である受験組のママのほうが、気を使わなければならない話題なのかもしれない。