“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)
そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。
お歳暮は昭和の主婦の常識?
お歳暮シーズンだ。突然ですが皆さま、お歳暮は贈っていますか?
といっても、親がお世話になっている医療機関や施設、デイサービス、ヘルパーさんなどへのお歳暮の話。虚礼廃止の声を聞くようになって久しい。さらに最近の物価高騰も相まって、親戚や仕事関係へのお歳暮をなくしたり、価格を抑えたりする方向にあるのは止められない流れだろう。
ましてや、医療機関や施設には「謝礼などは固くお断りします」という書面が掲示してあるし。……と馬鹿正直にそれらを額面どおりに受け取っていたら、実は何もやっていないのはウチだけだった、なんてことにもなりかねない。いや、相手はプロだ。それで明らかに親への待遇が違ったり、医療や介護に手を抜いたり、なんてことはさすがにないだろうと信じている。信じたい。
などと考えてしまったのも、「義母が老人ホームに入り一安心?」で登場してくださった峰まゆみさん(仮名・63)や、「車いす生活になった母」の春木美弥子さん(仮名・62)が口をそろえて、「お世話になっている介護関係者や医療機関の人には、お中元、お歳暮は欠かせません」と言ったからだ。
峰さんはこぼす。
「コロナから回復して以来、物欲のカタマリになった義母からはしょっちゅう『あそこの店のナントカというお菓子を買ってきて』『あのブランドの服がほしい』などと注文が来ます。同じホームの友達からお菓子をもらうとお返しをしないわけにはいかないと言って、入居者同士、半分は見栄でお菓子を交換し合っているんです。私はこんなお菓子を差し入れてくれる人がいて、愛されている、ってアピールしたい気持ちもあるんでしょう。服もそうです。お友達が着ているブランドの服に対抗しているんです。そのくせ、気に入らなかったと言って、私に返すんですよ。気に入らなかったのなら、いちいち私に言わないで処分すればいいのに」
峰さん、相当たまっているようだ。
話を元に戻そう。そんなわけで、峰さんの義母にとって「施設の職員にお中元やお歳暮をしないなんて考えられない」という。
これで虐待はされないだろう
「昔の人ですからね。お付き合いが派手だった時代に主婦をやってきた人だから、義父がある程度まで出世したのも、自分が細やかな気配りをして、上司や付き合いのある関係者にお中元、お歳暮を欠かしてこなかったからだ、って自慢してました。まあ、100分の1くらいは貢献したのかもしれませんけど。毎年、どこの何を贈るかには知恵を絞ってたみたいですよ。そんな義母に『虚礼廃止』とか言っても通じるわけがありません」
と、はなから諦めムードだ。
介護主任、担当介護職員、看護師など要所要所には商品券、あとは事務所に指定した銘柄、しかもデパートの包み紙の菓子折りを届けるのだという。
「毎回他の人がいないところで、そっと渡すのは大変です。だから、ポケットに忍ばせやすい商品券にしているんです」
意外なことに、「謝礼はお断りします」という張り紙があっても、いったんは遠慮するポーズを取りながらも、必ず全員が受け取るのだそうだ。
「義母に報告すると、『そりゃそうよ』と。それでこれからの半年は安心して暮らせるみたいです。施設での虐待などのニュースを聞くたびに、『うちのホームは大丈夫かしら』と不安になるけれど、少なくともお中元やお歳暮を渡していれば虐待はされないだろうと、それは私も思いますね」
確かに、介護職員も人の子。毎年2回、心づけをもらって嫌な気持ちになるわけはないだろう。だからといって、何も渡さない入居者の待遇と差を付けられるのは論外なのだが。