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中学受験、偏差値35の私立中から慶應大学合格も……「ゆる受験」成功の女性が後悔するワケ

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 世相にトレンドがあるように、中学受験にも流行があり、最近では「ゆる受験」なるワードが出現し、ブームになっている。

 このゆる受験は文字通り、「比較的ゆるい対策でも合格できる受験」という意味。具体的には、「勉強期間1~2年で、難関校を狙わず、無理をしない受験」のことを指す(ちなみに、中学受験は本格的な勉強期間に3年以上を費やすことがスタンダードである)。

 中学受験は、年端も行かぬ小学生に過酷な勉強を強いて、わが子から大切な子ども時代を奪っているという批判がつきもの。それだけに、ゆる受験は、今までのシステムを「良し」としない層から支持され、近年、急速に広まった感がある。

 しかし、親というものはどこまでも欲深い。そこには、現段階では偏差値が高いとはいえない学校だとしても、将来、わが子が「化ける学校」に行かせたいという思惑が見え隠れしている。

 「化ける学校」というのは、入学時の偏差値に比べ、圧倒的に大学進学実績が良い中高一貫校のこと。これを「お買い得校」と呼ぶ人も多くいる。

 この「ゆる受験をしてお買い得校に行き、難関大学に行かせたいと願う層」が増えていることも、昨今の中学受験ブームの背景にあるような気がする。

 実際に筆者のもとには、志望校選びに関する相談がよく入るのだが、「本当は率直に『お買い得校を教えてくれ』と言いたいのだろうな」という問い合わせも少なくない。しかし、仮にお買い得校があったとして、そこを卒業した子どもがその後どうなったかまでを知るのは非常に困難だと言わざるを得ない。

 ほとんどの学校では、高校3年生(あるいは浪人生)の進路までは把握しているが、大学を出た後の詳細な統計の持ち合わせがないのが普通だからだ(例外として、一部の女子校に存在しているのは目にしたことがある)。

 ここでは、ゆる受験をした梨々花さん(仮名 28歳)のケースをご紹介しよう。

 梨々花さんの両親は、彼女いわく「公立高校からの四流私大出身」。親戚たちにも中学受験経験者はいない家庭環境だったという。

「受験塾に行き出したのは私が小学6年生の夏。突然、親に塾に突っ込まれたんです。多分、クラスが学級崩壊になったから、地元の公立中を避け、私立中に進学させようと思ったんでしょう。国語と算数の2科受験でしたが、偏差値はずっと30台だったので、上位校はとても無理。結局、制服が可愛いという理由で偏差値が35の〇女子学園に入りました」

 現在、〇女子学園は共学校で、まったく別の学校になっているのだが、当時はAO入試をはじめとする大学の推薦入試に熱心で、“入口”偏差値に比べて、“出口”である大学合格実績が良いことで知られていた。

 推薦入試の中でも指定校推薦や公募推薦入試は、成績(評定)の基準があり、学校が「保証した生徒」であることが普通。しかし、梨々花さんが在学していた頃のAO入試は学業成績基準を設けない大学が多かった。AO入試は合格に導く経験豊富な指導者のもとで計画的に進めれば、たとえ低偏差値と呼ばれる高校からでも、結果を出しやすい受験方法とされたため、〇女子学園のように、AO入試で難関大学に生徒を入れることに尽力していた学校もあったのだ。

「私自身はAO狙いで中高時代を過ごしていたわけではないのですが、ボランティア部を立ち上げて活動している様子をテレビで放映される機会があったり、担任の先生の指導で、文芸コンクールに入賞したこともあって、『AOに挑戦すべき』というような流れになった次第です。多分、大学側に提出する調査書も“お手盛り”的に上乗せされていたと思います」

 充実した中高時代を過ごした梨々花さんは見事にAO受験で慶応義塾大学に進学。大学生活ではサークルにバイトにという楽しい毎日を過ごしたという。

 ところが、梨々花さんによると、「人生は甘くない」らしい。彼女は、就活でことごとく不採用になってしまったのだ。

「採用選考の適性検査であるSPIではねられてしまうんです。私は数学も算数も超苦手で、中学受験の時も国語の成績だけで受かったようなもの。〇女子学園は授業も本当にぬるくて、しかも高1から文系志望だったので、数学には触れずにこれました。その報いですかね……SPIで出る損益算や場合の数などは、恥ずかしいほどにお手上げ。やっぱり、キチンと受験勉強をして、中高としっかり勉学に励んできた人には敵わないんだなぁって思いました」

 周りの子たちは簡単に解ける問題なのに、自分はまったく太刀打ちできない――梨々花さんは自信を失くし、面接にすらたどり着けなかった数社の不採用を受けて、就活を断念したそうだ。

「ショックでした。慶應の同期は当然ですが、一般入試であまり名前も聞かないような大学に行った高校時代の友人たちが、就活に成功している様子を見聞きしているうちに家から出られなくなりました。結局、大学は卒業だけはしたんですが、新卒採用は無理で今に至ります」

 現在、梨々花さんはいくつかのバイトを経て、派遣社員として食品工場で働いているというが、最終学歴は周囲に知られないようにしているそうだ。

 もちろん、梨々花さんの就活失敗の原因が「SPIの計算問題」のせいとは限らない。それゆえ、これを、算数をほとんどやらなかったゆる受験の弊害とまでは決め付けられないが、梨々花さんには、きちんと中学受験に向き合ってこなかった結果だという思いがあるようだった。

 ため息をつきながら、梨々花さんはこう漏らす。

「もし、時間を巻き戻せるならば、中学受験を3年間かけて、じっくりやってみたいです。大学の同期を見ていて、やっぱり中学受験で学力を高めてきた人のほうが、いろんな面で結果がいいですから」

 近年の総合型選抜(旧AO入試)では、大学入学共通テストを受験し、各大学が定める一定の成績を取ることが前提である場合が多い。しかし受験生の入学意思や個性を重視していることには変わりない。

 また、企業も「答えのない時代」に突入したことから、「自分で考えて行動できる人」である「自立型人材」を欲しているといわれているが、大学側もそれを受けるような形で、より意欲的な学生を選ぼうという方向にシフトしている。つまり、今後は学力を担保した上で、総合型選抜を突破した学生が大学入試で主流になっていくということだ。

 一方、中学受験という側面から見るならば、無理をしないで手が届く中高一貫校を狙うゆる受験は、今後も増え続けると予測する識者は多い。しかし、梨々花さんのように、ゆる受験を後悔しているケースもあるということは意外と知られていない事実ではないだろうか。

 梨々花さんは、「楽な道が子どもにとって本当にいいとは限らない。この先、子どもが生まれたら、少なくとも義務教育の勉強は満遍なくやらせようと思っている」そうだ。

 現実的には、どこの大学に入るかよりも、学生時代に何をどう学んだのかが問われている現代社会。中高一貫校から難関大学に受かっても、未来の保証はあってないようなもの。親にとっては、わが子の教育問題にますます悩まされる時代を迎えているのかもしれない。

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