• 日. 12月 22nd, 2024

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明日あなたが被害にあうかもしれない

闇金の債務者が“ヤクザ”投入? 電話をかけてきた「名古屋のオマタ」の正体

 こんにちは、元闇金事務員、自称「元闇金おばさん」のるり子です。今回は、担保車両の売却決済時に登場したエセヤクザについて、お話ししたいと思います。

「伊東部長、ブレイズインターナショナルさんの印鑑証明、残り半月です。今月分の金利と車庫代も入っていません」
「ああ、わかっている。車内は禁煙で飲食禁止、ペットも入れるなとか、いろいろうるさい神経質な客でさ。ずいぶん大事にしている感じだけど、約束を守れないなら仕方ないよな。そろそろ詰めるか」

 印鑑証明の期日管理は、私の仕事。基本的には3カ月ごとの徴求が原則ですが、正規品(名変可能な車のこと)の車両を担保にしている利用者については、売却決済時の名義変更に支障が出るため2カ月ごとに徴求しなければなりません。

 ブレイズインターナショナルに対しては、月3分の金利のほか毎月の車庫代3万円を支払う約束で200万円の貸付があり、会社名義であるBMW5シリーズの真っ赤なワゴンを担保に預かっていました。印鑑証明のほか、金利と車庫代の支払いも半月ほど遅れているため、その社名は遅延客として白板に大きく赤字で書かれています。

 早速に、スピーカー機能をオンにしてブレイズインターナショナルの荻野社長に電話をかけた伊東部長は、相手が応答すると同時に言いました。

「社長、いまどこにいるのよ? 金利と車庫代は半月も遅れているし、印鑑証明も切れちゃうから、もう売却決済してもらえって上から言われちゃってさ。それで大丈夫?」
「ちょっと待ってください。本当にごめんなさい。大事な車なので、絶対に売らないで!  600万円で買った車を、たった200万円で流されちゃあ、かなわないですよ」
「じゃあ、今日いっぱい待ってあげるから、9万円と印鑑証明を持ってきてよ。何時に来ます?」
「いや、すみません。いま地方にいて、どうしても明日になっちゃうんですけど……」

 明日の午後3時までに必ず来社するという荻野社長に、これが最後だと告げて電話を切った伊東部長は、念のために担保車の評価を再確認するよう藤原さんに命じました。

「走行距離も少なめだし、まだ3年落ちで車検の残もあるから、280(万円)は固いです。きれいな車だって、査定業者が褒めていました」
「きれいだったろう? 色が赤じゃなければ、オレが買いたいくらいだよ」
「確かに。やっぱり、白か黒がいいですよね。取り(買取価格のこと)も高いし」

 利息や車庫代の支払いが止まれば、その客と付き合う利益はなくなるため、車の評価が高いうちに売却して債権額以上の回収を図ります。

 利用者からすれば、到底納得のいく金額ではないでしょうが、名変書類一式を預けているので止める術はありません。車の相場に疎い客には、何年も利息と車庫代を払わせながらも、さして変わらぬ評価に落ちたことにして内入れさせ、頃合いをみて因縁をつけて高額で売却する事例もありました。印鑑証明が届かなかった、車が盗まれたなど、適当な理由をつければ、いつでも好きな時に売却できるのです。

「わしは、ブレイズインターナショナルの荻野さんの代理人でな。名古屋のオマタっちゅうもんやけど、伊東部長さんはおられるかの?」

 翌日、3時を過ぎても荻野社長は現れず、その代わりに代理人を名乗る「名古屋のオマタ」という男性から連絡が入りました。ダミ声で脅すように話してくるので、普通の人ではなさそうです。そのことを伝えてから電話をつなぐと、スピーカーをオンにして応答した伊東部長に対して、電話口のオマタは先ほどと同じように自己紹介を始めました。

「代理人って、オマタさんは弁護士ですか? 荻野社長は、どうしたの?」
「名古屋のオマタじゃ。それでわかるやろ。荻野はウチで面倒見ている奴でのぉ。おたくに詰められてるって、泣き入れてきてるんよ。車の件、ちょっと待ってやってくれんか」

 周囲で聞く社員のみんなは、どこか芝居がかったオマタさんの口調がツボに入ったようで、小バカにするようにクスクスと笑っています。

「もしかして、看板の話をされています? ○×会のオマタさんってことで、よろしいですか?」
「おお、そういうこっちゃ。わかるやろ」
「そういう話なら、折り返しますね。少々お待ちください」
「わしは気が長いほうじゃないけん、はよしてな」

 先方の電話番号を確認して電話を切った伊東部長に、傍らで通話を聞いていた強面営業社員の藤原さんが言いました。

「部長、〇×会なら、自分の先輩が本部にいます。聞いてみましょうか?」
「そうか、頼む。こういう時、いつも君は頼りになるよな」

 どこか得意気な表情で先輩に連絡を入れた藤原さんが、名古屋の〇×会本部にオマタという人物がいるかと在籍を確認したところ、思いがけない回答が飛び出します。

「オマタという奴は、組織に一人もいないそうです。語り屋(関係ないのに組織の名前を勝手に使う人のこと)なら連れて来てほしいといわれました。どうしましょう?」
「面白そうだな。呼び出して、会わせてみるか」
「先輩、かなり怒っていらしたから、きつく締められちゃうと思いますよ。めちゃくちゃな人なんで、なにするかわからないです」
「そうか。殺されたりしたら面倒だから、とりあえず本人に伝えてみよう」

 あらためて名古屋のオマタさんに電話をかけると、社内にいる全員が伊東部長の周囲に集まって、その通話に聞き耳を立てます。電話の前で待ち構えていたのか、1回目のコールが鳴り終わらないうちに応答されると、伊東部長が開口一番に言いました。

「あらためて確認なんですけど、オマタさん、〇×会の方で間違いないですよね?」
「おお、なんか文句あるんか?」
「こちらも本部の方と付き合いがありましてね。確認させていただいたところ、オマタという者はいない、ウチの看板を使っているなら連れて来てくれと言われてしまいまして」
「え? 本部にお知り合いがおられるんですか? 誤解を招くようなことを言いまして、申し訳ございません。看板を使うなんて、そんなつもりじゃないんです」

 態度一転、ひどく狼狽したオマタさんは、声のトーンを上げて謝罪の言葉を述べました。その声は震えており、続けて現在の居場所を尋ねられるも、「勘弁してください」と繰り返すばかりです。

「もう車は好きにしていただいて構いませんので、先程のことはご放念ください。申し訳ありませんでした!」

 結局、逃げるように電話を切られて、本件は終了。その後、荻野社長や名古屋のオマタさんから連絡が入ることもなく、担保の真っ赤なBMWは金田社長の奥様が乗ることになりました。客の整備工場で点検させ、社員の手により入念な洗車が施された後、極めて万全な状態で引き渡された次第です。

※本記事は事実をもとに再構成しています

(著=るり子、監修=伊東ゆう)

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