歴史エッセイストの堀江宏樹さんに、全7回で上皇陛下の長女である黒田清子さんをめぐるお話をお聞きします。最終回の今回は、サラリーマンとの結婚式や、庶民としての生活ぶりを追います。
――前回までで、黒田慶樹さんとのご結婚にいたるまでの紀宮さま関連の記事を拾い読みしてきました。ご結婚後も、定期的に紀宮さまのお写真と記事が週刊誌には掲載されています。
堀江宏樹氏(以下、堀江) それというのも、黒田清子さん=紀宮さまを慕う方が多いのでしょう。清子さんは、現在においても、いにしえから伝わる宮廷文化に通じた「皇女」であり、未来に向けて開放されていく「新しい女性」としての横顔もお持ちであるとお見受けします。だからこそ、清子さんの近況を報じたニュースに国民の関心が集まるのでしょうね。
――「紀宮との結婚式は驚きの連続」という「週刊現代」(2005年12月3日号)に、黒田さんの親戚の談話として、興味深い記事を見つけました。
堀江 お二人の結婚式の数日前に宮内庁から、モーニングをまとい、威儀を正した侍従が黒田家の親戚筋の家にやってきて、羊羹と、「黒い」水引が付いた熨斗袋を届けてくれたそうです。黒い水引は一般的には葬儀などで使うので驚いて、宮内庁の関係者に確認したところ、これは黒ではなく、「濃い紅」であると教えられたという内容ですね。
これで思い出したのが、孝明天皇の異母妹として、幕末の江戸城・大奥に嫁いだ和宮の袴の色が、黒だと見間違えてしまうような濃い赤色で、通称「カチン色」だったという逸話です(『三田村鳶魚全集 第3巻』)。
「カチン色」とは「勝ち色」が鈍った呼び方で、どんな色の上から塗っても、負けることはない、インパクトのある色というような意味から派生した呼び名です。宮中だけでなく、武士たちもこの色で、装束を喜んで染めていたという記録もあるようですね(久保田米僊ほか『美感新論』)。こうした伝統と、皇室の祝儀用の水引は関係しているのかもしれません。
一般的には衰えてしまった色味を用いたご祝儀の習慣も、宮中にはいまだに息づいているという興味深い逸話ですね。ちなみに、熨斗袋の中身は5000円で、袋には「御肴料(おまなりょう)」と書かれ、これは縁戚になる相手へのご挨拶のかわりになるものだそうです。
――庶民には知り得ない伝統でした。帝国ホテルで行われた紀宮さまの結婚式は神前式だったのですね。
堀江 皇室の結婚式としては、まず「神前式」になるのではないでしょうか。明治33年(1900年)に、明治天皇の皇太子・嘉仁親王(後の大正天皇)が、神前式で九条節子さん(後の貞明皇后)との結婚式を行ったことがニュースになりました。すると、それまで一般的だった自宅の座敷に親戚や関係者を招き、数日にわたって宴会をくりひろげる「人前式(じんぜんしき)」よりも、短い時間で、スッキリと終わる神前式のほうが「クールでかっこいい!」という評判が庶民の間でも生まれ、次第に普及していった……という背景もあります。
――明治時代以前の日本人には宗教と結婚の儀式を結びつける習慣が薄かったと聞いたこともあります。
堀江 いちおう自宅での「人前式」でも、座敷で行う以上、床の間があるはずです。新郎新婦の背後には金屏風をはさんで、「天照皇大神」など神さまのお名前(御神号)が書かれた掛け軸がかけられていたケースも多いのでは。ですから、明治時代以前の日本で、宗教と結婚式の関係が薄かったとはいえません。
しかし、厳かな宗教性が薄かったことは事実で、明治になってから、神道の関係者が、キリスト教徒たちが教会の祭壇の前で愛を誓い合う姿を見て影響され、神社においての神前式がプロデュースされていったと考えてよさそうです。ちなみに黒田さんの親戚の証言によると、神棚に向かって右側が天皇家、左側が黒田家の席だったそうです。
新居は1億3000万円ほどのマンション、スーパーで買い物!
――お二人の新婚生活も興味深いです。「女性自身」(2006年7月4日)の記事によると、「110平米・3LDK億ション」で生活が始まりました。清子さんは「一時金」として支給された1億5000万円をもって黒田家に嫁いだものの、1億3000万円ほどのマンションの頭金として8000万を投入。黒田さんも頭金として1000万を出したので、残り3000万円を都市銀行でローンを組んで、黒田さんの名義で払っているそうです。マンションの所有権は共同名義で、3分の2が清子さん、3分の1が黒田さんだとか……月々のローン支払いは、自家用車とマンションの両方で13万2,000円。
堀江 どこからその具体的すぎる数字を手に入れたのでしょうね(笑)。マンションの位置は学習院大にほど近い場所、そして清子さんが朝早くから通っているスーパーは、「目白通り沿いの小さなスーパー」。
ノーメイクの清子さんはSPを連れて現れるものの、「メロンパン(140円)、クロワッサン(160円)、クランベリーショコラ(200円)」といった菓子パンや生鮮食品をレジで買うと、ご自分でエコバックにささっと詰めて、帰っていかれるのだとか。
――そのあたりに、ちょっとだけ土地勘があるのですが、ピーコックかOKストアでしょうか。同じスーパーを使っていたと思うと、ちょっとうれしいです(笑)。
堀江 この記事、面白いですね。清子さんがアニメ映画『風の谷のナウシカ』ファンだったのは初めて知りました。あと、お兄さまの天皇陛下や、秋篠宮さまのことを「兄貴」と呼んでおられるみたいですね。しかもお酒が秋篠宮さまよりもお強いとか、お酒を飲んでも顔が赤くならないとか、何気ないエピソードの数々には、ほっこりしてしまいましたね。
――私は、女友だちとの会話では聞き役にまわりつつも、ユーモアを忘れない清子さんの姿勢に惹かれました。「内親王が入れたお茶よ」といってお茶を入れてくれたり、本当にお優しいんですね。運動神経抜群という情報には驚いてしまいました。
堀江 最近の清子さんの活動として、伊勢神宮での祭祀に神宮祭主としてご奉仕なさるなど、多忙な日々を送られていますね。ご結婚によって皇室から民間に嫁いだ(元)皇女が、皇室の祭祀に携わることも前例がなかったことですが、現在でも、お名前どおり、少女のような清らかさの清子さんにしかできないお仕事であると感じます。これからも自然体で、さまざまな常識を覆していっていただきたいものです。