• 日. 12月 22nd, 2024

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大谷翔平の通訳・水原一平氏が告白「ギャンブル依存症」とは? やってはいけない支援は「お金を貸すこと」

 米ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平の通訳・水原一平氏が、違法賭博問題により、同球団から解雇された。水原氏は、大谷の口座から違法なブックメーカー(賭け屋)に450万ドル(約6億8000万円)を送金していたという。

 水原氏は解雇前、チームメイトに「私はギャンブル依存症」と告白したと伝えられているが、そもそもどんな病気なのだろうか。

 日本において、ギャンブル依存症の治療は2020年4月から公的医療保険が適用されているが、サイゾーウーマンではその直前に、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表で、『祖父・父・夫がギャンブル依存症!三代目ギャン妻の物語』(高文研)の著書があり、自身も同依存症だった田中紀子氏にインタビューを行っていた。

 水原氏の違法賭博問題が取り沙汰される今、あらためてギャンブル依存症の実態について考えるため、同記事を再掲する。


ギャンブル依存症は「普通」すぎて気付かない――見えにくい「犯罪率の高さ」と「嘘まみれ」の実態

目次

そもそもどこからが依存症?
ほかの依存症との違いは「犯罪率」「嘘」
ギャンブル依存症によくある誤解とは?
ギャンブル依存者へ絶対にやってはいけないこと
「愛好家」と「依存症」の境界線とは?
子どもは依存症になるリスクが高い

そもそもどこからが依存症?

――ギャンブルや、お酒などほかの依存対象でもそうですが、そもそもどこからが「依存症」なんでしょうか?

田中紀子氏(以下、田中) 依存はガンみたいに「ガン細胞が発生しました」ではないですからね。きっぱりとしたボーダーラインがあるわけではないんです。本人の中で、なにか行動するときの優先順位のトップにギャンブルが来ているような状況や、家族や友人や同僚といった、周りの人が困っているのだったら、それはもう依存症といえるのではないでしょうか。

――家族だけでなく、友達や同僚に対しても迷惑をかけるのですか?

田中 ギャンブル依存の場合、友達や同僚からお金を借りまくってしまう人もいます。よくあるのは同僚のロッカーからモノを盗んだり。会社の印紙とか切手を盗んだりとか。経費を水増し請求したり。学生だと友達同士でトラブっちゃったりするんですよ。学生ローンなんて、あまり借りられないですから、友人からお金を借りてしまい、返済できないから顔を合わせづらく、大学にも行けなくなってしまう。そして大学も中退せざるを得なくなる。

――大学生がギャンブル依存になるんですか?

田中 大学生には多いですよ。パチンコは18歳からできますよね。競馬は20歳以上であれば大学生からできます。大学側もギャンブル依存のことには無知なため、どこの大学にも「競馬サークル」があったりしますから。大学生もタレントの出てくるCMを見て、気楽な「レジャー」感覚で足を運ぶんです。

――ギャンブル依存症の人は、国内にどのくらいいるのでしょうか。

田中 厚生労働省による2014年の調査では、ギャンブル依存の有病率は成人男性8.8%、成人女性は1.6%という数値が出ています。男性は約9人に1人。なので、依存当事者はまったく普通のサラリーマンですよ。「ギャンブル依存」と聞くと、特にギャンブルに縁のない人ほど、ホームレスのような人を想像しがちですが、そんなことはなく、何の問題もないように見える「普通」の人たちが依存を抱えて生きているんです。

ほかの依存症との違いは「犯罪率」「嘘」

――依存症はギャンブル以外にも、アルコールや薬物などもあります。ギャンブル依存ならではの特徴はなんでしょうか?

田中 もちろん、どの依存も根っこでつながっているところはあります。ただ、他者を巻き込む「被害者ありき」という意味では、ギャンブル依存はピカイチだと思います。

 例えばアルコール依存症の場合は体を壊すので、そこで治療につなげるチャンスがあります。でもギャンブル依存は健康を損なうわけではないので、体はピンピンしている。ギャンブル依存症の人間が行き詰まるのは、体ではなく「お金」です。

――そして消費者金融やカードローンに手を出していくんですね。

田中 そうなると家族に嘘をつき続けないといけないわけです。私もそうでしたが、ギャンブル依存症の夫を持つ妻は、みんな「夫に嘘をつかれたことが一番つらかった」と言いますね。私も、嘘をつく夫が二重人格に見えてしまいました。

 でもその嘘はギャンブル依存症という「病気」が言わせているんだとわかってからは、ちょっと楽になりました。愛とは関係ないんです。妻や子どもを愛しているギャンブラーもいます。結核になったら咳が出るのと一緒で、ギャンブル依存症になったら嘘をつくんです。そこを理解することで、何より当事者の家族の人たちが楽になれると思います。

――ギャンブル依存と嘘って、そんなにワンセットなんですね。

田中 ワンセットですよ! 自身の限界を超えた金を集めるためには、嘘をつくしかないですから。また嘘に加えて、先程お話しましたが、他人のモノを盗んだり、会社のモノを横領したり――となったら、これはもう「犯罪」ですよね。ギャンブル依存は他人に被害を及ぼす犯罪に非常に結びつきやすいです。また、1999年に二人の方が犠牲となった池袋通り魔殺人事件がありましたが、犯人の両親は重度のギャンブル依存で、家庭が崩壊していたとも報じられています。パチンコの駐車場で乳幼児が亡くなる事件も後を絶ちませんが、そうした子どもへの虐待や事件の背景に、ギャンブル依存が関係していることもあります。

ギャンブル依存症によくある誤解とは?

――はた目には「普通」に見える人たちがそうだとすると、周囲は気付かないですよね。

田中 銀行マンのお父さんの退職金を、ギャンブル依存になった子どもが全部使い切ってしまい、結局、ご両親は生活保護を受けているケースがありました。昔の時代の銀行マンですから退職金も高額だったはずです。でも、生活保護を受ける状況になって、ようやく「ギャンブル依存症問題を考える会」へご相談にいらっしゃいました。

――なぜ、そこまで状況を放置してしまうのでしょうか?

田中 自分や身内の問題を誰にも言えないんです。日本に強い「自己責任論」が大きいでしょうね。それに、ギャンブル依存の啓発教育も進んでいません。うちに来る相談でも、自分の子どもや夫がギャンブル依存症だと思っていない人が結構いるんですが、根拠は「だって、うちの夫や子どもは仕事してるんですよ?」なんです。「うちの子どもは仕事をしていますから、依存症というほどではないと思うんですけれどもね。まあ、ギャンブルの借金は1000万ありますけど」、みたいな相談があったりしますよ。

――田中さんに相談される方は、ギャンブル依存の当事者の親が一番多いんですか?

田中 親と奥さんが半々ぐらいですね。「100万から500万の借金の尻拭いをして気づいた」という方が多いです。以前は、相談に来るまで時間がもっとかかっていたんです。その頃は、親が金持ちでしたから、食い尽くすまで時間があった。でも今の50代は、子どもの借金を尻拭いできるほど、お金を持ってないですからね。

ギャンブル依存者へ絶対にやってはいけないこと

――身近にギャンブル依存の人がいた場合、やってはいけない支援はありますか?

田中 お金を貸すことです。絶対に貸してはいけません。「ギャンブル依存者に金は絶対に貸さない」、これは基礎知識として共有したいですね。そもそも、会社員ならクレジットカードなどを使えば、一時しのぎの借金なんてできますよね。にもかかわらず、人にお金を借りようとするということは、カードで借金ができないほどの状況と考えられます。相当ヤバいですよね。そもそも、社会人になってから、友達に「ごめん2万貸して」って言ったことありますか?

――ないですね……。

田中 普通、ないですよね。しかし、借金の肩代わりをしちゃう人は本当に多い。「嘘をつくのがうまいから、つい貸してしまった」とみなさん言うんですが、そもそも貸さなきゃいいんです。

 身近な人からお金を無心されたら、「あなたが抱えているギャンブルの問題について、何も手助けできない。だから、自分で医療施設か相談機関かGA(ギャンブラーズ・アノニマス、匿名で話すことができる自助グループ)に相談へ行きなさい」と言ってください。相手は必死にいろんな嘘をついてきますが、お金は絶対貸してはいけません。

一時の楽しみで済ませられる「愛好家」と「依存症」の境界線とは?

――適切な範囲でギャンブルを楽しめる人もいる一方で、借金まみれの依存症になってしまう人もいる。この二つは何が違うのでしょうか。

田中 ギャンブルだけでなく、アルコールや薬物を摂取すると、脳内からドーパミンと呼ばれる快楽を感じる物質が分泌されます。依存症はドーパミンの機能不全が原因で、段々と耐性ができて量が増えていき、自分ではコントロールができなくなってしまいます。

 では、なぜ適性な範囲で楽しめる人と、依存になってしまう人がいるのか? これはもう、「病気だから」としか言いようがないと思います。同じような食生活をしている家族であったとしても、脳梗塞や脳卒中になる人もいれば、ならない人もいます。うちはガン家系ではなかったんですが、母親はガンになりました。それについて、「母親は何でガンになったんでしょうか?」と言ったところで、わからないですよね。「なんで?」となったとき、その人のパーソナルな部分に原因を求めてしまうんですが、それは違うと思います。誰だって病気になんてなりたくないんですから。

 ギャンブルをはじめ、アルコールや薬物などもそうですが、それらに手を出すと「一部の人たちはドーパミンの機能が不全になる“依存”という病気になってしまう」という点を、啓発するべきだと思うんです。自分が依存症になるとわかって始める人はいませんから。

子どもは依存症になるリスクが高い

田中 とはいえ、依存の発症に関して、明らかなこともあります。依存者は「年齢が若いうちから手を出している」こと、あとは「遺伝的要素を受けやすい」ということです。趣味や気晴らしの範囲で競馬を楽しんでいたお父さんが、レジャー感覚で中学生の子どもを競馬場に連れていき、馬券を買ってやったりしたところ、子どもが一気にギャンブル「依存」までのめり込んでいき、暴力を振るうようになった。さらに親戚に金を無心したり、人が変わったようになってしまい、ものすごく後悔されていた親御さんもいました。年齢は大きな要素です。

――競馬や競艇は人気タレントを起用したCMでレジャー感覚を打ち出していますが、依存まで発展する可能性がある以上、軽い気持ちで人を誘うのは危険ですね。

田中 結局、ギャンブル依存症になる原因はただ一つ、「ギャンブルをやったから」です。ギャンブルをやらなければ、ギャンブル依存には絶対、なりません。ギャンブルをやった人の一部がギャンブル依存症になるリスクがある、ということなんです。それはあなたかもしれないし、あなたの配偶者、子ども、友人、同僚かもしれないし、誰がなるのかはまったくわからないのです。

▼後編はこちら

※2020年2月23日の記事に追記・更新

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