• 日. 12月 22nd, 2024

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有名演歌歌手Aの事務所が、カネを借りまくって消えた!? 闇金社員が週刊誌に暴露したくなった“光景”

 こんにちは、元闇金事務員、自称「闇金おばさん」のるり子です。

 平成初期、バブル経済の崩壊により資金繰りに窮する中小企業経営者が増加し、私の勤める貸金業者「金田総業」は、一気に貸付残高を伸ばしました。株や不動産などの担保貸付を主とする同業者は次々に倒産していきましたが、小口の商工ローン(連帯保証人をつけた上、手形小切手を返済原資とする企業向けの貸付方法のこと)と動産担保、手形割引をメインの商品にしていたため、バブル崩壊の影響を受けることなく業績を伸ばすことができたのです。

 公的機関が金融を引き締めた結果、そんな高利の金は使えないと、これまで頑なに利用を拒絶してきた社長様方が猫なで声を出して融資を依頼してくるようにもなりました。雑誌や電車の車内広告で見かける人が経営する会社や、テレビCMを放送しているほどの企業から申し込みを受けることもあり、そのイメージとは違う資金繰りの実態を目の当たりにするたび、本音と建前の真髄を見た気になったものです。

 今回は、某有名歌手の家族が経営する芸能事務所へ回収に入った時のことについて、お話ししたいと思います。

目次

・演歌歌手の事務所に詐欺疑惑
・演歌歌手Aが金を搾り取られたワケ

そこそこ有名な男性演歌歌手の個人事務所が詐欺を繰り返している?

 ある日の午後、加盟する手形同友会(手形詐欺や偽造小切手などの情報を金融業者間で共有する任意団体)から、数枚のファックスが入りました。その内容は、複数のブローカーが、いくつかの会員業者に対して同様の手形を持ち込んでいるという緊急情報で、詐欺の可能性が高いため情報共有をしておくというものです。

 添付された資料を見れば、先月に新規契約を交わしたばかりである「オフィスT(仮名)」振出の手形面が掲載されており、血の気の引ける思いで伊東部長に報告しました。

「それは、ヤバいな。残高は、いくら?」
「信用で100万です」
「担当は?」
「佐藤さんです」

 手形同友会の出回り情報は、不渡速報に名前が出ることに匹敵するほど重大なこと。契約上、期限の利益喪失事項に該当するため、即時回収の法則が適用されます。

「佐藤君、オフィスTの回収、すぐに入ってくれるか」
「え? なにかありましたか?」
「同友会入りだ。緊急情報で来たから、もう飛んでいるかもしれないぞ」
「同友会入り? あそこの保証人、歌手のAですよ。先月の新規契約時には、ほかの保証はしていないって話でしたけどね」

 直近のヒット曲はないものの、そこそこ有名な男性歌手Aの個人事務所であるオフィスTは、主にコンサートやイベントの企画開催で収入を得ている会社です。その代表はAの実父で、A自身も本契約の連帯保証人に入っていました。なんでもテレアポでひっかけた佐藤さんが、名刺交換に行ったときに芸能向きだと気に入られたそうで、定期的に連絡を入れていたところ、突然に融資の申込を受けたそうです。

「3年近くも勧誘して、ようやく契約できたのに、いきなり同友会とか……。ちょっと信じられないな」
「そうだったんですか。信用情報、取ってみますね」

 小言を言いながら資料を開いた佐藤さんが、スピーカーをオンにしてオフィスTの事務所、自宅、社長の携帯電話を鳴らすも、コールが続くばかりで応答しません。Aの自宅、携帯電話にかけても同様で、まるで状況はつかめませんでした。両者ともに、不動産の所有はないので、本人たちを捕まえて話をするほかない状況といえるでしょう。

「連絡取れないのか? とりあえず現場に行って、どっちかでもいたら、捕まえて連れてこい」

 金田社長の指示を受けた伊東部長が、事務所、社長自宅、連帯保証人とホワイトボードに書き出して、社員の配置を割り振りします。担当の佐藤さんは会社事務所、社長自宅には藤原さん、連帯保証人のところには小田さんと伊東部長が向かわれるそうです。その間に、2人の信用情報を取得してみると、前回の審査時とは違って、ものすごく長いレシートが出てきました。担当の佐藤さんに手渡すと、あきれた様子で部長に報告します。

「Tの奴、ひと月でサラ金6件、250万も摘んでいますね」
「息子のほうも回っているのか?」
「はい、新規6件で400万。大手サラ金を軒並み満額で摘んでいます」
「80代の男相手に250万か。サラ金も、よく出したな。これは夜逃げ資金に違いないぞ。物件もないし、体を取るしかないな」

タニマチの大物親分の女に手を出し、金を搾り取られた演歌歌手A

 営業管理部の皆さんは、回収に入る以上、保全が取れるまで帰宅できません。明確な規則はないのですが、それが掟と言わんばかりに、帰れない雰囲気が醸成されるのです。いま振り返れば、その掟が経理部の私たちに適用されることはなかったことが、長く勤められた要因のように思えます。

「おはようございます」

 翌朝、事務所に入ると、生温かく男くさい空気が充満していて、複数の人の気配を感じました。営業部では、伊東部長と小田さんが机に伏せて寝ており、起こさぬよう給湯室に向かいます。

 コーヒーを落とし、流しで山になった店屋物の器を洗い終えた私は、掃除機の使用は後回しにして、応接室の拭き掃除から始めることにしました。応接室の扉を開くと、佐藤さんと藤原さんが出入りを塞ぐように座っており、テーブルの向こうには80代と60代に見える2人の見知らぬ男性が項垂れています。

「あら、ここにいらしたのね。おはようございます。お茶をお持ちしましょうか?」
「うん、コーヒーをいれてくれたらうれしいよ」
「お客さまも、コーヒーでよろしいですか?」
「あ、はい……。私なんかに、いいんですか? ありがとうございます」

 顔をあげた60代と思しき男性は、何度かテレビで見たことのある人で、あとで歌手のAさんだと知りました。どのような歌を歌っていたかは覚えていませんが、そこそこに有名な演歌歌手の方なので、学生時代に見たことがあったのです。まもなくして社長が出社されたため、すぐにコーヒーをお出しすると、いつの間にか起きていた伊東部長が社長室に入ってきました。

「おはようございます。昨夜、時間が遅かったこともあって取れなかったので、体だけ押さえています。これから電話帳を洗わせて、金を作らせます」
「そうか。よく捕まえたな。どこにいたんだ?」
「自宅にいました。あいつ、タニマチの女に手を出しちゃったそうで、〇×会の親分に3000万円も取られたと話しています。逃げたくても金がなくて動けなかったみたいですね」

 結局、携帯電話に入っている電話帳の上から下まで電話をかけろと詰められたAさんは、午前の内に数人の友人から金を借りる約束を取り付けました。

「おやじがガンになっちゃってさ」
「ちょっと交通事故を起こしちゃって、示談金が必要なんだ。ほら、マスコミに出たら、まずいじゃない……」

 隣で俯く実父に気を配ることなく、息を吐くようにウソをついて、相手が快諾するたびに喜ぶAさんの姿は見苦しく、そのすべてを週刊誌に暴露してやりたい気持ちに駆られた次第です。

※本記事は事実をもとに再構成しています

(著=るり子、監修=伊東ゆう)

 

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