“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。
目次
・2年間で延べ50校の学校説明会に参加
・手作りの資料で娘とコミュニケーション
・肌で感じた学校や生徒の「雰囲気の良さ」
・データだけでなく「我が子に合う」学校を
中学受験は「親子の受験」とも呼ばれる。12歳での挑戦になるので、親がかりになるのは否めない。親の仕事は多岐に渡るのだが、その中でもいちばんの肝となるのが「学校選び」だ。
親たちはどうしても偏差値や大学合格実績といったデータに目がいきがちになるが、学校は生き物。数字や資料だけで「学校を知る」ことは不可能なのだ。やはり、その学び舎に流れている空気を肌で感じることが何よりも大切になる。
2年間で延べ50校の学校説明会に参加
和歌子さん(仮名)は現在中学2年生の娘、紗良さん(仮名)が小4から小6までの2年間に、延べ50校ほどの学校説明会に出向いたという。
「私自身は公立中学出身です。当時、私の住んでいる地域には中学受験はお金持ちで賢い子がするものという暗黙の了解がありまして、お金持ちでも賢くもない私はそのまま地元の中学に入りました。そこから高校受験をしたわけですが、内申で行ける公立高校は事実上、決まっていたんです。〇点だからA高校という具合で、選択の余地もなかったです。私立もあるにはありましたが、公立の受け皿という扱いでしたから、公立に行ける子はほぼ全員、その判定に従うのが普通だったんです」
和歌子さんは「自動的に」学区の上から3番手にあたるのC高校に入学したそうだ。
「本当は2番手のB高校に行きたかったんです。でも、受けることもできず……。そんな思いで入学したせいかC高校にはまったくなじめませんでした。考えてみたら、私はどんな学校かも知らないで入ったんですよね。なので娘にはそんな思いをさせたくなくて、中学受験をすすめたんです。自分の好きな学校を選んで行けるって、すごく大事なことだと思って。でも娘自身は受験勉強で忙しいので、私が説明会に参加して、代わりにしっかりと学校を見定めようと思いました」
手作りの資料で娘とコミュニケーション
学校説明会は講堂や体育館などを会場に、学校側が受験生の保護者に対して「学校を伝える」目的で行なうもの。一般的に、教育方針・指導要領・進学実績・生徒の様子などが説明される。
「私は地方出身者なので、首都圏の私立中学のことは何も知りませんでした。でも、逆に変な先入観がなかったのが良かった気がします。偏差値の上下とか、伝統があるとかないとか関係なく、純粋に娘に合う学校を探そうという思いだけで説明会に行けたからです」
和歌子さんはそれぞれの学校ごとにチェックリストと質問事項をまとめたノートを作成し、気になる学校には複数回出向いたという。
「公立育ちの私には、私立学校の施設や設備の豪華さにはときめくものがありました。説明会に行けば行くほど、やはり娘にはいろいろな面で充実した学び舎で過ごしてほしいと思いましたね」
和歌子さんは見学した先の校舎、制服、カフェテリアのメニューなどを得意のイラストで描き、紗良さんの興味を惹くようなオリジナル資料を作ったそうだ。
「それ以外にも、どこに修学旅行に行っているとか、部活は何があるとか、その学校独自の行事だとか、紗良が『これ、楽しそう!』と思うであろうことを中心にイラストの横に文章を添えてノートにまとめました。学校紹介の動画を見せるのがイマドキかもしれませんが、YouTubeは何かと誘惑が多いので(笑)、我が家では寝る前にノートを見ながら母娘で『この学校、校内で猫を飼っていた』とか『ここは制服がイマイチ』『実際に見学に行こうか』なんて話をしていましたね。こんな感じでコミュニケーションすると、同じ目標を持つ戦友みたいになれるのでおすすめです」
学校説明会では先生や生徒自身が説明するので、実際に進学した場合のイメージもわきやすい。
「やっぱり生徒さんが学校の主役だと思うので、彼らがどんなふうに過ごしているのか、楽しそうか、明るいか、授業には集中しているか、礼儀正しいかということはチェックポイントの上位に当たります。いろんな学校に行ってみると、本当に雰囲気が全然違うんだなということがわかって、おもしろかったです」と和歌子さん。
そんな中で、和歌子さんは「ここならば、絶対娘に合う!」という学校に出会ったそうだ。
肌で感じた学校や生徒の「雰囲気の良さ」
「説明会の後、学校見学ツアーが行われる場合があるのですが、T学園は保護者のグループごとに生徒さんがガイドしてくださるんです。もともと、雰囲気が良い学校だなぁと好印象を持っていたんですが、どの回にうかがっても、生徒さんたちが本当に良い子でした。育ちが良いっていうんですかね、どの子も感じがいいんです。学校が一人ひとりを大切にしているということが透けて見えて、ここならば紗良は穏やかに楽しい毎日を送れそうだなって思いました」
5年生の秋、母娘は満を持して、和歌子さんが推薦する数校の文化祭に出向いたという。
「6年生になると忙しすぎて文化祭にも行けないと聞きましたので、5年生の段階である程度の志望校選定は終えておきたかったんです。思ったとおり、紗良はT学園の大ファンになりまして、そこから真剣に勉強し始めました。やっぱり人間、目標が具体的に絞れたら、それに向かって努力できる生き物なんですね。それで、6年生になる頃にはT学園に届く成績を取ってくるようになったんです」
それからも、和歌子さんはこの決定に間違いがないかを確認すべく、受験の可能性がある他T学園以外の学校の説明会にも、引き続き参加していたそうだ。
「これはオマケの話でしかないのですが、あまりに足繁くT学園に通ったものですから、先生方に顔と名前を覚えられてしまって(笑)。合格発表の際には、顔見知りの先生から『本当にお待ちしておりました』とのお言葉までいただき、入学前から親子で感激したほどです」
データだけでなく「我が子に合う」学校を
現在、紗良さんはテニス部でレギュラーとなり、学園生活をますます謳歌している最中だというが、それは和歌子さんも同じらしい。
「実は私も保護者用の合唱サークルに入りまして、文化祭でのお披露目に向けて特訓中なんです。紗良のおかげで、満たされなかった学校生活を取り戻せているような感じがしています。やっぱり、自分に合う場所に身を置いたほうが絶対に楽しいですし、その環境を自ら選べるというのはたまらなく魅力的ではないでしょうか。親として娘にそういう環境を用意してあげることができて、とても満足しているところです」
賛否両論がある中学受験であるが、筆者の取材経験では、和歌子さんのように数字などのデータにとらわれず、「我が子に合う」という視点で学校選びをした家庭の満足度は高いという印象を持っている。中学受験の参考になれば幸いだ。