“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。
目次
・「本気度」が足りないと満足度が下がる
・中学受験、ハマると危険な4つの「沼」
・小学校低学年のうちに考えておきたいこと
・才能が開花し、笑顔で過ごせる学び舎に
長らく連載してきました『“中学受験”に見る親と子の姿』も、いよいよ今回で最後となりました。今までたくさんの事例をご紹介しながら、メリット・デメリットをさまざまな角度からお伝えしてまいりましたが、最終回では中学受験をお考えの親御さんへ、筆者からのメッセージをお届けしたいと思います。
「本気度」が足りないと満足度が下がる
まず最初にお伝えしたいのは、中学受験は高校受験とは違い「やってもいいし、やらなくてもいい」という類いのものだということです。身も蓋もない話になりますが、「やりたい人だけ」が参加する受験ということは、しっかり押さえていて欲しいと思います。
幾多のご家庭を取材してきましたが、「本気度が足りなかった」と中学受験を後悔している親御さんは少なくありません。
このようなご家庭の参入動機は、「仕事先やご近所がみんな、中学受験をしている」「メディアが中学受験をしなければ人生詰むくらいの勢いで煽りたてる」「公立中学の内申制度が信頼できない(と耳にした)」といったもの。どちらかと言えば「なんとなく周りに流されて」という感じで、「動機」としては弱いのです。
良いか悪いかは別として、中学受験は1点の差が命運を分ける戦いでもあります。高偏差値校になればなるほど、「なにがなんでも〇中学!」という死に物狂いの日々を送っておられる大勢の受験生たちとの「合格」を賭けた椅子取りゲームの要素が強まるのは否めません。
そういう熾烈な世界だからこそ、「中学受験したほうが良さそうなのでなんとなく塾に行かせるけど、落ちたら公立に行けばいい」という方針では、結果として受験に対する満足度が下がるという印象を持っているのです。
中学受験、ハマると危険な4つの「沼」
私は「やるなら本気でね」と助言したいと思います。この連載でも繰り返し述べてきましたが、すべての物事にプラスマイナスが存在しているように、中学受験も良いことばかりではありません。むしろ、さまざまな「沼」が待ち受けていると言えるでしょう。「課金沼」「偏差値沼」「比較沼」「やる気沼」などに親子でハマり込み、その底なし状態に心身が疲弊することのほうが、実際多い世界なのです。
なかでもいちばんは「課金沼」でしょうか。現実問題、中学受験はお金がかかります。さらにその先、中高大での教育費も延々と続きます。中高一貫校に行けば「塾いらず」というのは、もはや都市伝説。日本の教育は「学校」と「塾・予備校」とのセットで成り立っているのではないかと思うほど、その利用率は高いです。
かけようと思えば無限にかけられるのが教育費ですが、ご参考までに平均的な数字を申し上げれば、小4から小6までの塾代で250万円くらい。私立中高一貫校の6年間で600万円超。私立大学文系の4年間で480万円超、私立大学理系で600万円超。当然学校によっても違いますが、単純にならすと年間100万円以上はかかってくるという計算になります。
留学、芸術系大学、医歯学部、大学院などを考えている場合は、さらに入念な予算の見積もりが必要になります。
実際「お金じゃないけど、お金よね」という面も大きく、予算がないならないなりに、戦術を検討しなければならないのです。声を大にして言いますが、教育費はかければかけるほど良いというわけではありません。ただ、ない袖は振れませんので、中学受験に参入する前にかならず家計調査をして、ひとりあたり年間100万円超の教育費がコンスタントに支出できるかを検討してみてください。
次は「偏差値沼・比較沼」について。人間は社会的動物ですので、ある意味「他者との比較」の毎日を送っています。現実問題として、隣の子の受験結果は気になるでしょうし、志望校の大学進学実績や偏差値、倍率にも振り回されることになるでしょう。我が子が取ってくる数字は最大の関心事ですので、一喜一憂する日々が続いてしまいます。
しかも、この沼は特にタチが悪く、親が数字に振り回されすぎると、結果的に親子関係が悪くなりやすいんです。親も人間、「ヨソはヨソ、ウチはウチ」だと頭ではわかっていても、実際に己の道を貫き通すのは至難の業だからです。
最後は「やる気沼」です。中学受験における親の悩みのトップは「子どもにやる気が見られない」というもの。けれども、その心の奥底に「親である自分が、こんなに手間も時間もお金もかけているのに、なぜやる気を見せない?」という自己憐憫が見え隠れする場合があるのです。子どもからしたら「親の身勝手な暴走」に映るのかもしれません。
以上が、中学受験のおもな“危険な沼”になります。どの場合にしても、このような底なし沼にハマり込むのは、なるべくならば避けねばなりません。
小学校低学年のうちに考えておきたいこと
そのためには、各ご家庭での「教育方針の確認」がやはり最重要項目になります。「我が子をどう育てたいのか?」という夢と希望と現実を俯瞰で見ながら、「我が家流の子育て」を考え、できれば文章にして残しておくことをおすすめします(文字にした方がより客観的に見られるからです)。
その前段階として、少なくとも小学校低学年のうちに親が考えたほうが良い項目をお伝えしましょう。
・子どもの希望という大前提はありますが、「親として」望む進路は何か? 大学進学であるならば、それは国内大学か? 海外大学か? 学部はどこか? までを想定してみる
・インターナショナルスクールや私立小学校へ編入の可能性はアリか、ナシか? の答えを出してみる
・地元公立中学進学はアリか、ナシか?(実際に学区中学の様子をリサーチしてみてください。内申制度も含め、上質な教育方針の公立中学も多数存在します)を考える
・我が子にとって、中学受験を経て「中高一貫校」に進学するメリットは何か? をリストアップする
・苛酷な勉強時間を強いる“ガチ受験”か、新タイプ入試などを利用する“ゆる受験”か? を検討する
現在、文科省が推し進めているのは「未来を生き抜く力」を得るための教育です。自分自身で物事を考え、決断し、実行する力を育もうという方針のもと、改革が進められている最中です。大学受験制度も目まぐるしく変化しており、その余波を受けて中学・高校受験も各学校で試行錯誤をしている面があります。受験はさらなる情報戦になっていますので、今まで以上に信頼できる情報を集め、自分の目できちんと確かめることが大切です。
子育ての最終目標は「巣立ち」とはよく言われる言葉ですが、中学受験を考えている親御さんには、「我が子の未来にとってどういうサポートをすることがベストか?」をじっくり考える時間を取っていただきたいです。
才能が開花し、笑顔で過ごせる学び舎に
私はどの子にも才能があると信じています。人よりもちょっとだけ得意なこと……例えば、集中力がある、本を読むのが好き、運動神経が良い、観察眼がある、自分の意見を持っているなど、親でしか気付けないような、ささやかだけど、ちゃんと存在している才能の種が見え始めるのが小学生の頃かと思います。この種がやがて芽吹いていくために、親として何を行なえばいいのかを真剣に考えて欲しいのです。
人は適切な時期に適切な場所にいることで、もともと持っていた才能を開花させることができます。その場所を整えてあげられるのは親だけ、環境は非常に重要です。特に私学は理念ありきで運営されていますので、学校の空気が我が子に合うかどうかはいちばん大切な要素になります。どの学び舎に置いてあげれば、我が子の笑顔が見られるのか? ということを中心に悩んでください。
未来は誰にもわかりません。ですが、一生懸命悩んだ結果、「この道がよかろう」と下した判断ならば、例え最終目的地に変更があったとしても、プロセスに間違いはないはず。決めたら迷わず、「親としての決断」を信じることです。
子育ては「迷い」と「戸惑い」の連続ですが、縁あって親子となったのですから、子育ての「今」をぜひ、全力で楽しんでください。引き続き、すべてのママ、そしてパパたちを応援しております。
長きにわたり、この連載を読んでくださいまして、本当にありがとうございました。また、どこかでお目にかかれることを楽しみにしています。(完)
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