“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)
そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。
目次
・履歴書の職歴に、10年ほどのブランク
・介護を言い訳にすれば、何でも許されるわけではない
履歴書の職歴に、10年ほどのブランク
総務省の調査によると、介護をしながら働く人は2022年でおよそ365万人。介護で離職する人は年間およそ10万6,000人にのぼっている。介護休業や介護休暇など制度は整ってきつつあるが、それでも仕事と介護を両立するのは難しいということだろう。
そんな「介護離職」にまつわる裏話を耳にした。
梶本芙美さん(仮名・57)は、海外のハンドメイド製品の輸入販売をしている。人手不足は、梶本さんの業界も同様だ。店舗を運営するほかにも、全国のギャラリーなどを回り、展示販売もしているので、梶本さんは常にフル操業だ。
自分の年齢や健康を考えると、梶本さんに替わって全国を回れるスタッフを見つけ、育てる必要がある。数年前から試行錯誤しているのだが、出張が多いことがネックになって、これまでに採用した女性はなかなか長続きしない。扱っている商品や客層を考えて女性ばかり採用してきたが、思い切って男性を採用してもいいのではないかと考えるようになった。
ハローワークに求人を出すと、早速40代の男性Aから応募があった。接客ははじめてだというが、人当たりもよく、採用することにした。ただ、ひとつ気になったことがある。履歴書の職歴に、10年ほどの長いブランクがあったのだ。
「本人に確認してみると、親を介護していたということでした。母一人子一人で、自分が会社を辞めて介護するしかなかったと。介護サービスを使ってはいても、男性が在宅で母親をみるのは大変だったと思います。でもその介護経験が、高齢女性のお客さまが多いうちの店では役に立つこともあるだろうと、前向きにとらえていたんです」
梶本さんにも高齢の母親がいるし、介護や子育てをしているパートのスタッフもいる。だから、なるべく仕事を続けられるように配慮してきたつもりだった。だから、Aさんのブランクもそう気にすることはない。Aさんの久方ぶりの仕事復帰を応援しようと考えていた。
介護を言い訳にすれば、何でも許されるわけではない
しかし――3カ月の使用期間を経て、Aさんが本採用になることはなかった。
「介護でブランクがあるから、とずいぶん大目に見てきましたが、接客がまるでダメ。というより接客以前、コミュニケーション自体がまったくできていないんです。いくらこれから教育するといっても、コミュニケーションにこれほど支障があるのではさすがに使い物にならないと、本採用はお断りしました。Aさんが介護離職したというのも、介護は建前で、本当は彼自身に問題があったんだろうと思いました。介護していたと言えば、何でも許されるわけではないですよ」
それ以来、梶本さんは、「介護で仕事を辞めた」とか、「介護しているから」と介護を言い訳のように使う人を疑ってしまうようになったという。
「介護を免罪符にするのは違うと思うんです。それはそれ、これはこれとして、公正に判断しようと思っています」
特に「介護で……」という男性は要注意、と自戒する梶本さんなのだ。
同じような言葉を船津康介さん(仮名・56)からも聞いた。
「介護離職が増えていると言いますが、離職の原因は違うところにあるケースも多いんじゃないかと思います」
ーー続きは9月15日公開