食品スーパーに関する疑問や消費者が知らない裏側を、創業105年にあたる2017年に倒産した老舗スーパー「やまと」の元3代目社長で『こうして店は潰れた~地域土着スーパー「やまと」の教訓~』(商業界)の著者・小林久氏に解説してもらいます。今回のテーマは「高級スーパーの今後は?」。
目次
・高級スーパーは今後どうなる?
・成城石井の大株主はローソン、 紀ノ国屋はJR東日本の子会社
・ザ・ガーデン自由が丘、ピーコック……苦しい高級スーパーの共通点とは?
・高級スーパーの成否を左右するのは「立地」?
・高級スーパーの目指すところは「ライフスタイルの提案」
「成城石井」「紀ノ国屋」、高級スーパーの今後は?
みなさんは「高級スーパー」と聞いてどんなイメージを思い浮かべるでしょうか?
明るく洗練された店内に一歩足を踏み入れると、厳選された「こだわり商品」や「プライベートブランド」、専門店にも負けない総菜や高級生鮮食品が目に飛び込んできます。そこは日常の買い物がちょっとしたぜいたくな体験へと変わる場所です。時間の流れもゆったりしていて、私がいつもお世話になっている「ひと山いくら」のディスカウント店とはまるで景色が違います(笑)。
しかし、変わり続ける市場環境の中で、こうした高級スーパーが安泰であり続ける保証はどこにもありません。私はかつてローカルスーパーの経営をしていた立場から、業界の栄枯盛衰を間近で見てきました。今回は、その視点から「高級スーパーの今後」を考えてみたいと思います。
有名な高級スーパーといえば、「成城石井」「紀ノ国屋」、そして関西圏の「いかりスーパー」などの名前が挙げられます。それぞれが高いブランド力を持ち、その店で買い物をすることが一種のステータスにもなります。たとえば「紀ノ国屋」のエコバッグを持つことは、ちょっとした自慢になったりもします。
顧客が買い物を通じて得るのは、商品そのものだけでなく、その体験や満足感です。まさにブランドイメージが店の「商品」であり、それを裏付ける品揃えやサービスは(価格も含めて)とてもレベルが高いものです。その結果、一度ファンになればお客さんは離れることが少なく、一般のスーパーに比べて競合他社との過当競争に巻き込まれにくいという強みがあります。
成城石井の大株主はローソン、 紀ノ国屋はJR東日本の子会社
簡単に代表的な高級スーパーの特徴を挙げてみましょう。
高級スーパー業界1位で売上高1,000億円を超える「成城石井」は、輸入食品やワインの品揃えが豊富で、海外の食材を手軽に購入できる点が魅力です。またプライベートブランド商品も多く、その品質が高いと評判です。大株主はコンビニの「ローソン」である点も興味深いところです。
「紀ノ国屋」は、成城石井の「洋」に対して「和」食材や高級惣菜に力を入れており、弁当をはじめとするデリカのクオリティが高いのが特徴です。JR東日本の100%子会社であるため、今後は駅ナカへの展開も予想されています。
「いかりスーパー」は、オーガニックやナチュラル食品に特化して健康志向の消費者に支持されています。アレルギー対応の商品や無添加食品が豊富に揃い、「芦屋のマダム御用達」とも言われる、関西有数の高級スーパーです。現在そこに「阪急オアシス」が猛追しています。
現在、高級スーパーの営業成績は「成城石井」を筆頭に順調に推移しています。ほかのスーパー同士の価格競争を尻目に、「こだわり商品」や「プライベートブランド」の拡充により、高い最終利益率(一般スーパーが1~2%のところ3~5%)を確保しています。
こうした高級スーパーの強みは、圧倒的なリピート率にあり、一度ファンになったら最後、もう普通のスーパーには戻れないほどの「中毒性」があります。しかし、ここ数年で少し風向きが変わりつつあるのです。
ザ・ガーデン自由が丘、ピーコック……苦しい高級スーパーの共通点とは?
ここに挙げた代表的な高級スーパー以外にも、「ザ・ガーデン自由が丘(正式名称:シェルガーデン)」「もとまちユニオン」「ピーコック」「クイーンズ伊勢丹」などがありますが、売上減少や閉店が相次ぐなど、厳しい状況に直面している会社も少なくありません。
私はこれら伸び悩む高級スーパーの共通点が、「経営母体の変更によって生じた固定客離れ」にあるとみています。
「ザ・ガーデン」は元西武百貨店系列からセブン&アイHDに替わった結果「セブンプレミアム」が、「もとまちユニオン」は経営母体が京急ストアに替わって「京急のPB商品」が、「ピーコック」では大丸百貨店時代の高級イメージからイオン傘下となり、値ごろ感のある「トップバリュ」が販売されるようになりました。
親会社との相乗効果を狙うのは経営の鉄則ですが、日常の買い物がぜいたくな体験へと変わる高級スーパーで、ほかの一般スーパーでも買える「PB商品」を顧客が求めるでしょうか。
かたや「成城石井」や「紀ノ国屋」の経営が堅調なのは、親会社であるローソンやJR東日本がそれぞれの独立性を尊重し、ブランドイメージの向上を最優先した結果だと思います。おそらくイオンやセブン&アイも高級路線を成功させるために、今後さまざまな手を打ってくることでしょう。
高級スーパーの成否を左右するのは「立地」?
加えて、全国各地に点在する小規模な「高級スーパー」や「こだわりスーパー」も経営不振の店が少なくありません。物価上昇に実質賃金が追い付かない状況では、消費者も価格に敏感になります。そのため、それまで来店していた顧客が他店へ流れてしまうことも珍しくありません。
高級スーパーの成否を左右するのは、その「立地」です。高価格帯の商品を購入する客層が住む地域は限られており、「共存共栄」できるほど市場は大きくなく、新規の出店余地は限られています。
そして、高級スーパーが商品開発やノウハウを多店舗展開するには、豊富な資金力や人材が必要となります。「成城石井」や「紀ノ国屋」がローソンやJR東日本といった大資本の傘下であることが、その現実を物語っています。
高級スーパーの目指すところは「ライフスタイルの提案」
世の中には、お金に糸目をつけずに買い物できる人が全体の2%ほどいるそうです。できることならいつも高級スーパーで買い物をしたいものですが、多くの人にとってそれは難しい話です。
高級スーパーでも「お買い得品」や「サービス品」のPOPや値引きシールが多いのは、「価格」が無視できない要素であることを示しています。富裕層が相手ですから、確かに価格は二の次ではありますが、三の次ではありません。
そんな高級スーパーの今後の方向性を考える中で、アメリカで人気の高級スーパー「ホールフーズ・マーケット」や「トレイダー・ジョーズ」が良いお手本になります。両社は食品以外の生活雑貨も含め、オーガニック商品やフェアトレード・SDGsへのこだわりなど、自社の理念に基づく「総合的なライフスタイルの提案」を積極的に進めています。
その結果、顧客に「私が推す店」という特別なブランド力とリピート率を得て成長を続けています。ハードルは高いですがこれこそ高級スーパーの目指す道だと確信しています。
さて、いつも利用している高級スーパーが、これからもあなたの生活に彩りを与えてくれますように!