【サイゾーオンラインより】
物語も終盤を迎え、さらなる盛り上がりを見せている連続ドラマ『ホットスポット』(日本テレビ系)。特にネット視聴に強く、TVerや全話配信中のNetflixでは再生数ランキングで1位となる日も多い。
すでにテレビ業界でブランド化している“バカリズム脚本ドラマ”だが、今作はキャストの演技力の高さも見どころ。中でも、ネット上では主人公のビジネスホテル従業員・遠藤清美を演じる市川実日子に対し、「こんなに芝居がうまかったんだ!」と驚いた視聴者も少なくなかったようだ。
なお、ファッションモデルとしてデビューした市川は、1998年に俳優デビュー。2003年に初主演映画『blue』で「第24回モスクワ国際映画祭」最優秀女優賞を受賞し、17年公開の『シン・ゴジラ』では「第40回日本アカデミー賞」優秀助演女優賞などを獲得した。
民放連ドラ主演は『ホットスポット』が初となる市川だが、彼女の演技がここまで支持される理由はなんだろうか? 舞台企画制作や俳優のマネジメントと育成を行うプロダクション「THEATER LAB TOKYO」の代表を務める演出家で俳優の秋草瑠衣子氏に解説してもらった。
目次
・市川実日子の「演技力と存在感」
・市川さんは「本当は別のことをしている」演技がうまい
・清美の立ち振る舞いは、市川さんのポジションそのもの
日常的な会話劇は「派手な演出」ではごまかせない
『ホットスポット』は、23年に話題を呼んだ同局系ドラマ『ブラッシュアップライフ』の脚本を務めたバカリズムさんと制作チームが再集結したオリジナルドラマということで、今作も同様に「会話劇の面白み」がメインになっています。
日常的な会話劇で面白く見せるには、大幅なテンションの起伏や派手な演出などではごまかせない演技力が必要ですが、今回はさらに日常会話の中にSFの要素が入ってくる……そこのギャップの“おかしさ”を表現するために、俳優の実力はより問われるのではないかと思います。
鈴木杏さん、平岩紙さん、木南晴夏さん、池松壮亮さん、夏帆さん、坂井真紀さん、東京03・角田晃広さん、小日向文世さんなど、さすがすぎる実力派キャストの演技を存分に堪能できる中、市川さんの演技力の高さと存在感は印象的です。
市川さんもほかのキャストの皆さんと同様、名バイプレイヤーというイメージがあり、本作で主演は初めてとのことですが、実は以前からドラマや映画の助演女優賞は多数受賞されているかなりの実力の持ち主。
そして、今作での市川さんは、そのシーンやカットの意味や物語上での必要性をよく理解した上で、その場に立っていらっしゃるなと感じます。
市川実日子の「本当は別のことをしている」演技
市川さんの演技で注目していただきたいのは、会話劇とはいえ、やはり“身体”面です。
たとえば、ホテルのフロントで同僚役の夏帆さんや坂井真紀さん、角田さんと会話するシーン。話し相手のほうに目線をあまり送らず、何かしらの作業をしている自身の手元を見ていることが多く、「就業時間内なので仕事をしているように見せて、まったく関係ない会話をしている」という演技がとても上手です。
このほかにも、「仲間とお酒を飲みながら、ほかの席の客を観察する」とか、「何かを食べながら考えごとをする」とか、「人の話を聞いているフリをしながら、別の考えごとをする」といったように、何かをしながら本当は別のことをしている……という演技が目立つ市川さん。
そのようなシーンでは、目線と意識の方向が違ったり、手元の動きが明確ではなかったりと身体でうまく表現されていて、市川さん演じる清美の性格もよく表れているように思います。
清美の立ち振る舞いは、市川さんのポジションそのもの
また、そのような清美の立ち振る舞いは、どことなくこのドラマのキャスティング上における市川さんのポジションそのもののようにも思えるのです。
先ほど名前を挙げた俳優さんのほかにも、ココリコ・田中直樹さん、菊地凛子さん、眞島秀和さん、MEGUMIさん、志田未来さん、大倉孝二さん、野間口徹さん、安藤サクラさんなど、本当に錚々たる名俳優が揃っている中で、主演という真ん中のポジションを全うするには、相当のバランス力と流されないクールさが必要なのではないでしょうか。
“実力派の豪華俳優で固められたSF日常会話劇”というある意味めちゃくちゃな『ホットスポット』は、市川実日子さんが主演だから成り立っているのかもしれません。