開局70周年を迎えたラジオ業界の“絶対的王者”に異変が生じている。
2001年から約20年もの間、首都圏の聴取率首位を守り続けてきたTBSラジオが、今年6月の聴取率調査で転落したのだ。代わりにトップに立ったのは、FM局のJ WAVE。その後に行われた「8月度首都圏ラジオ個人聴取率調査」(ビデオリサーチ調べ)で、TBSラジオはTOKYO FMと同率1位となり、かろうじて返り咲いたものの、10月の調査ではそのTOKYO FMに単独首位を明け渡している。
潮目が変わったのは、2018年6月、TBSラジオの社長に三村孝成氏が就任してからだ。同氏は広告代理店「読売広告社」を出発地点として、J-WAVE入社後は編成局長などを歴任。05年に現在のTBSラジオに飛び込んでいる。
「同氏の理念と方策は明確です。これまで“聴取率”だけを経営指標のメインにしたことに疑問を感じ、聴取率にこだわらなくなったこと。さらに聴取率を測定する期間だけ特別編成を行う『スペシャルウィーク』を完全撤廃し、その間も通常通りの番組を貫いたのです」(芸能ライター)
テレビの視聴率のように365日測られるものとは違い、ラジオの聴取率測定は2カ月に一度。そのためだけに、普段なら来ないようなゲストを応急処置的に仕込むというリスナーを増やすのは違うのではないか、という判断だ。
「確かにそれは一理あるでしょう。しかし、スペシャルウィークはいわば、ラジオならではの“お祭り”。例えば『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)では、他曜日のパーソナリティーが別の曜日にゲスト出演するなどして盛り上げていた。リスナーを喜ばせて、ムーブメントになっていくという、数字だけでは測れない有益なことがあるのです。一方、三村氏が語るインタビュー記事を読むと、広告、マーケティング、セールス、サービス、さらには『放送ビジネスのデジタルトランスフォーメーション』『リスナーファインダー』など、とにかく難解な言葉ばかりが飛び交っています。いかにも広告代理店出身の人間というか……つまり同氏は、リスナーファーストではなく、スポンサーファーストなんでしょう」(放送作家)
TBSラジオの“ご乱心”はスペシャルウィークの廃止だけではない。
19年3月、それまで24年間放送されてきた『荒川強啓デイ・キャッチ!』が謎の終了を告げた。同番組は平日の夕方帯枠の生ワイド番組。その後この枠に新設されたのが『ACTION』で、荒川より一回り世代の若い、例えば宮藤官九郎やクリープハイプ・尾崎世界観、Creepy Nuts・DJ松永といったクリエイター寄りの人材を日替わりパーソナリティーに据えていたが受け入れられず、わずか1年で撤退。
ほかにも、久米宏が14年続けてきた『久米宏 ラジオなんですけど』も昨年6月、聴取率は良かったにもかかわらず打ち切りに。後番組は、フォーリンラブ・バービーが担当する『週末ノオト』というトーク番組になった。
「荒川、そして久米ともに高額なギャラがネックになっていたのは確かですだが、長年のリスナーもろとも切り捨てるような動きは、コストカット最優先の非情さを感じてしまう。TBSラジオが連綿と培ってきた、どこか牧歌的な温かいイメージに逆らうような判断の先に待つのは、リスナー離れでしょう」(同)
そんな三村社長をたびたび揶揄していたのが、何を隠そう、今、取り沙汰されている伊集院光その人だ。
「伊集院はたびたび『月曜JUNK 伊集院光 深夜の馬鹿力』(TBSラジオ)の中で同社長を“敏腕”と呼んではトークのネタにしていました。そこへ降って湧いたのが、『伊集院光とらじおと』(同)での、フリーの新井麻希アナウンサーへの“パワハラ疑惑”です。同番組は来春の終了が報じられていますが、上層部はこの疑惑を利用して、一気に伊集院降ろしに動いたといわれています。『深夜の馬鹿力』の動向も気になりますね」(芸能関係者)
くしくも13日から12月度の聴取率調査が始まっているが、先の社長の号令のもと、TBSラジオだけは通常運転するという。その数字が判明するのは来年1月末。聴取率の代わりにインターネットラジオ・radiko(ラジコ)を重視し、そこから聴取状況を把握していると同氏は喧伝しているが、果たしてTBSラジオの聴取率はどんな結果を迎えるのだろうか?
(村上春虎)